地方移住して事業承継

事業承継に積極的に取り組んでいる自治体7選

コラム

地方移住して起業したいけれど、資金面で心配、ネットワークづくりに不安があるなど、一歩踏み出せないという人もいるのではないかと思います。

一から起業となるとハードルは高いですが、もともとある事業を承継する方法もあります。近年、地方移住者の事業承継が注目されているのをご存じでしょうか。

この記事では、事業承継のメリット・デメリットや、地方移住者が事業承継を行うにはどうしたら良いかをお伝えします。

事業承継とは

「事業承継」とは、会社の経営権を現在の経営者から後継者へ引き継ぐことです。

「事業承継」というと、子どもが親の事業を継ぐイメージが強いと思いますが、ここ数年は近親者ではない第三者による事業承継が増えています。

地方移住者による事業承継は、伝統産業などの後継者不足の解消だけでなく、第三者ならではの新たな視点により再活性化することも期待されています。


事業承継の課題

経営者の高齢化

帝国データバンクの調査結果によると、2021年の社長の平均年齢は60.3歳で、31年連続で過去最高を更新しました。社長の年代別の割合は50代が27.6%、60代が26.9%、70代が20.2%となっており、高齢化が進んでいることがわかります。

出展:帝国データバンク 
全国「社長年齢」分析調査(2021年) (tdb.co.jp)

 

労働人口の減少

総務省の調査によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少しており、2050年には2021年と比べ29.2%減の 5,275万人に減少すると見込まれています。

生産年齢人口の減少により、労働力の不足、国内需要の減少による経済規模の縮小など、様々な社会的・経済的課題の深刻化が懸念されています。

出展:内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書」

総務省|令和4年版 情報通信白書|生産年齢人口の減少 (soumu.go.jp) 

近年、少子化の影響もあり、中小企業・個人事業主の経営者の高齢化がすすんでいます。 
後継者不在で廃業する企業も多く、事業承継は大きな課題となっています。

 

事業承継のメリット

社内的に大きな課題となっている事業承継ですが、地方移住者が事業承継を行った場合、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。

 

技術やノウハウを引き継げる

現在の経営者が長年かけて培った技術やノウハウを引き継ぐことができるのは、事業承継のとても大きなメリットです。

起業する場合は、経営者としてのスキルを一から習得する必要がありますが、事業承継は設備などのハード面のみならず、技術やノウハウなどのソフト面も引き継ぐことができるのです。

 

利益を得やすい

あらかじめ事業として成功しているものを引き継いだ場合、事業承継後も安定した利益を得ることが可能です。 
また、一から起業した場合は初期費用が多くかかるものですが、事業承継の場合はその心配はありません。

 

地域や社会によい影響を与える

会社を廃業せず継続することにより、地域や社会によい影響を与えることができます。従業員の雇用を守る、取引先とのつながりを持続する、地域を活性化させる、伝統文化を承継する、地域のコミュニティづくりに貢献するなど、その影響は計り知れません。

 

事業承継のデメリット

事業承継を行うとメリットがたくさんあることが分かりましたが、反面デメリットもあることを知っておく必要があります。

 

従業員や親族の反発

第三者が事業承継を行った場合、現従業員や経営者の親族から反発を受ける場合があります。それを回避するには、社内の関係性を見直し、十分な実績をつくることが必要です。

 

負の資産を引き継ぐ

資産がプラスのものだけならよいですが、借入金などの負債があった場合はそれも引き継がなければなりません。事前に事業の経営状態をよく調べておく必要があります。

 

長い期間が必要

事業承継はただ引き継げばよいものではなく、また短期間でできるものではありません。M&Aでも約1年、従業員や親族に引き継ぐ場合は短くても3年~5年はかかるといわれています。長い期間がかかることを想定し、あらかじめ計画的に準備を行ったほうがよいでしょう。

 

地方移住者が継業を探す方法

次に、地方移住者が継業を探すには具体的にどのようにしたらよいのかをお伝えします。

 

公的機関に相談する

事業承継に興味があるものの何から始めてよいか分からない方は、まず情報収集のうえ、公的機関に相談してみることをおすすめします。

 

事業承継・引継ぎセンター

事業継承・引継ぎセンターは全国47都道府県に設置されており、中小企業の事業承継に関するあらゆる相談に対応しています。

トップ|事業承継・引継ぎポータルサイト (smrj.go.jp)

 

中小企業庁

中小企業の円滑な事業承継を支援しています。

中小企業庁:財務サポート「事業承継」 (meti.go.jp)

 

人材バンクの利用

人材バンクとは、後継者を探している事業者と創業希望者をマッチングさせるサービスです。

 

後継者人材バンク

創業希望者と後継者不在の事業者をマッチングさせ、事業を引き継ぐための支援を行っています。

地方へ移住し創業したいと考えている人が後継者人材バンクへ登録、相談を行います。相談を受けた後継者人材バンクは、希望者の条件や職務経験などを考慮し、後継者不在の会社や個人事業主とのマッチングを行います。

