移住者プロフィール
濵野 友也さん
移住時期
2018年6月
利用した支援制度
地域おこし協力隊
出身地:宮城県多賀城市、前住所:東京都、現住所:宮城県丸森町、職業:(株)「VISIT東北」取締役副社長、太鼓集団「旅太鼓」代表、「宮城ワーケーション協議会」 事務局長
目次
INDEX
転機は突然訪れる
宮城県多賀城市に生まれ育ち、10歳の頃から和太鼓に親しんできた濵野友也さんは、大学卒業後、就職を機に上京。東京で複数の新規事業開発を経験しながら、パラレルキャリアとして土日を活用し、和太鼓教室を開くなど、太鼓との縁は途切れることはなかったのだとか。
順調にキャリアを重ね充実した日々を送っていたが、徐々に、ある思いが頭をもたげてきたという。“もっと自分の特徴を活かせるようなキャリアの作り方をしていきたい”そう思いを巡らせていた矢先、濵野さんは、ある言葉と出会う。
「丸森町にきて、太鼓を仕事でやればいい。やるなら自己責任だけどね」
この言葉を贈った人物こそ、現在濵野さんが副代表を務める『株式会社VISIT東北(以下、VISIT東北)』の代表取締役 グループCEO齊藤良太さんであった。
「『やるなら自己責任』というメッセージが、胸に刺さったんです。『人生は一度きりだし、何かにチャレンジしたい』と、思っていたタイミングでその話を頂きました。丸森町にはゆかりもないけれど、自分の出身地の宮城県でもあるこの地でスタートさせて、東北全体を世界にも未来にも誇れる地域に押し上げたい。この会社でなら、それが実現できるかもしれない、と思いました」
そんな熱い想いを胸に抱き、2018年、濵野さんは地域おこし協力隊として丸森町にJターン移住し、協力隊の研修先であった「GM7」に創業初年度の現場メンバーとして仲間入りを果たした。
地域おこし協力隊を活用した丸森町独自の取り組み
宮城県の最南端に位置する人口約1万4千人の町「丸森町」は、東北第二の大河である阿武隈(あぶくま)川を有し、四季の織りなす美しい自然や古くからの歴史と伝統に囲まれた「水とみどりの輝く町」である。
元々舟運(しゅううん)で栄えた町であり、外部の人を迎え入れる風土が残る丸森町では、かねてより多くの「地域おこし協力隊」を受け入れており、協力隊の成果を測る上で最も重要な指標、“任期後の定住率”に着目した様々な取り組みを行なっている。
丸森町について濵野さんはこう語る。
「外部からきた人に対して、『それいいね!』と興味を持ってくれる町民が多いことは、肌で感じています。外からきた人だけが頑張るのではなく、地域の中の人も外の人もうまく“セッション”していこうと働きかけているから、対話を通じて色んなものが『形』になっているんです。私が入ってきた時よりも、その風土感は強くなっているような気がします。『人と連携してやっていきたい』という移住者には、面白い町だと思います」
同県出身者という後ろ盾こそあったものの、見知らぬ土地で“生活基盤も人間関係も一から構築”していくことに、不安はなかったのだろうか。いかにして、地域の人々との“繋がり”を築いていったのだろうか。
「とにかく『話す』ことですね。会話の中で『◯◯さんって知ってる?』と聞かれた時に、『知りません』で終わらせることは、まずありません。『その人のことを教えてください。そして繋いでください』と、グイグイ行きます(笑)。また、『あそこにいってみたらいいよ』とオススメされた場所には必ず足を運び、『行きました!』と必ずその人に返す。それを積み重ねていくと、芋づる式に繋がっていくんです」
「和太鼓」で地域おこしをした背景
3年間の協力隊の任期を終えた後「VISIT東北」の経営に参画し、会社の運営を通じて地域貢献を続けている濵野さん。
2018年8月には、“笑顔を増やすこと”をミッションに掲げ、「GM7」をはじめとする「VISIT東北グループ」の有志社員により、太鼓集団「旅太鼓」を結成するのだが、10才から和太鼓に親しんできた濵野さんをもってしても、太鼓を“生業”とすることは、容易ではなかった。
「日本の伝統文化は趣味や仕事の傍、志のみで続ける人は少なくない状況だと捉えており、メインの仕事として続けられない“諦められがちな領域”になってしまうことがあると思っています。私自身も、地域の団体に所属していたものの、収入を得られるようなプロチームではなかったですし、メインの仕事の傍ら、和太鼓教室を受け持つようになりましたが、これでは継続性がないな、と悩んでいました」
