移住者プロフィール
長山 智寛さん
利用した支援制度
地域おこし協力隊
鹿児島県指宿市の地域おこし協力隊、趣味・特技:お絵描き・ドライブ・ごはん・パン作り(元自営)・ジェラート作り(現経営・ジェラート屋Maru。)
目次
INDEX
地域おこし協力隊の応募動機について教えて下さい。
実は「地域おこし協力隊になろう」と強く思って応募したわけではありませんでした。コロナ禍を経て、神奈川・川崎で営んでいた自分のパン屋を閉める決意をし、次に何をしようか考えていたとき、自分のスキルや経験を活かして複数のスモールビジネスに挑戦したいと思うようになりました。
そのため、競争が激しい川崎よりも、地方で自分の価値を再確認しながら人生の再スタートを切りたいと考えました。生活にはさまざまな費用がかかり、事業を始めるにはさらにお金や時間、人とのつながりも必要です。ただ、地方に移住しただけでは上手くいかない可能性が高く、かえって費用がかさむリスクがあるとも感じていました。
そこで、地域に溶け込みながら家賃などの補助が受けられ、一定期間の収入が安定している仕事を探していたところ、「地域おこし協力隊の募集」を見つけました。副業が可能で、自分の求める条件に合致していたこと、そして3年という期限が自分を奮い立たせるのにちょうど良いと感じ、応募を決意しました。
職種については、さまざまな人と知り合う機会が多ければ良いなと考えていたため、特に内容に強い関心があったわけではありませんでしたが、今では「空き家」に関するミッションで良かったと感じています。
鹿児島県指宿市を選んだ理由について教えて下さい。
父からの「指宿に土地があるから、開墾してみたら?」という一言がきっかけで、移住を決めました。元々、長山家は指宿・開聞がルーツで、僕が物心ついた頃には鹿児島市内に移り住んでいましたが、父は指宿で生まれ育ちました。そのため、鹿児島にはよく訪れており、指宿にも何度か足を運んだ記憶があったので、なんとなく安心して移住を考えることができました。
ただ、実際に生活するイメージはなかったので、まずは下見をしてみることにしました。移住を決意するまでには、生活圏の確認や、継続して生活ができるかどうかを慎重に考えました。指宿市の「お試し滞在サポート」を利用して、二度指宿を訪れ、移住を視野に入れて実際に生活を体験することで、短期間ではありましたが、非常に有意義な判断材料を得ることができました。
実際に引っ越してからは、市街地から少し離れているため、スーパーやドラッグストアが遠いと感じることもありますが、それでも車で5分もかからない程度です。その分、光害が少なく、家の前から天の川が見えるのには驚きました。
僕にとって、指宿は本当に風光明媚な田舎というよりは、少し車を走らせると自然が広がる、程よく便利な場所です。このバランスが自分にとって理想的な地方移住となりました。ちなみに、長山家の土地の開墾は、まだ手をつけていませんが、それもいつかの楽しみにしています。
地域おこし協力隊の仕事内容について教えて下さい。
ミッションは「空き家の利活用・空き家バンクの運営」です。1年目には、まだ空き家バンクが存在していない段階から、移住向けWebサイト「いぶすき暮らし」内に「空き家バンク特設ページ」をブログ形式で立ち上げました。また、入力フォーマットをEXCELで作成し、申請からWeb掲載までの手続きを簡略化し、運営側の負担を軽減しました。空き家に関する情報量は膨大で、運営には多くの手間がかかるため、地域おこし協力隊の導入には大きなメリットがあると感じています。
調査によると、指宿市内には3,000軒もの空き家が存在していることが分かりました。現在、その空き家をランク付けし、劣化が進む前に早い段階で流通させられるよう、一軒一軒地道にデータを集めています。その結果、最近では空き家の相談を受ける際に、事前にお家の状況を把握できるため、スムーズに話を進めることができるようになりました。
今後は、地域の方々とさらに連携を深め、空き家の情報管理をより迅速かつ正確に進めていきたいと考えています。これは、地域のつながりが強い地方だからこそ可能な取り組みだと実感しています。
地域おこし協力隊のやり甲斐はなんですか?