後継者人材バンク|事業承継・引継ぎポータルサイト (smrj.go.jp)


日本政策金融金庫

日本政策金融公庫の事業承継マッチング支援は、主に従業者数9人以下の小規模事業者 が中心の事業承継者と譲受 希望者をマッチングさせるサービスです。

日本公庫の専門担当者が、利用者の希望を踏まえ、相手(マッチングの候補)を探します。また、マッチング後の困りごとにも対応します。 

譲渡希望・譲受希望いずれの方も、サービスを無料で利用できます。

事業承継マッチング支援|日本政策金融公庫 (jfc.go.jp)

事業承継に積極的に取り組んでいる自治体7選

最後に、積極的に事業承継に取り組んでいる自治体をご紹介します。自治体のサポートがあれば、よりスムーズに事業承継が実現できるでしょう。

 

和歌山県

都道府県として全国で初めて、移住者による継業を支援するプロジェクト 「わかやま移住者継業支援事業 」を発足しました。県・市町村・継業支援機関(商工会、和歌山県事業引継ぎ支援センター等)が連携し、事業主と移住者のマッチングを支援します。 

また移住者継業補助金が充実しており、事業引継に係る費用および継業対象事業の再活性化に係る費用を最大100万円支給しています。(審査あり)

https://warp.city/prefectures/30

 

高知県

窓口での相談受付や独自の情報発信に加え、県内の商工会議所、商工会、中小企業団体中央会、金融機関などと連携し、事業承継に課題を抱える事業者に対して啓発活動を積極的に実施しています。

また、全国初の試みとして「ネームクリア」で後継者を募集しています。通常、M&Aでは対象の企業名を明かさないことが多いですが、あえて企業名を明かしています。

譲渡や売却条件ではなく、事業そのものの魅力や技術のすばらしさ、歴史・信頼・実績、地域での役割、事業者の想いにスポットをあて、後継者を募集しています。

https://warp.city/prefectures/39

 

岐阜県 

各支援機関と「岐阜県事業承継ネットワーク」を構成し、事業承継診断や事業承継に関する各種セミナー、相談会等を実施しています。

2021年には「岐阜県事業承継・引継ぎ支援センター」を開設し、事業承継に関するあらゆる相談にワンストップで対応しています。

後継者不在の事業者や事業承継に向けた課題が漠然としている事業者、経営者保証がネックとなっている事業者などの事業承継を支援します。

https://warp.city/prefectures/21

 

愛知県豊橋市

「廃業させないまち とよはし 」を目指し、「とよはし事業承継ひろば」を創設しました。

豊橋商工会議所、豊橋市、市内金融機関、愛知県事業承継・引継ぎ支援センターが連携し、事業承継および創業を支援しています。

「創業希望者」と「後継者不在の事業者」を結び付けるため、「事業承継ひろば」と「創業プラットホーム」が連携し、後継者人材バンクの活用を促しています。

また市内の大学と連携を図っており、創業支援に力を入れている愛知大学、豊橋技術科学大学、豊橋創造大学の起業を希望する学生に情報提供を行い、マッチングを図っています。

青森県八戸市

創業と事業承継の総合相談支援窓口「はちのへ創業・事業承継サポートセンター(8サポ)」を設置しています。

起業・創業者を増やし、経営者の高齢化などによる中小企業のやむを得ない廃業を未然に食い止めることを目的に、事業承継を支援しています。中小企業診断士やインキュベーションマネージャー(起業・創業志望者を構想・企画の段階から起業・創業に至るまで一貫して支援する専門家)がサポートしており、中小企業の事業承継に関する相談を受け付けています。

また事業承継後の継続サポートと、後継者の経営力を高めるセミナーなども開催しています。

 

大分県日田市

市内の中小企業・小規模事業者や創業希望者の経営等に関する悩みの相談窓口として「日田市ビジネスサポートセンター(BIZサポひた)」を日田玖珠地域産業振興センター内に開設しました。

経営に関する専門スタッフの中小企業支援コーディネーターが常駐し、幅広い相談のアドバイス等のサポートを行っています。相談内容に応じて、支援機関・専門家を紹介または連携し、ワンストップでサービスを受けられます。

相談は無料で何度でも利用可能です。

 

神奈川県小田原市

小田原箱根商工会議所では、「小田原箱根承継マッチング事業」を実施しています。小田原・箱根地域を中心に後継者不在企業と同地区で創業を希望する企業家をマッチングさせています。

さがみ信用金庫、横浜銀行、日本政策金融公庫小田原支部、東京地方税理士会小田原支部で「小田原箱根事業継承マッチングに関する協定」を締結し、廃業防止および創業をサポートしています。

地方移住者が事業承継を行うことは、事業譲渡希望者のみならず、継業希望者にも、地域にも計り知れないよい影響を与えます。

地方移住を検討しているのであれば、事業承継も選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。

 

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