移住者プロフィール
片山 文恵さん
利用した支援制度
地域おこし協力隊
群馬県富岡市の地域おこし協力隊、趣味・特技:登山・自然観察
目次
INDEX
地域おこし協力隊の応募動機について教えて下さい。
妙義山に魅了され、地域おこし協力隊に応募しました。
妙義山は、古くから山岳信仰の対象として多くの人々が手を合わせ、山伏たちが修行を積んだ神聖なお山です。しかし、明治時代の廃仏毀釈運動が特に激しかった北関東に位置する妙義山では、その痕跡がほとんど失われ、現在では山伏も存在しません。
地域の人々の記憶からも、「妙義山は神聖な山」という概念が薄れつつあります。
私は修験道の寺で得度をした行者(山伏)ですが、一人の山伏として、どうしても妙義山の文化の風化を食い止めたいという強い思いがありました。そこで、昨年募集された富岡市地域おこし協力隊に応募しました。
群馬県富岡市を選んだ理由について教えて下さい。
ちょうど私が応募した2023年は、富岡市が「妙義山名勝指定100周年」を迎え、妙義山の観光振興に力を入れている時期でした。
募集がかかった協力隊のミッションは、「妙義山を中心とした妙義地域の観光振興」というもので、これは私が望んでいた「妙義山の信仰文化を多くの人に知ってほしい」という想いを実現するのに理想的な内容でした。
実のところ、富岡市がどのような自治体かはほとんど知らなかったのですが、妙義山に導かれたかのように応募することになったのです。
地域おこし協力隊の仕事内容について教えて下さい。
『妙義山を中心とした妙義地域の観光振興』というミッションに取り組んでおり、地域の皆さんと協力しながら、妙義の文化、歴史、自然について発信し、イベントの企画・実施を行っています。
また、私は山伏でもありますので、妙義山内での修行を通じて「ここは山岳信仰の山であり、神聖な場所である」ということを、言葉を介さずに伝えることができます。そのため、お山に入る際は、できる限りきちんと装束を着用して臨んでいます。
「妙義山に連れて行ってほしい」という方がいらっしゃった場合には、私たちが「峰入(みねいり)」と呼ぶ、単なる登山ではない神聖な山歩きの先達も務めています。
さらに、私のデスクは昨年オープンした妙義ビジターセンターにあり、そこで展示物の作成にも携わっています。大人から子供まで、妙義を分かりやすく知ることができるよう、そしてものの見方が変わるような展示方法を工夫しています。
地域おこし協力隊のやり甲斐はなんですか?
地域の方々との交流を通じて見えてくる、皆さんの気持ちの変化が、私にとって何よりのやりがいです。山伏なんて聞き慣れないし、見たこともない妙義の方々にとって、最初の頃、私は『変なやつ』に映ったと思います。
移住したばかりの頃は、茶化されたり、距離を置かれたりすることもありましたが、それでも少しずつ、理解を示してくださる方が増え、手を合わせてくださる方も増えてきました。
最近では、私がお山から下りてくると、「お疲れ様。法螺貝の音が聞こえたから、ふーちゃんが下りて来たかなと思って迎えに来たよ」と、お家から出てきてくださる方もいます。
本当に少しずつではありますが、妙義本来の「妙義山の自然に感謝し、手を合わせる」という文化が戻ってきているように感じます。それが私にとって何より嬉しいことであり、一番のやりがいです。
地域おこし協力隊になって想定外だったことを教えて下さい。
想定外だったことは特段ありません。もちろん「アチャー」と思ったり、「困ったなぁ」と思うことはあります。ただ生きるとはそういうものだと思うので、想定外ではありません。
敢えてその「アチャー困ったなぁ」なことを挙げますと、一つは妙義はヤマビルがものすごく多いということです。いや、山ですからヤマビルくらい多少いるものなのですが、「思ったより多いな…」という感じです。
