地方創生の鍵を握る「関係人口」とは
関係人口の取り組み事例と、もたらす効果
地方創生を語る上で、今や重要なワードとなっている「関係人口」。その言葉の意味するところや注目される理由、そして各自治体の関係人口にまつわる取り組みについて紹介します。
関係人口とは
「関係人口」とは、移住した人を「定住人口」、観光で訪れた人を「交流人口」と呼びますが、そのどちらでもなく、地域と多様に関わる人々を指す言葉として使われます。
関係人口を構成する人として、そのエリアを行き来する人(風の人)、地域内にルーツのある人(近居・遠居)、何らかの関わりがある人(過去の勤務や居住、滞在など)などが挙げられます。
例えば、過去にそのエリアに住んでいたことがあり、転居してからもよく訪れるという人や、そのエリアを気に入り、年に何度も訪れる人などが関係人口に属します。そのエリアへ比較的強い思い入れがある人と言えるでしょう。
関係人口の数とその背景
2021年に実施された国土交通省による調査では、関係人口の数は約1,827万人にものぼるそうです。その背景には、リモートワークの普及があり、地方にワーケーションで訪れる人や、週末は自宅のある都心から離れ地方で過ごす二拠点生活をする人が増えたことなどがあります。
参考:全国の「関係人口」は1,800万人超! ~「地域との関わりについてのアンケート」調査結果の公表~
関係人口が注目される理由
関係人口が注目されているのには主に2つの理由があります。
- 地方にとっては、関係人口が増えることで、地域経済の活性化に繋がり、人口減少による労働力不足という課題にも貢献する可能性がある。
- 関係人口に属する都心の住民にとっても、都会暮らしでは出会えない人との出会いや体験、新しいライフスタイルの確立などのメリットがあり、地域経済に貢献し、地方の住民と交流することで新しい知見を獲得することもある。
このように、関係人口が注目される背景には、地域と関係人口に属する人の両者にとってメリットのある構図があります。
関係人口の創出&拡大事業
総務省では、地域住民以外の人が関係人口となるきっかけの提供に取り組む地方公共団体を支援しています。
このモデル事業を「関係人口創出・拡大事業」として実施しており、いくつかのパターンに分けられます。一つずつ事例とともにチェックしていきましょう。
関係深化型(ゆかり型)
関係深化型(ゆかり型)では、その地域にルーツがある人を対象にして関係人口を募る仕組みを設けます。地域と継続的なつながりを持つ機会を作り、地域とのつながりを深めます。
- 新潟県村上市の取り組み
通年型の農業体験「百姓やってみ隊」や地域住民と一緒に集落を散策してフォトブックを作成する「まち歩きイベント」、農村の暮らしなどを特集した冊子作成などを行う「インターン事業(農村体験取材)」などの取り組みを、村上市以外の地域に住む若者たちが、地元の主婦などの地域住民と一緒に実施。その結果、市外からの参加者26人のうち9人(35%)が取り組み後に村上市を継続して来訪し、地域住民と個々に連絡を取り合って地域住民宅を訪問したり、集落のイベントに参加するなど、関係を深化させたのだそう。
- 新潟県燕市の取り組み
燕市とゆかりのある団体との連携や交流を行い、燕市の地場産品に興味のある人たちが「つばめサポートクラブ」へ加入。関係人口の声を活かした新製品開発の仕組みづくりの一環としてデザインコンペを開催し、燕市内のものづくり企業と市外の若手デザイナーとのつながりを構築する取り組み。その結果、ふるさと納税寄附者および東京ヤクルトスワローズファンとの交流イベントの参加者から250名以上が「つばめサポートクラブ」に登録。デザインコンペは、27名が企業を訪問し、若手デザイナーなど100名がプロダクトデザイン172点を応募しました。
村上市
燕市
関係深化型(ふるさと納税型)
関係深化型(ふるさと納税型)では、その名の通りふるさと納税の寄附者を対象にして、地域と継続的なつながりを持つ機会を提供する取り組みを行います。
- 福井県坂井市の取り組み
「自動継続寄附サービス」の仕組みを活用し、全国のお城ファンをターゲットに、丸岡城に関する事業への継続的な支援者「百口城主」を募集。百口城主は、市民も参加するワークショップを通じて、お城ファンならではの新しい視点から寄附金の使い道が提案できます。この取り組みの結果、令和2年2月末時点で百口城主に36名が加入。寄附金の使い道のアイディア16件が提案され、そのうち丸岡城周辺のサイン整備やレンタサイクルの整備など5件のアイディアが採択されました。
