<h2>想定外の起業</h2>インタビューの日は、香取市では珍しく雪でした。暖かい店内に案内され、ほっと一息。 角打ちのイスに腰をおろします。 見渡すと、レトロなポスターとずらりと並んだ酒瓶に目を奪われます。<figure class="image"><img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2025/04/04/fDNwZB59n2rdkXuW8_bj0/s5ULKtqxAZtg7Op2-Z4nB.webp"></figure>「『あと10年お父さんは頑張るから、それまで好きなことをしてこい』と言われ、18歳で香取市を出ました」一人暮らしの生活に憧れ、東京の大学を選んだ髙橋さん。 卒業後は「酒屋以外の業界で働いて見聞を広めるように」と父親に言われ、髙橋さんが選んだのは飲食業、バーテンダーでした。「卸だと物を運ぶだけなので、お客さんにお酒を提供する側を学びたかったんです」勉強熱心な髙橋さんは、Uターンの期限となる10年を前にバーテンダーの仕事を辞め、当時先駆けだったワインバルにアルバイトとして就職。懸命に学びソムリエの資格を取り故郷に戻りました。「継ぐつもりで帰ったんですけど、継がせてもらえなくて。業績が芳しくなかったので父も考えるところがあったのだと思います」年々、酒店が衰退していく時代でした。1938年に「酒類販売業免許制度」が始まった当初、お酒の販売許可を得るには様々な規制があり、新規参入が難しい業種でした。 ところが平成元年から自由化が進み、スーパーやコンビニもお酒を販売できるようになりました。スーパーやコンビニはお酒以外の商品もあり、利益を賄えるため、酒店よりもお酒の値段を安く設定することができます。その結果、一般客は酒店でなく、スーパーやコンビニでお酒を買うようになりました。酒店を利用するのは飲食店だけになったのです。さらに追い打ちをかけるように、佐原の衰退が重なりました。 町にあったデパートは閉店しました。 現在のような、小江戸を楽しめる観光地としての知名度もまだありませんでした。髙橋酒店は徐々に売り上げを落として行きました。「何年もつのか、でもその後は…という印象でした」髙橋さんは父親に、新たな事業として角打ちを開くことを提案しました。 しかし、色々と危惧をした父親は反対。「Uターン移住して、実家を手伝いながらピザ屋でアルバイトをしてました。でも、それまでに比べて仕事が少なくて。居場所がなくなる感覚でした」そこで髙橋さんは実家とは別の場所でワインバルを始めることを決意。 想定外の起業でした。<h2>転々としたワインバルとコロナ禍</h2>ワインバルは当時新しいタイプの店でした。特に佐原では新しすぎました。 地元では店が提供するお酒を飲むのが一般的でしたが、髙橋さんのワインバルではお酒を「選ぶ」ことができ、お客さんは戸惑ったと言います。鳴かず飛ばずのワインバルは、1年半でより都市部の成田市に移転しました。「人の流れを見て場所を決めた」という店舗は2年目まで順調でした。 成田市ではファンが多かったと言います。 しかし、3年目から人の流れが急激に変化。 維持費が高い店舗物件で、収益を得るのが難しくなりました。追い打ちをかけたコロナ禍。髙橋さんは、店をたたみ2022年に実家に戻ってきました。 父親は体調を崩していました。ついに「髙橋酒店」を継ぐ日が来たのです。髙橋さんは、髙橋酒店の四代目店主となりました。髙橋さんは「小売りだけじゃない商売形態にする」と決めていました。自分の思い描く商売をする素地は整ったものの、厳しい状況でした。コロナ禍で飲酒そのものを自粛する空気がありました。 家では飲むけれど、それはスーパーで買う。飲食店への補助金はあるものの、小売業への補助金はほとんどありませんでした。事業再構築補助金を活用し、角打ちを始めようとしましたが、今度は母親が髙橋さんを止めました。終わりの見えないコロナ禍。 失敗を重ねてきた息子のワインバル。 その上、角打ちを始めるということは、顧客である飲食店の競合になるということです。「お客が離れる」と母親は危惧しました。髙橋さんは「働ける限りは進まなきゃ」と角打ちを開きました。<figure class="image"><img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2025/04/04/fDNwZB59n2rdkXuW8_bj0/aPaEskccTzeDa1OFhCQo7.webp"></figure>その結果、大半の飲食店には理解していただくことができ、現在でもお取引を続けています。 SNSを使いコミュニケーションを取ることで、以前よりも距離感が近くなりました。髙橋さんの熱意と真意は地域に変化を起こしつつあります。 その真意とは。<h2>小江戸佐原の未来をつくる</h2>酒類販売の自由化と共に衰退した酒店。しかし、佐原には未だ10件程の酒屋が密集しており、付近の飲食店を支えています。 江戸から続く土地ならではの光景です。一方で課題もあります。 ほとんどの酒店では、後継者がいないのです。利益が少ないこと。 休日や時間を問わず、即納することを求められる地域の慣習。 何より、酒店という商売に面白みや未来を見出せないこと。若い人にとって酒店という商売に魅力を感じにくいことは課題だと髙橋さんは考えています。このままでは、佐原という地域で連綿と紡がれてきた酒店と飲食店の歴史が存続できないのではないか。父親が愛し、自分も愛した佐原。そして髙橋酒店。 古き良き佐原の商売を守りたい。この状況を打破するためのチャレンジが、角打ちでした。