夏の妙義山では、うかうか休憩もできませんが、それもまた修行の山!という感じでいいですよ!(笑)
卒隊後のビジョンがある場合は教えて下さい。
宿泊施設をオープンしたいと思っています。宿坊のようなイメージをしていただけると分かりやすいかもしれません。もともと移住前も『山伏女将』として宿泊施設を6年半ほど運営しておりました。
山に興味がある方、自然に興味がある方、山伏に興味がある方、修行がしたい方…そんな方が気軽に来られる施設です。そして知的好奇心や自分の中の鬱屈とした何かを言葉と体験の両方で満たし、気付くことができる宿を妙義山の麓で作っていくつもりです。
聖地で一晩過ごす、という体験はそれだけで特別なものですから。
富岡市の住民と触れ合った際の印象と、裏付けるエピソードについて教えて下さい。
妙義の人々は驚くほどオープンで、そのあたたかさに本当に驚かされました。積極的に声をかけてくださり、イベントにも積極的に参加してくださいます。皆さん、いろんなことを気にかけてくださり、私がSNSやメディアで発信した内容も「見たよ!」「読んだよ!」とわざわざ伝えてくださるんです。これまでに話したことがある方だけでなく、話したことがない方もです。本当に素敵な地域だと思います。
今年の春、お山に入る前に山伏装束を着ていたところ、たまたま通りかかったご婦人が「あっ、あなた妙義の山伏の方?記事読んだよ。いつも楽しみにしてるよ」と声をかけてくださいました。
つい先日も、近くにお住まいのおじいさんが通りすがりに「行者にんにくの種が採れたけどいるか?じゃあ、今度ポストに入れといてやるよ」と声をかけてくださったんです。もしかして、私が行者だからでしょうか?(笑)
翌日には、きれいに紙に包まれた行者にんにくの種がポストに入っていました。おかげさまで、移住者である私ですが、毎日少しも寂しさを感じることなく、充実した日々を過ごしています。
富岡市の魅力について教えて下さい。(自然やグルメ、オススメスポットなど)
やはり、何よりも心惹かれるのは妙義山です。他では見たことのない、独特のお山です。妙義山は、標高こそ高くはありませんが、その山容は群を抜いて奇抜で、他に類を見ないものです。
かつて、妙義山を見た文人が「これは山ではなく、岩だ」と言い残したほど、妙義山は切り立った岩壁が連なる峩々たるお山です。
この峩々たる妙義山を登れとは言いませんが、一度、間近でその姿を見に来てください。一度見れば、その圧倒的な存在感を全身で感じることができるでしょう。全身の細胞が一斉に「これはヤバい」と訴えかけるはずです。この感覚こそが、山岳信仰の根源だと私は信じています。
さらに、そのお山の麓にある妙義神社には、今も天狗が祀られています。山伏の姿をした厳めしい天狗。その姿こそが、妙義山の山岳信仰を今に伝える象徴です。
ぜひ皆さん、妙義に足を運んで、この特別な場所を感じてください。
移住を検討している方にメッセージをお願いします。
自分の気持ちにしっかりと向き合い、行きたいと思ったら迷わず行く、何か違うかもと感じたら無理に行かない。まずはそこが一番大切だと思います。自分自身で決断することが重要です。
そして、移住は「一方通行ではない」ということを覚えておくことが大切です。移住してみて「やっぱり違った」と思うこともあるでしょう。
その時は、また元の場所に帰ればいいんです。「ただいま!」って、帰れる場所に帰ればいい。そういう気持ちでいれば、プレッシャーに押しつぶされそうになった時、寂しさに耐えられなくなった時、焦りから何をすべきか分からなくなった時、そんな苦しい瞬間にも、「大丈夫、だめだったら帰ればいいんだから」と思えます。
そうすることで、冷静な自分に戻れるんです。矛盾するようですが、私にとってはそれこそが、「その土地に根を下ろすコツ」だと思っています。
地域おこし協力隊の詳細についてはコチラ↓
https://warp.city/features/2