その状況からなぜ、“和太鼓で地域おこしをしよう”と考えるに至ったのか。
「ビジネスをしながら芸術活動を行うというように、一人が複数のことを同時にかつ本気で取り組むことが可能であるということを、現代そして次世代の人に背中で見せていきたいと考えました。『こういうチャレンジの方法もアリなんだ』と、可能性を広げることができるかもしれない。だから、ずっと親しんできた『和太鼓』と『地方創生』と『インバウンド』とを掛け算して、『ちゃんと生きていけますよ!』ということを発信していきたいと思い、太鼓チームを仕事として立ち上げるに至りました」
こうして結成された、太鼓集団「旅太鼓」。
「地域で活動することにおいて『旅太鼓の人』というのは、ある種のわかりやすさもあり、それゆえに、地域をはじめとし他者に自己紹介する上では馴染みやすさがあると感じています。
また、先日、久々に丸森町で開かれている『晴れの日マルシェ』というイベントに参加した際、『濵野くん最近見ないけど、何してたの?』と声を掛けられたんですが、そんな時に『旅太鼓頑張ってます。明日、松島で本番です!』と話すと、『そうなんだ!頑張ってるね』と、それだけで伝わるんですよ。
丸森町という看板を背負って活動している太鼓チームなので、“地域外で活動してなんぼ”ということを、わかりやすく伝えることができるのは強みだと思います」
「旅太鼓」の存在が町民との“橋渡し”になってくれているのだ。
これまで「太鼓」を切り口に、合計20か国、総勢500名ほどの外国人を誘致し、交流人口の増加に尽力。また、テレビ、新聞、ラジオの取材を介し、「丸森町」という言葉とともに注目されたことで、丸森町のブランディングにも貢献してきた。
SNSを介してその活動は徐々に広まり、地方メディアにも取り上げられ、確実に認知度は高まっていく。
その後、和太鼓一筋で活動してきたプロ奏者が活動理念に共感し仲間に加わったことで、更なるパフォーマンス技術の向上を実現。宮城県内のパフォーマーたちともコラボレーションし、宮城のエンタメ集団として地域活性にリーダーシップを発揮しつつある。県外の旅行代理店や海外の旅行客からも高い満足度や評価をいただく機会も増えていったという。
「経験者は濵野さんだけ」というスタートだったにも関わらず、なんと、結成わずか1年で海外のパフォーマンスを成功させ、2020年には、「新しい東北」復興ビジネスコンテストにおいて「JTB賞」を受賞するなど、快進撃を見せることとなる。
「伝統のいいところは残しつつ、変えるべきところは大胆に変えていくという形で、旅太鼓やっていきます!」
旅太鼓の今後の活動から、ますます目が離せなくなりそうだ。
人生を変えるきっかけとなった存在
濵野さんの人生を変えたと言っても過言ではない『VISIT東北』は、いかにして生まれたのだろうか。
VISIT東北の代表取締役グループCEO・齊藤良太さんが、地元宮城での“Uターン起業”を決意した背景には、2011年3月11日に発生した「東日本大震災」があった。
「東北のために尽力したい」という思いが湧き上がり、起業を決意。
その想いを形にすべく、2016年1月、故郷の仙台市を拠点に『VISIT東北』は産声をあげた。現在、6つのグループ会社を有し、多岐に渡って地域課題への取り組みを行っているVISIT東北だが、設立当初は、“外国人の旅行客を東北に誘致し、地域を盛り上げていく”、いわゆる「インバウンド事業」を皮切りに事業をスタートさせた。
今でこそ「インバウンド」という言葉が浸透しつつあるが、当時は、東北の中では認知度も低く、すぐに誰でも理解できる領域ではなかったという。『インバウンドで地域活性をしたい』という想いを掲げて奔走し、その際に『一緒にやりましょう!』と真正面からぶつかってきてくれた最初の自治体が、“丸森町”だったのだそう。
試練を乗り越え、逆境に強い起業に
2020年に、突如として世界を襲った「新型コロナウイルス感染拡大」は、インバウンドで勝負してきた企業にとって、かつてないほどの試練をもたらした。
そんな局面において、モチベーションを保つ“原動力”について尋ねると、「仲間たちの存在が一番大きいです」と、強い眼差しで答えてくれた。
