移住者プロフィール
中村 紘人さん
移住時期
2018年1月
利用した支援制度
地域おこし協力隊
出身地:神奈川県横浜市、前住所:神奈川県横浜市、職業:ラ・フランスクリエイター(ラ・フランス専業農家)
目次
INDEX
生涯を捧げたいと思えた「ラ・フランス」との運命的な出会いで移住を決意
本当にやりたいことを探してたどり着いた農業の道
「初めて『生涯を捧げてみたい』というものに出会った。それがラ・フランスでした」
ラ・フランス柄のシャツを着てインタビューに応じてくれた中村さん。画面越しからもラ・フランスへの情熱が溢れていた。
現在はラ・フランスの専業農家として活躍している中村さんだが、幼いころから農業に縁があったわけではなかったのだそう。
神奈川県横浜市で生まれ育ち、移住前まで都会の街で生活を送っていた。農業を営む家庭で育ったわけでも、親戚に農家がいたわけでもなかったという。
「中学生の頃に訪れた長野県での農業体験が、農業を志す原体験となりました。でも、当時は希望して参加したわけではなく、生徒全員が授業の一環として参加していたので、受け身ではありましたね」
その後、農業への気持ちを内に秘めつつも、時は流れていった。学生時代は演劇に力を入れており、当時友人に勧められたこともあってアナウンサーを志望していたのだとか。
大学卒業後の進路を決めるために”本当に自分がやりたいこと”を考え抜いた結果、農業体験での記憶が心に留まったという。
「普通に就職活動をして、やりたいと思えない仕事の会社の試験を受けるのも、少し違うかなって。自分の過去を振り返ったとき、農業体験で自然と触れ合いながら外で仕事をすることに魅力を感じていたことや、農業をやってみたいと思っていた時期があったことなど、農業に対する気持ちを思い出したんです」
やりたいことに真っすぐ進む中村さんの決断は、そう簡単にまねできることではないかもしれない。しかし、行動の原動力になったもう1つのきっかけも続けて話してくれた。
山形県河北町での農業体験をきっかけに移住を決意
「農業をやるなら、都心にこだわる必要はないし、移住も案外悪くないかなっていうぐらい、気軽な気持ちだったんですよね」
そう語る中村さん。移住について調べている中で「地域おこし協力隊制度」を知ったのだそう。その後、都内のふるさと回帰支援センターで開催していた「地域おこし協力隊説明会」に参加したところ、山形県河北町の担当者と出会い、具体的に移住の話が進んだという。
「河北町で農業分野の地域おこし協力隊の募集があり、興味があって話を聞きに行きました。担当者の方もとても感じの良い人で、移住体験はいかがですか?と誘われたのがきっかけで、河北町へ足を運ぶことになったんです」
説明会参加後、すぐに河北町へ訪れた中村さん。現地では農作業を体験し、農家さんと出会い、言葉を交わしたそうだ。そしてそこで「ラ・フランス」と出会い、中村さんの人生は大きく変わる。
「農業体験に参加したのが10月末頃で、ちょうどラ・フランスが美味しいシーズンだったんですよね。お土産に頂いて食べた時に、びっくりするくらい美味しくて。その美味しさに感動して『自分のやりたいことはラ・フランスだ!』と思ったんです」
昔から果物が好きだったという中村さん。農家にはなりたいと漠然と考えていたものの、”何を作るか”が決まっていなかった中で、河北町でのラ・フランスとの出会いは運命的だったと語る。
地域おこし協力隊制度を活用して農業を学ぶ道へ
農業研修を通じて自身も学びながら一次情報を発信する仕事
地域おこし協力隊での仕事は、河北町の農業振興につながる活動に取り組んだという。農家さんを訪れ、新規就農者向けに農業研修を企画・調整するなど、自身も一緒に体験をしながら一次情報を発信したのだとか。
「地域おこし協力隊の活動では、役場の人とも相談させてもらって自分も技術を学べる時間を作ってもらいました。
わたしの場合、地域おこし協力隊になることが目的ではなくて、その先の農家になるための制度活用だったので、ずっと役場の中にいる仕事というよりは、農家さんの近くで技術を学ぶ活動がしたいとお願いしました」