「酒屋を続けたいからこそ、角打ちでの飲食を始めたんです」角打ちの営業をするにあたり、当初は営業時間外や店休日にも行っていた配達は、午前中のみ対応としました。将来を俯瞰した時、これまでの慣習を変えていく必要がありました。髙橋酒店にとって、収益の柱はやはり飲食店向けの小売りです。 その顧客の便益を減らしてまで、なぜ角打ちをやるのか。それは、地域全体を考えてのことなのです。「そこまでしてなぜUターン移住し、酒店を継ごうと思ったのですか？」と問うと、「ふるさとに対する思いでしょうか。父は佐原が大好きで、良かった話や楽しい話をずっと聞かされていました。だから自分も佐原が好きです。酒屋は、父が一生懸命やってきて、自分も小さい頃から手伝っていました。続けていきたいと思っています」<img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2025/04/04/fDNwZB59n2rdkXuW8_bj0/NT5QYbB5gmvIa63jd-w4M.webp">注釈：店内に飾られている伝統的な商売道具や祭りの拍子木（ちゃき）。髙橋さんの地元や伝統への想いが伝わる。最初の年、角打ちは髙橋さんが専門のワインを主に取り扱っていました。しかし、観光客から「せっかく旅行に来たのだから、地酒が飲みたい」という要望を受けて、翌年には地酒に振り切ることにしました。認知度も上がり、観光客の他に地元のお客さんも増えました。高橋酒店の面している通りの、人通りが増えたと言います。今後の展望についてうかがうと、「目の前の通りは『チャンカ通り』と言います。この通りに、かつて商店街だった時のような賑わいを取り戻したいです。それから、観光客のハブになりたいと思っています。角打ちで地元の食材を食べてもらって、美味しかったら店舗で買ってもらえるように。町をもっと歩いてもらいたいです」<h2>髙橋酒店のご紹介</h2>髙橋酒店は地元にお酒を届ける酒屋であり、地酒を楽しめる角打ちがあります。扱っている地酒は地元水郷地域の東薫酒造、馬場本店酒造、飯田本家（以上、香取市の酒造）、鍋店（仁勇）、寺田本家、愛友酒造です。この辺では珍しい、昼から飲めるお店です。四代目店主である髙橋隆蔵さんが飲食店経験を活かし、絶品のピザや地元の調味料や食材をつかった食事を提供しています。「麻兆さんのカシューナッツの佃煮とか。観光の中心地から少し離れていますが、髙橋酒店で食べて『美味しい、お土産に買おう』とわざわざ行ってくれたりします」観光者目線で提供されるお酒や食事は、「これからどこを巡ろうか？」という旅のヒントになります。また、贈答品にも力を入れています。 髙橋さんが「誰に差し上げるのか」「何歳くらいの方か」などじっくり話を聞き、相手の好みそうなワインを選んでくれます。ぜひ香取市にお越しの際は、小江戸佐原の髙橋酒店にお越しください。<figure class="image"><img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2025/04/04/fDNwZB59n2rdkXuW8_bj0/QTApqlgdTo7Z2OlLKnaUc.webp"></figure> &nbsp;<h3>&lt;店舗情報&gt;</h3>『髙橋酒店』場所: 　〒287-0003 千葉県香取市イ７１１ 営業時間： 　酒屋　9-19時　※月曜定休、火曜不定休　 　角打ち　水曜~日曜と祝日　13-19時　※夜は要予約インスタグラム <a href="https://www.instagram.com/takahashi_ten/?locale=ja_JP">https://www.instagram.com/takahashi_ten/?locale=ja_JP</a>投稿時点の情報、詳細はお店のSNS等確認ください。&nbsp;<h3>&lt;香取市への移住相談など&gt;</h3>香取市企画政策課　（電話　0478-50-1206）<a href="https://www.city.katori.lg.jp/smph/government/plan_policy/ijuu_teijuu/index.html">https://www.city.katori.lg.jp/smph/government/plan_policy/ijuu_teijuu/index.html</a>香取市・移住定住相談グループ（LINE）<a href="https://lin.ee/dMtuti4">https://lin.ee/dMtuti4</a>

香取市

大学進学を機に上京。
田舎とは全く違う都市に住んだことで、故郷の良さが分かるようになった。

そんな話をよく聞きます。
しかし、Uターン移住する方はまだ少ないようです。

戻る家もあり、家業を継ぐという選択肢はあるものの、代々続いた家業は時代に合わせた変革が必要なケースが多く見られます。

両親を説得し地域に変化を起こすのは、その地に縁もゆかりもない移住者よりも、地元出身であるUターン移住者の方がハードルが高いのかもしれません。

千葉県香取市の観光地「小江戸佐原」にある髙橋酒店。
Uターン移住し、家業を継いだ髙橋隆蔵さんもその一人でした。

伝統的な酒屋の店内に、新たに角打ちを開いた髙橋さん。
その軌跡をうかがいました。

千葉県

家族構成…親と自分
移住元…千葉市
移住して…14年
移住前のお仕事…飲食店
移住後のお仕事…髙橋酒店

#歴史を紡ぐ

#歴史を紡ぐの移住体験談一覧：1件

伝統の酒店を守り、町並みを守る。決意のUターン