大きな試練に直面したのは、コロナ禍が初めてではなかった。
2019年10月12日、東北など東日本各地に甚大な被害をもたらした『台風19号豪雨』は、丸森町にも牙をむき、12人の死者・行方不明者を出した。
丸森町北部を流れる阿武隈川支流の決壊により、約2割の地域が孤立。VISIT東北や子会社の本社オフィスも床上1メートルまで浸水し、本社機能は壊滅的なダメージを受けたという。今まで試行錯誤してきた事業が、ようやく花開こうとしていたタイミングでの被災であった。
そんな最中、代表の齊藤さんは、再起に向けて歩みを止めなかった。そのエネルギーは伝播し、「代表に続け!」とばかりに、メンバーの面々も立ち上がったという。
「元々スタートが『3・11(東日本大震災)』だったこともあり、トラブルや逆境に対して、『おっしゃー!やってやるぞ!』と奮起する気質の社員が多いんです。代表はその先頭バッターという感じで」
濵野さん自身の持つ、前向きで快活な素養が根底にあることは言うまでもないが、逆境を跳ね返す心の形成には、“会社の体質”も大きく関係しているようだ。
このほど、2022年6月10日より新型コロナの水際対策で停止していた外国人観光客の受け入れを、およそ2年ぶりに再開するという吉報が届いたばかりだ。
2022年6月に発表された、117の国と地域を対象とした「観光魅力度ランキング」において、フランス、スペインといった観光大国を抑え、初の首位を獲得した日本。
外国人観光客の入国は6月下旬以降に本格化すると見られており、ようやく時計の針が動くことになりそうだ。
丸森を起点に東北の可能性を広げる、地域商社「GM7」
2018年4月、より地域に根ざした「地域活性事業」に取り組むべく、VISIT東北は、丸森町を拠点に『地域商社GM7(以下、GM7)』を設立。
設立以降、物販、観光推進、飲食など、多岐に渡る事業を展開しており、「指定管理施設の運営」は、丸森町の観光振興に向けて、GM7が力を注ぐ取り組みの一つとして挙げられる。
2021年4月よりGM7が指定管理事業者を引き継ぎ、運営を行う施設の1つに、丸森町の町の“シンボル”とも呼ばれる「齋理(さいり)屋敷」がある。
江戸時代後期から七代にわたり栄えた豪商「齋藤理助」の屋敷を郷土館として公開しており、当時の豪商、使用人たちの暮らしぶりや丸森町との関わりを学べる場として、多くの人々に愛されてきた。
GM7は、これまでの齋理屋敷の魅力に新たな要素を加えるべく、リニューアルオープンを行い、『見て・さわって・楽しみ・学べる』体験型のコンテンツを用意し、タイムスリップしたような空間を目指していくのだとか。
かつては観光客に、齋理屋敷に足を運んでもらうことだけで完結していたところ、インバウンド事業の責任者を担っていた濵野さんが旗手となり、和太鼓体験や、ガイドが法被を着て演奏を披露するなどの要素を加えた。ビジネスの側面と、誇るべき日本文化である和太鼓のコラボレーションの結果、新しいコンテンツを創り上げたのだ。
“旅太鼓だからこそできる”アプローチとして、インバウンド事業と掛け算したことが圧倒的な強みになったことは言うまでもない。
転換点となった恩師との出会い
逆境もチャンスだと捉え、物事の可能性を追求する濵野さん。自身が思い描いた未来を実現させることに常にワクワクする。そんな彼は、一体どのような子ども時代を送ってきたのだろう。
「幼少期は落ちこぼれで、学力も半分以下でした。勉強も嫌いでしたし、いじめられた経験もあります。中学時代は、リーダーシップを発揮してもしょうがないと構えているタイプでしたね」と、意外な答えが返ってきた。
そして、ある人物との出会いが、大きな変化をもたらしたことを語ってくれた。
「大学時代の恩師との出会いが大きかったです。私自身が思考停止していて、不勉強だったことを、論理的にはっきりと伝えていただけました。そこからのゼミナールの経験が私の人生を大きく変えたと認知しています。
大学では『組織心理学』という分野を学び、1回のゼミで12時間、私の不勉強さゆえ毎回理論詰めされ、その度に大反省し、また学習に集中するという時間を、週1回、2年間経たことで、“物事を構造的に捉えること”や“人という対象の複雑さ”、“どうしたら相手に伝わるか”というコミュニケーションスキルを体系的に学びました。それまで右脳だけで考えていたことが、左脳でも考えられるようになり、自分の行動が徐々に“再現性”があるものになっていきました」