地域おこし協力隊は総務省の制度ではあるものの、実際の運用内容はそれぞれの自治体の裁量に任されている。自治体担当者に卒隊後のビジョンを伝え、相談して活動の方針やスタンスを決めていくことで、本人にとっても地域にとっても卒隊後の定住や仕事作りにつながる有意義な活動になるだろう。
新規就農で地域おこし協力隊を活用するメリット・デメリット
新規就農者が農業に関する技術を学ぶには、中村さんのように地域おこし協力隊活動を通したスキルアップや、地域の農家さんの元で農業研修を受けて学ぶ方法など、いくつかの方法がある。
地域おこし協力隊をしながら多くの農家さんと農業研修を体験した中村さんから、新規就農における”地域おこし協力隊”と”農業研修”の特徴について伺った。
「新規就農時には、国の制度を活用して生活のためのお金をもらいながら、農業研修を受講することができる制度があります。この方法だと、 1ヶ所の研修先農家に1~2年お世話になってしっかりと学べます。一方で、地域おこし協力隊の場合は、いろいろな農家さんと知り合いになって、人脈ができたり技術を学べるのが良い点ですね」
今でこそ”ラ・フランス専業農家”として活動している中村さんだが、当時はさくらんぼや桃など、複数の果樹を中心に生産をしていくビジョンを描いていたという。
どんなものを作るか決まっていない状態で新規就農を目指すのであれば、選択の幅を広げるために、多くの農家さんと出会える地域おこし協力隊を経ての就農も、最適な方法の1つなのかもしれない。
「お世話になる農家さんとの相性も大切です。わたしの場合は、河北町での農業体験で出会った農家さんにカリスマ性があり、とてもかっこよくて『この人についていきたいな』って思ったんですよね」
後に「師匠」と語る農家さんと出会い、地域おこし協力隊の活動を通じて師匠から農業を学ぶことができた中村さん。
地域おこし協力隊の魅力を語る一方、デメリットも語ってくれた。
「いろいろな農家さんの農業研修をスポット的に受けることで、得られる技術は広がりますが、その一方で実際に必要な細かい運用面を学ぶことは難しいかもしれません。
例えば、種をまく時期をいつにしたら良いのかや、普段の資材はどこで購入しているのかなど、細かい運用面は見えてこなかったんですよね。農業研修制度を使って長期間1ヶ所の農家さんから学んでいれば、そういったことも学べたとは思うんですけれど」
作りたいものや教わりたい人が決まっている場合、1人前の農家として活動していくためには、「集中的に」か「四季を通して」一連の技術が学べる農業研修制度の方が合っている場合もあるそうだ。
河北町へ移住して感じたギャップ
中村さんが移住した山形県河北町は、山形県の中央に位置しており、盆地特有の内陸性気候が特徴だ。盆地ゆえに寒暖の差も激しい。神奈川県横浜市出身の中村さんは、移住後に見た雪景色に驚いたという。
「ギャップは強かったですね!移住したのが1月だったので、雪が積もった”しんとした景色”が太平洋側とは全然違うんだなって驚きました。移住前は雪道を運転することもなかったので、それも大変でした」
仕事で農家さんを訪ねるためには車が必須となるため、中村さんも最初は苦労したのだそう。積雪地帯へ移住するなら、雪道の運転にも少しずつ慣れていく必要があるだろう。また冬場に果樹の剪定作業を行う中村さんは、冬場の農作業の大変さも続けて語る。
「農道に積もった雪は自分で除雪が必要なので、畑に行くまでが大変ですね。車で入っていけないので、畑まで歩いて通ってます(苦笑)」
雪景色は見た目には美しいものの、そこで活動を営むにはそれなりの大変さが伺えた。冬場の積雪の大変さがある一方、河北町はコンパクトな街で住みやすいのが特徴と語る中村さん。
「ほどよい田舎で、とても暮らしやすいのが気に入っています。わたしが住んでいる場所もスーパーまで徒歩で2~3分ですし、街の端から端までも車で20分くらいあれば行けます。普段の暮らしは、実は横浜にいた頃と変わらないです」
生活に必要な拠点が遠すぎない場所に位置しているのが、暮らしやすさのポイントなのだろう。