一番のやりがいは、「この地域の役に立つ」ということが、「自分の生活を豊かにする」ことへと繋がっていく瞬間です。しかし、それは一朝一夕で達成できるものではなく、一歩ずつ進んでいくしかありません。
地域おこし協力隊の仕事は、ただ与えられたミッションをこなすだけでは、本来の目的である定住に繋がりません。通常の会計年度任用職員よりも高いハードルがある中で、地域に溶け込み、積極的に行動し、将来を見据えて取り組むことが求められます。この挑戦が、やりがいのひとつでもあります。
3年間の任期の中で、どのように考え、行動していくかが非常に重要です。私もまだ2年目に入ったばかりですが、4年目にしっかりと生活できる環境を整えるために、日々悩み、考えています。その中で「地域おこし協力隊」として活動している以上、「地域に貢献すること」を大切にしています。
理想は、ミッションをそのまま引き継ぎ、事業化して生活の基盤とすることです。それが難しくても、活動を通じて地域の問題や課題、不満などを多く耳にすることができます。それらを一つずつ解決していくことで、将来の自分の生活を豊かにするチャンスが生まれます。問題を解決し、形にできたとき、それが最大のやりがいとなります。もっとも、それが活動時間外で行われることも多いのですが。
地域おこし協力隊になって想定外だったことを教えて下さい。
一つ目は「会計年度任用職員」であることによる予想以上の制約です。市役所内に配属されると、市民からは一職員として見られ、周囲の目が思っていたよりも強く働きます。1年目は市役所内で常勤する地域おこし協力隊員が初めてだったため、活動の自由度が低く、非常に活動しにくさを感じていました。しかし、徐々に担当者やサポーターズとコミュニケーションを取る中で、行政側の裁量が意外と広く、許可される範囲がある程度あることが分かってきました。その結果、2年目からは自由度が増し、「定住」に向けた活動にも時間を割けるようになりました。
二つ目は「予算」による制約です。予算は前年度に決定されるため、急な新規事業や出張、資格必要部品の購入といった比較的小さな出費でも実施には高いハードルがあります。活動費に家賃が含まれていることも後で知り、予算の圧迫を感じました。2年目や3年目には、自分のやりたいことをしっかりとアピールし、予算を確保することが重要だと感じます。特に資格取得などの出費については、しっかりと準備をして予算を作る必要があります。
また、活動を通じて交流が増えたことで、休業中だったアイスクリーム屋さんを居抜きで借り、「ジェラート屋Maru。」を始めました。これが一番の想定外で、おおよそ1年で再びお店の開業や経営に携わることになるとは思ってもみませんでした。
卒隊後のビジョンがある場合は教えて下さい。
スモールビジネスを複数組み合わせることで、生活の安定を図りながら、さまざまな方とのつながりを続けていきたいと考えています。現在、私はWebサイトの運営・管理やジェラート屋の経営に取り組んでいますが、雇用を生み出しつつ、自分自身の収入も確保することの難しさを痛感しています。
指宿においては、地元住民だけでなく、観光客が主要なターゲットとなります。指宿温泉、砂むし温泉、開聞岳などの観光資源を活かし、外からの収入を地域に還元することを今後も続けていきたいと考えています。特にWebサイトでは、海外からのアクセスも多く、まさに「外貨」を獲得する手段として重要です。ジェラート屋「Maru。」は土日祝の営業を中心に観光客をターゲットにしており、地域経済に貢献しています。
また、空き家調査を通じてつながった不動産業者との関係も活用し、関係人口から移住への流れを作り出したいと考えています。特に若年層に向けた指宿の魅力を発信し、「指宿って本当に面白いぞ」というメッセージをうまく届けていくことが、今後の課題だと考えています。
指宿市の住民と触れ合った際の印象と、裏付けるエピソードについて教えて下さい。