当初より、『一回きりの人生だから!』という考え方のもと、チャレンジすることを美徳として考える濵野さん。大学時代の経験により、感覚的な話だけではなく、自身の考えや行動について論理的な説明もできるようになったことで、自信を持って活動に集中することができるようになったという。
これから挑戦したいこと
一度しかない貴重な人生をいかに生きるか。独自の花を咲かせるため、濵野さんはどのような「未来」を思い描いているのだろうか。
「挑戦者が挑戦し続けられるような環境を作り、面白いビジネスが東北からどんどん生まれて欲しいですね。仲間たちが“純粋な心の声から発せられる志からくる思考や行動“に集中できる環境を作っていきたいと思っています」
ビジネスの種を生み出し、そこに関わる仲間、人や組織を活かしていく。そして、そこから得た成功体験、成果、ノウハウを次の世代にどんどん繋いでいく。この“循環”を担っていくことこそが、中長期的な世界観と地域活性のあり方なのだろう。
「VISIT東北を『ベストわっしょいカンパニー』として、世界や未来に大きく貢献させていける組織にすることが現在の目標です!“仲間の夢や志を応援し合う”という文化をグループ全体に浸透させて、ファンや従業員、お客様やあらゆる関係者を巻き込み、この文化を世界中に広げていくことが夢ですね。『世界中にいる志ある方が東北を目指して集まってくる』なんてことが実現できたら嬉しいです」
濵野さん自身が挑戦し続ける姿は、同じ“夢追い人”に勇気を与え、背中を後押しすることは間違いないだろう。
しかし、羽ばたき続ける過程においては向かい風が吹くこともあろうが、不安はないのだろうか。
「他の人からどう見えるかではなく、『自分が自分に納得することが大事』だと思っているので、周囲のネガティブな反応に惑わされることは、ほとんどありません。そう思える人たちが世の中に溢れかえれば、自然と『応援文化』ってできると思うんですよね。そうなれば、『世界平和』ということにも貢献できると本気で思っているので、まずは自分が最善を尽くす。結果は副産物くらいの感覚で(笑)他者との比較ではなく、自分の中で、やるかやらないかを選択できるのは、自分だけなんです」
地方には機会も魅力もたくさんある
最後に、移住を検討している方に向けて、メッセージをお願いした。
「『都市部一極集中』という状況からも、“都市部の方がいい”と思う人が多いのが現状だと思います。でも、“地方独自の魅力”は必ず存在しますし、『キャリアを作っていく』という意味でも地方には多くの可能性があると、僕は思っています。たくさんの魅力がありますから、地域に来る方はぜひ、“自ら開拓する気持ち”を持ってきてください。現地の人がよくいう、『うちの地域、何もないよ』は、嘘です(笑)。良さに気づいたら、ぜひ現地の方に教えてあげてください(笑)」
何足ものわらじを履きこなし、多忙を極める中でも「自分軸でブレずに生きる力強さ」を眩しいほどに感じさせてくれた濵野さん。
承認欲求のベクトルを『他者』から『自分』に合わせ、自分自身が自分に納得する。そして、徐々に主語を、私から私たちに変化させていくことに取り組む。
そこに、日々を輝かせるヒントがあると感じた。
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東北でチャレンジしたい方必見!!『株式会社VISIT東北』では、同じ志を持つ、熱き仲間を募集中です。
VISIT東北は、「志を持つ人と人でハッピーな未来を創る」をミッションに、「かっこいい、東北」を目指して、様々な事業を展開中。“東北でチャレンジしたい人”を支援するためのプロジェクトを積極的に立ち上げています。
濵野さん:「『将来東北で自分の夢を叶えたい』『VISIT東北の描く世界観に共感できる』など、熱い思いを持った仲間を、今まさに、求人募集中です!若い方でも未経験の方でも、『とにかく熱い人』を求めています。VISIT東北の思想や志に共感し、東北で一緒にチャレンジしていきたい方、ぜひ一緒にやりましょう!」
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