移住者プロフィール
高橋 一真さん・ 彩希衣さん
利用した支援制度
空き家改修補助金(町補助)
高橋 一真さん、出身地:京都府宇治市、前住所:京都府八幡市、現住所:長野県木曽郡上松町、高橋 彩希衣さん、出身地:北海道、前住所:京都府八幡市、現住所:長野県木曽郡上松町
目次
INDEX
- 「日本の森林浴発祥の地」を有する、風光明媚な森林の町ー。
- “自分の手で家具を一から造りたい”。一真さんの想いが繋いだ、上松町との縁ー。
- ものづくりを通じて自分の町を好きになってほしい。その一端を担うべく、地域おこし協力隊への入隊を決意ー。
- 仕事を持つ親の強い味方!待機児童問題とは無縁の上松町ー。
- 自身の「活動スタイル」と、協力隊の「活動方針」がマッチしている地域での入隊がベター!
- 人間関係の濃さを「窮屈」と捉えるか、「心強い」と感じるのかは、他の誰でもない自身が体感して初めてわかることー。
- 上松町への定住を決め購入した空き家を、補助金を活用してセルフリノベーション!
- 『人間のためにだけ存在している世界ではない』ということを、実感を持って伝えられるー。
- 山の中で暮らしているからこその自然の恵みを家族で一緒に楽しんでいきたい
- 先入観をもたずに、田舎ならではの楽しさを見つけに来てほしいー。
- 何もない場所にいるからこそ、自然からのメッセージを受け取る心が育まれるー。
「日本の森林浴発祥の地」を有する、風光明媚な森林の町ー。
長野県の南西部に位置する人口4,000人超(2023年6月1日現在)の小さなまち、木曽郡上松町。
町西部には、樹齢300年を越える天然の木曽ヒノキが林立する赤沢自然休養林を有し、「日本の森林浴発祥の地」としても知られている。
古くから林業と製材業で栄えてきた上松町には、1年制の木工の職業訓練校『上松技術専門学校』(以下、「上松技専」)があり、木工職人の夢を抱く人々が毎年県内外から集まってくるという。
本日ご紹介する高橋一真さんも、「上松技専」の卒業生のお一人だ。
幼少時代より手先が器用だったという一真さんが“木工”の世界に初めて触れたのは、遡ること小学生の時分。
地元から少し離れた町の公民館で行われた、木工教室への参加がきっかけであったという。
木工に触れた幼き日の記憶をそっと秘めたまま飲食業界に就職するも、数年後、勤めていた店舗の閉店を機に、バイクで日本一周の旅に出た一真さん。
その旅こそが、のちの伴侶となる彩希衣さんと出会いのきっかけを創出することになる。
“自分の手で家具を一から造りたい”。
一真さんの想いが繋いだ、上松町との縁ー。
旅先で運命的な出会いを果たし、半年ほど行動を共にした一真さんと彩希衣さんは、それぞれの地元に戻り、就職。
一真さんは、イギリスから輸入したアンティーク家具の修理や、ステンドグラスを扱う専門店に歩を進めたが、会社選びのきっかけとなったのは、求人雑誌に載っていた「古いものを直して使い続ける」の一文に、心を奪われたことだったという。
北海道と京都という距離をもろともせず、大切に絆を育み続けたお2人は、5年後に結婚。京都府で新たな生活をスタートさせた。
工房長に抜擢されるなど順調にキャリアアップしていく一方で、「木工の知識や技術を一から学び、自分の手で家具を造りたい」という想いが強くなっていく様を感じたという一真さんは、“基本的なことを一から学べる場所”として職業訓練校を探し、たどり着いたのが、“現代の職人の排出先”としても名高い「上松技専」であったという。
上松技専は、卒業と同時に即戦力として活躍できる人材の育成を目指す職業訓練校であり、1年間という限られた時間の中に、濃密なカリキュラムが組み込まれている。
昔ながらの手道具の使い方から、木工機械による木材加工、木材に関する基礎知識、家具製作の手法までを、“座学”と“実習”の両方を通じて学ぶことができる、全国的にも珍しい訓練校だという。
一家の大黒柱として憧れを即実行に移すことはできず、「熟考」から「実行」にステージを移すのには時間を要したという。
学校見学で最初に上松を訪れてから3年の月日が経った2017年、訓練終了まで雇用保険失業給付が支給されることも決断の後押しとなり、上松技専への入校を決意。
一真さんの夢を後押しする形で、彩希衣さんと、当時生後4か月を迎える頃だった娘さんも帯同し、長野県木曽郡上松町に移住をした。
「今考えれば(妻は)よくついてきてくれましたよね」と、一真さんが当時を回顧するように、生後数か月頃の育児といえば、睡眠不足で鉛のように重い体を引きずりながら、一日を無事に終えるだけで精一杯の頃ではないだろうか。
そんなさなかの移住となると、妻の彩希衣さんも相当な覚悟を要したことだろう。不安はなかったのだろうか。