一番強く感じるのは、自分のルーツが「開聞」にあることを話す時です。私は神奈川で生まれ育ちましたが、鹿児島とのハーフです。行政の方以外に地域の公民館長や集落長、空き家の所有者と関わることが多いのですが、標準語を話す私は、まず必ず「どこから来たの?」と聞かれます。「神奈川です」と答えると、「なんでこんなところに来たの?」とさらに質問が続きます。
そこで「実は祖父が開聞出身なんです」と答えると、相手の表情が和らぎ、「開聞のどこね?」と聞かれることが多いです。この会話を通じて、相手の私に対する印象が「よく分からない都会から来た若い移住者」から、「指宿に何か良いことをしようとしているゆかりのある若者」に大きく変わります。話も一層丁寧に聞いてくれるようになり、地域の状況を詳しく教えてくれるようになります。その結果、私自身も共通点が増え、親身になって対応できるようになります。
この「ルーツ」が私にとって大きな武器となっています。「なんでこんなところに」という表現を地域の方々はよく使いますが、地域に溶け込み、その良さを伝えることで、距離が縮まると感じています。地方移住においては、「安心してもらえる人間性」が最も大切な武器になると思います。
指宿市の魅力について教えて下さい。(自然やグルメ、オススメスポットなど)
指宿市は、鹿児島県薩摩半島の最南端に位置し、観光資源に恵まれた地域です。「砂むし温泉」「唐船峡そうめん流し」「開聞岳」「池田湖」「知林ヶ島」といった魅力的なスポットがあり、ポテンシャルは十分です。
指宿温泉は、塩泉をはじめ、ミョウバン系や硫黄系など、地域ごとに異なる泉質を楽しめる豊かな温泉地です。指宿が火口に位置しているため、「少し掘れば温泉が出る」ともいわれ、天然砂むし温泉のある砂浜では湯気が立ち上り、市街地には温泉のパイプが張り巡らされています。
私のおすすめルートは、鹿児島市内から南下して海岸線をドライブし、「魚見岳」から知林ヶ島を見下ろすことです。砂州が実際に島とつながっている様子や、大隅半島の近さ、指宿市街地が山々に囲まれている景色は、特に見応えがあります。
そこから、つながっていれば砂州を通って知林ヶ島へ渡り、砂むし会館砂楽でリラックス。その後は、お向かいのジェラート屋Maru。でクールダウンし、池田湖をぐるっとドライブするのもいいでしょう。指宿は美しい風景と美味しい食べ物に恵まれていますが、まだ知られていない魅力がたくさんあります。
移住を検討している方にメッセージをお願いします。
移住は人生の大きな転機です。経済的な側面も重要ですが、それ以上に、移住先での10年、20年、30年後をしっかりと考えることが大切です。
その地域が気に入っていても、ずっとそこで生活し続けられるかどうかを見極める必要があります。家を購入すれば、手放すのは容易ではありません。理想としては、数年住んでみて、その間に他の地域も視野に入れ、より自分たちに合った場所を見つけることです。もし転々とできる状況であれば、様々な地域を見て比較するのも良いと思います。
移住は人生を大きく変える力があります。誰も知らない新しい場所で新たなスタートを切ることで、自分の人生を見つめ直す良い機会にもなります。実際、私も移住を経て、旅行先でも「ここもいいな」と思えるようになり、視野が広がったと感じています。
指宿は、鹿児島市内まで約1時間の距離にあり、必要なものは基本的に揃っている「ちょうどいい田舎暮らし」ができる地域です。いきなり「森と畑に囲まれた緑豊かな場所で生活するぞ!」という高いハードルを掲げるよりも、現実的に想像しやすい移住先だと思います。
まずは、お試し滞在で数泊からでも構いませんので、ぜひいらしてください。指宿での暮らしを体験してみてくださいね。そして、ぜひ私のジェラート屋Maru。にもお越しください。お待ちしています。(ただ、私がいない日も多いですが…笑)
地域おこし協力隊の詳細についてはコチラ↓
https://warp.city/features/2