【総務省に聞きました!】地域おこし協力隊を目指す人必読!総務省が指南する「三方よし」の心得
地域おこし協力隊は、都市部から地方に移住した人材が地域活性化を支援するため、2009年に総務省によって発足されました。現在、総務省では過疎化や高齢化が進む地域への対策として、2026年(令和8年)度までに協力隊員を1万人に増やす目標を掲げ、持続可能な地域づくりを担う人材の育成に力を入れています。
しかし、地域おこし協力隊のアンケート結果からもわかるように、制度への理解不足や地域とのコミュニケーションの難しさといった課題もあり、活動がスムーズに進まないケースがあるのも現実です。
そこで今回、ワープシティ編集部は総務省を訪れ、地域力創造グループ 地域自立応援課の藤岡茉耶さんに取材を行いました。この記事では、地域おこし協力隊になる前に知っておきたい基礎知識として、総務省が考える地域おこし協力隊のメリットや3年間の計画の立て方、そして任期を有意義にするための心得をご紹介します。
地域おこし協力隊の役割とメリット
―最初に、地域おこし協力隊の役割や取り組みの意義について教えてください。
藤岡さん:地域おこし協力隊の制度の目的は、“都市部から地方へ”という人の流れを生み出すことにあります。基本的に、三大都市圏(東京圏・大阪圏・愛知圏)や政令指定都市に住む方が対象で、任期終了後も活動先の地域に定住する意思が期待されます。
活動先は、過疎化や高齢化が進み、行政サービスや経済活動の維持にさまざまな課題を抱えている全国の地方自治体です。特に山村地域や離島、半島などの条件不利地域では、社会・経済活動を支える担い手が深刻に不足しています。
地域おこし協力隊は、こうした地域に入り込み、外部からの視点でその土地ならではの魅力を発掘し、地域の人たちと協力しながら、地域経済の活性化や新たな文化圏の創出など、行政だけでは成し得ない柔軟で持続可能な地域づくりを支える重要な役割を担います。
―地域おこし協力隊として活動することには、どのようなメリットがあるといえるでしょうか?
藤岡さん:協力隊になることのメリットは大きく2つあると思います。
1つ目のメリットは、縁もゆかりもない土地に「地域おこし協力隊」という肩書きで入っていけることです。例えば、「都市部を離れて自然豊かな地方で暮らしてみたい」と思っても、馴染みのない土地で一から人間関係や生活基盤を築くのは大変ですよね。
その点、「地域おこし協力隊」という社会的な役割があることで、地域の方々も安心して受け入れやすくなり、地域コミュニティにも溶け込みやすくなるかもしれません。そうした意味で、協力隊の制度は地方移住したい人が新しい生活をスムーズに始めるためのひとつの手段として使っていただけると思います。
2つ目のメリットは、自分のやりたいことに挑戦できることです。協力隊は若者からシニアまで幅広い世代に門戸が開かれており、自治体ごとに条件(※)はありますが、年齢にかかわらず多様な活動ができる点に特徴があります。
※応募条件に年齢制限を設けている自治体もあります。詳細は各自治体の情報をご確認ください。
例えば、若い世代が地方で「起業したい」と考えたとき、協力隊の制度を使い、地域の方と地域活性化に取り組むことで、一定の収入も得ながら起業の基盤を整えることができる。3年という任期を通して、自分のやりたいことにじっくり向き合い、実践経験を積めるのは大きなメリットといえると思います。
また、「これまでの経験を地域に役立てたい」と考えている方にも協力隊は有効な手段になるはずです。定年後に協力隊で活躍しているシニアの方も多く、例えば、元テレビキャスターの方が地域で情報発信を行ったり、長年国際協力に携わった方が地域でグローバル教育に貢献するなど、第二の人生で力を発揮する場にもなっています。
3年間をムダなく使うための計画づくり
―地域おこし協力隊の中には、思い描いていた活動ができず、途中で辞めてしまったり、定住につながらなかったりする事例もあるようです。協力隊の任期は一般的に3年間とされていますが、この任期をムダなく最大限に活用するためには、どのような点に気を付けると良いでしょうか?