坂井市
関係創出型
関係創出型は、これから地域との関わりを持とうとしている人を対象に、地域と継続的なつながりを持つきっかけを提供しています。
地域の課題やニーズと関係人口となる人のスキルや知見、想いなどをマッチングするための中間支援機能を形成し、取り組みを行います。
- 鳥取県鳥取市の取り組み
地域において活発な芸術活動をするアーティストとの協働実践活動や、地域団体と大学との連携を活かした学生による里山事業など、外部視点のユニークな発想を導入しながら、地元で活動する人と、関係人口に属する人とのつながりを創出。NPOが空き家をリノベーションし、関係人口の仕事や制作の場となる交流滞在施設を開設しました。期間中20名が滞在し、芸術祭のPRや演劇祭の運営などの協働実践活動に参加し、9割が「継続して関わりを持ちたい」意向を示した。大阪国際大学も「果樹の里山事業」における課題・提案について引き続き関与。事業参加者のうち1名が首都圏との二拠点活動、1名が移住を決定しました。
- 長野県根羽村の取り組み
地域の森林資源を活かした「木育」の可能性を検証するため、「子育てママ」「デザイナー」など、ターゲット別に8つのモニターツアーを実施。参加者との交流や対話を通じ、ビジネスモデル構築につながるアイディアやアドバイスなどを得ました。
デザイナー・ 教育関係者・森をテーマに活動したい人・東海圏の人々などのターゲットとの交流を通じ、「木育事業」に関して「出張プレイスメイキング事業」「環境教育事業」「制作事業」の3つのビジネスモデルを構築しました。
鳥取市
根羽村
裾野拡大型
裾野拡大型は、都市部に所在するNPOや大学のゼミなどと連携して、都市住民の地域への関心が高まる取り組みを行っています。
- 茨城県つくば市の取り組み
科学に関心をもつつくば市内在住者と市外在住者でともに「ご当地スポーツ」づくりをする。研究機関の集積や筑波山といった、つくばの特徴をご当地スポーツに取り入れて地域の魅力を発信します。
取り組みの結果、ご当地スポーツ体験会には、親子連れや学生、シニアなど約300名が来場。そのうち38.9%がご当地スポーツづくりにこれからも「積極的に関わってみたい」、55.6%が「機会があれば関わりたい」と回答。
- 長野県東御市の取り組み
地域活性化に熱⼼に取り組む東御市と、郊外型ニュータウンの横浜市が、ワインを基軸にして継続的な交流関係を創出。農村(東御市⽥沢地区)の⼈⼿不⾜解消と、都市住⺠(横浜市上郷ネオポリス)の第2の故郷づくりのマッチングを促します。農⼭村集落体験ツアーやワイン勉強会を開催した結果、参加者は延べ122名。東御市⽥沢地域と上郷ネオポリス両者の地域課題への理解やつながりが形成され、今後の関係継続に向けて、両地域間で企画が検討されています。
つくば市
東御市
裾野拡大(外国人型)
裾野拡大(外国人型)は、地域住民や地域団体と連携して、外国人との交流を促進しています。地域住民や地場産業との継続的なつながりを創出するための取り組みを実施しています。
- 秋田県横手市の取り組み
台湾の大学生へ横手市の魅力をアピールし、同時に学生の「情報発信力」向上を支援する取り組み。台湾の若者の視点から横手市の魅力を再発掘してもらい、市に気づきの機会をもたらすとともに台湾国内での魅力発信を展開しています。台湾にある大同大學で実施した特別授業やワークショップにはのべ117名が参加し、横手市内の高校が大同大學との連携を模索したり、市内団体が台湾への視察旅行を検討するなど交流の活発化が進んでいます。
- 熊本県菊池市の取り組み
菊池一族などの地域資源をメインにした観光ツアープランの開発と、外国人観光客との継続的なつながりづくりを実施。官民連携による関係人口創出・拡大の取り組みで、外国人観光客のみならず、地域内のネットワークの強化を促します。7つの国・地域よりのべ21名がツアーに参加し、そのうち10名が九州SAMURAI伝道師に登録されました。
横手市
菊池市
まとめ
関係人口とは、地域と多様に関わる人々を指す言葉で、地域の活性化や課題解決を語る上で欠かせない人口です。地方もさまざまな取り組みによって関係人口との交流を図っており、今後もこの流れは続きそうです。
地方住民と地方に思い入れはあるけれど、都市圏などの地方以外に住む住民、両者にとって実りのある関係が、これからもっと発展していくと良いですね。