ラ・フランス専業農家として西洋梨を追求し、専門家を目指したい
若くしてラ・フランス専業農家として活躍される中村さん。自社サイトで大玉のラ・フランスや100%ジュースなどを販売しているが、今後の展望についても伺った。
「今後は他の西洋梨の品種にも取り組んでいきたいですね。自分が農業に進むきっかけになった果樹ですし、ラ・フランスに出会って人生ガラッと変わったので、この西洋梨を追求していきたいです」
品種の違いによって香りや味が変わったり、収穫後の追熟などによっても美味しさが大きく変わるのが西洋梨の特徴なのだとか。
「西洋梨って調べてみると面白いんですよね。ラ・フランスってフランス原産なんですけれど実はもうフランスでは作られていなかったり、美味しくなる食べ方にもメカニズム(※)があったりして。
将来的には”食べるだけのラ・フランス”だけではなくて、食べる以外の楽しみ方など”知識としてのラ・フランス”も知ってほしい想いがあって、そういった活動もしていきたいですね」
今後もラ・フランス農家として西洋梨の専門家を目指すとともに、世の中にラ・フランスの新しい楽しみ方を発信する”ラ・フランスクリエイター”としての活動が楽しみだ。
※ラ・フランスは収穫後にすぐに食べるわけではなく、追熟が必要。収穫後に2週間ほど冷蔵庫で冷やして(予冷)、果皮の呼吸を抑制する。その後、冷蔵庫から出すことによって一気に追熟が始まり、果肉が柔らかくなるメカニズムがある。
移住して農家を目指すなら学ぶ場所を大切に
最後に、今後農業を志す人へ向けたアドバイスをいただいた。
「わたしの場合は、勢いで河北町に移住して農業をはじめたところがありますが、やっぱり現地に訪れて、現地の人と話して、『ここならやっていけそうか』を確かめることが大切だと思います。
後で知ったことですが、ラ・フランスを作るなら河北町ではなくて、隣の天童市の方が生産地としては盛んだったんですよね。ラ・フランス農家が多いということは、それだけ空きが出る農地も多いはずなので」
農地を得られるかどうかは、新規就農に際して最もハードルが高いことだろう。
中村さんは地域おこし協力隊の活動を通じて「ラ・フランス農家になりたい」ことを表明し、偶然にも訪れた人のご縁によって空くことになった農地を継ぐことができた。
移住も新規就農も勢いは大切にしつつも、現地の人を知り、現地の土地を学ぶプロセスを忘れずに情報収集していくことが肝心といえるだろう。
新規就農に関する情報収集は、中村さんも参加をしていた農業人フェアや農業EXPOといったイベントへの参加も有効だ。
「わたしもそうだったんですが”農業をやりたい”ってけっこう漠然としているんですよね。イベントに参加すると、自治体の農業振興課の担当者だったり、実際に研修生を受け入れている農家の方から話を聞くことができるので、就農支援制度の話や農業研修の理解が深まると思うんですよ」
やりたいことを求めて農業体験という小さな一歩から踏み出し、縁もゆかりもなかった河北町へ移住した中村さん。
気づけば人と地域のご縁で農家として歩みだし、お客さまに美味しいラ・フランスを届けながら「ラ・フランス」そのものの面白さや奥深さを広める活動も進めている。
順風満帆に見える彼の農家人生だが、そこには農業の技術を学んだり、人脈を築いたりするまでの3年間の地域おこし協力隊期間があった。例えるなら、ラ・フランスの美味しさや魅力を引き出すような“追熟”の期間ともいえるだろう。
新規就農を目指す方は、中村さんのように「農家になりたい」という直感と勢いを大切にするとともに、技術や人脈を作る期間も踏まえ、中長期で検討を進めていくと良いだろう。
- ワープシティとのコラボ企画で、中村さんが生産しているラ・フランスが抽選5名様に当選する「先輩移住者のプレゼントキャンペーン」を2022/10/21(金)まで開催中!
詳細はコチラ→https://warp.city/posts/23152
中村さんが生産しているラ・フランスのECサイトはこちらからご確認いただけます。
●ECサイト:https://nlafrance.thebase.in/