藤岡さん:3年という任期は「長いようで短い」と感じる人が多いようですね。限られた時間を有効に使うためには、やはり事前の目標設定や計画づくりが欠かせません。
協力隊として地域や自治体に何を期待されているのか、そして自分が達成したいことを明確にしたうえで、任期を3つのステップに分けて具体的な行動計画を立ててみるとよいと思います。
3つのステップの考え方
【1年目】地域との関係づくり
「準備期間」と捉え、地域との関係性を構築することを意識しよう
藤岡さん:1年目は、自治体や地域の方々と積極的にコミュニケーションをとり、焦らずじっくりと、自分だからこそできる地域との関わり方を模索してみてください。
総務省としても各自治体の皆さまに、隊員の方との定期的なコミュニケーションの場を設けていただくようお願いしています。
活動する中で困ったことがあれば一人で悩まず、自治体に相談し、しっかりと対話を重ねることで信頼関係を築き上げていくことが大切だと思います。
また、地域の方々とも日常的な会話や行事への参加などを通じて、生活の中で関係性を深めていくことも大切ですね。そうした関わりは情報収集にもつながり、地域のリアルな課題や特性を理解するのにも役立つはずです。
【2年目】課題解決の実践
1年目に築いたつながりや知見を活かし、地域の課題に積極的に取り組もう
藤岡さん:地域特産品の開発や観光サービスの展開、イベント運営など、地域課題の解決に向けた実践的なアプローチを進めていけるとよいでしょう。試行錯誤を繰り返しながら実践的な経験を積むことで、今後のキャリアやビジネスに役立つスキルを身に着けることにもつながるはずです。
また、2年目からは、定住に向けた具体的なロードマップを描いていくことも大切です。
総務省では、2~3年目の隊員を対象に「ステップアップ研修」を行っており(JIAM・総務省共催)、これまでの活動を振り返り、今後の目標や任期終了後の展望を整理するためのサポートを行っています。
ロードマップの描き方や任期終了後にどんな選択肢があるのかといったヒントを得られる研修になっているので、2年目以降のステップアップに悩んでいる方は、ぜひこうした研修も活用していただけたらと思います。
【3年目】定住に向けた環境整備
これまでの実践を振り返りながら改善を重ね、安定的な運用ができる仕組みを整えよう
藤岡さん:任期終了後も地域に定住して活動を続けるため、具体的な体制づくりを進めることが大切です。地域によっては、元協力隊員が現役隊員をサポートするネットワークなどを設けているところもあり、現役隊員がその経験を学ぶ場としても機能しています。
他の協力隊員をはじめ、地域外の支援者、企業、NPOなど、多様な人とつながりを作ることで、将来の仕事やプロジェクトのパートナー探しにも役立つかもしれません。
総務省では、任期2年目〜3年目や任期終了翌年に起業する人に対して、上限100万円の財政支援を行っているほか、起業・事業化の研修会も実施しています。
実際に作成した事業計画を、起業の先輩や地域おこし協力隊の仲間とブラッシュアップしていく内容になっているので、起業を考えている場合は、そうした機会も有効活用していただけたらと思います。
大切にしたい「三方よし」の心得
―最後に、地域おこし協力隊を務めるにあたって、意識するとよい心得がありましたら教えてください。
藤岡さん:協力隊の皆さんにはぜひ、「三方よし」という考え方を意識していただきたいと思います。「三方」とは「地域おこし協力隊」「地域」「地方自治体」です。
協力隊が地域に入り、外からの視点で地元の人が気づいていない魅力を引き出すことで、行政だけでは難しい柔軟な地域おこしを進めていく。それが協力隊自身にとっても経験や生きがい、自己実現につながる。こうした三方よしを叶えることが理想的です。
ただ現実には、「協力隊としてやりたいこと」「地域の期待」「自治体が望むミッション」が完全に一致することは難しいかもしれません。
しかし、たとえ少しずつ異なっていたとしても必ず重なる部分はあるはずです。その重なるところを、じっくり粘り強く見つけていくことを大切にしてほしいと思います。
そのためにはやはり、コミュニケーションが欠かせません。同じ言葉を使っていても考えが異なる場合もありますから、ミッションや目標に関する認識合わせはしっかり行いましょう。
例えば、「空き家の活用」というミッションの場合、自分は「空き家でカフェを開きたい」と考えていても、自治体は「地域全体の空き家の活用や後継者づくり」を期待しているかもしれませんよね。こうした齟齬をなくすためにも、内容の確認や意識のすり合わせを丁寧に行い、お互いに歩み寄る姿勢が大切といえると思います。
この「三方よし」を実現することで、地域おこし協力隊の活動は一層充実したものとなり、自己実現と地域活性化という未来に向けた成果を実らせることができるはずです。
まとめ
地域おこし協力隊は、協力隊と地域、地方自治体が一期一会の関係性の中で共につくりあげていく取り組み。そこに一律の正解が存在しないからこそ、「三方よし」の考え方を軸に三者が協力し合い、最適な答えを見つけていく姿勢が大切です。
そのためには、積極的にコミュニケーションを図る行動力や、地域とのより良い関わり方を模索する粘り強さが求められるといえるでしょう。
地域おこし協力隊に興味がある方は、今回ご紹介したメリットや注意点、総務省の支援制度なども参考に、定住や起業に向けた一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。