彩希衣(さきえ)さん:「当初は、主人が職業訓練校に通う1年間だけ滞在するつもりで上松町に来たので、あまり“移住”という感覚ではありませんでした。
なので、『その地で根を張って暮らしを築いていこう』と覚悟して移住したというよりは、もう少し気楽な気持ちでした。
もちろん、知り合いが一人もいない土地で子育てをするということに大きな不安はありましたが、それ以上に、上松の大自然の中で子育てができるワクワク感の方が大きかったですね。
当時、娘はまだ赤ちゃんでしたが、成長した娘が泥んこになりながら駆け回る姿をすでに想像していましたから(笑)」
と、温かな笑みを浮かべながら、上松町に来た当時の気持ちを懐古してくれた。
ものづくりを通じて自分の町を好きになってほしい。その一端を担うべく、地域おこし協力隊への入隊を決意ー。
訓練校の卒業を目前に控え、今後どのように活動の幅を広げていくかを思案していた頃、時を同じくして、上松町による新たな取り組みが発表された。
上松技専へ入校すべく、全国各地から毎年40名ほどが上松町を訪れるというが、当時は修了生のほとんどが町外の家具工房へ就職し、町に残る者はほとんどいなかったという。
その背景には、町内の(木工業の)就職先には限りがあること、起業を考えるにあたっても、1年間という短い期間の中で学業と並行して行う難しさがあった。
「卒業後もそのまま町に残る環境を提供し、木工を通じて町を盛り上げたい」と考えた上松町は、木工振興・木育活動などを行う「地域おこし協力隊木工部」の募集を開始。(協力隊の)任期中に生活基盤をつくり、任期終了後の3年後に定住を決断しやすい環境を整えた。
一真さん:「訓練校に1年通ったからと言って、すぐに食べていけるほど甘くない世界だということはわかっていましたし、家族のことを考えると、独立してどこまでやっていけるのかという不安もありました。
そんな時に、『木工を盛り上げていこう』という活動方針を掲げ、上松町の地域おこし協力隊に木工部ができるということを知りました。木工を続けながら、協力隊の3年間の任務期間中に今度の方向性も模索できるわけですから、迷いなく応募しました」
かねてより、“ものづくりを通じて、自分の町を誇りに思う人が増えてほしい“と考えていたという一真さんは、「自分の町を好きになるきっかけ作りの一助を担いたい」との想いから、2018年に地域おこし協力隊に入隊。
同タイミングで彩希衣さんも入隊し、“畑の青魚”ともいわれるエゴマをはじめとした、上松町の特産品に関する活動に従事することに。
ご夫婦として、地域おこし協力隊の同期として、上松町での二人三脚の日々を送ることになった。
仕事を持つ親の強い味方!待機児童問題とは無縁の上松町ー。
協力隊の任期終了後も地域との“繋がり”を活かし、上松町役場で「会計年度任用職員」として、ふるさと納税に関する業務に従事しているという彩希衣さん。
共働き世帯やひとり親世帯にとって真っ先に浮かぶ問題は、「子どもの預け先の確保をどうするか」ということではないだろうか。特に、待機児童問題を抱える地域にお住まいの親御さんにとっては、頭を抱える問題である。
上松町でのワーキングママ事情を、彩希衣さんに伺った。
彩希衣さん:「うちの娘は1才から保育園にお世話になっているのですが、上松町は待機児童問題とは無縁の地域なので、預け先もスムーズに決まりました。
今は小学校1年生になりましたが、小学校には『放課後こども教室』が併設されているほか、預かり時間が18時半までで、夏休みも毎日給食を出してくれる『民間学童保育』も1つあり、小学校6年生まで利用することができるので、安心して働けています。仕事を持つ親にとって、大変ありがたい環境だと思いますね」
近年、移住支援制度や子育て関連のサポートが充実してきているという上松町。
「大自然の中に身を置きたい」と考える方や、「自然の恵みを享受し、木のぬくもりを感じながら温かみのある子育てをしたい」と考える方にとって、心くすぐられる町ではないだろうか。
上松町の補助制度一覧
https://www.town.agematsu.nagano.jp/kurashi/sumai_seikatsu/iju/R5.5.pdf
自身の「活動スタイル」と、協力隊の「活動方針」がマッチしている地域での入隊がベター!
地域おこし協力隊の代表的な活動傾向として、“ミッション型”と“フリーミッション型”の2つが挙げられる。ミッション型が、募集要項に記載されている業務内容に基づき活動するのに対し、フリーミッション型は、自由に活動に取り組むにあたり、課題設定から仕事の創出までを自身で行う。
地域おこし協力隊の「活動内容」や「活動方針」は、地域によって千差万別であるため、自身が目指す「隊員像」と地域が求める「ミッション」に、“なるべく乖離がない地域を選択する”ことこそが、入隊後の活動をスムーズに行えるか否かの分かれ道になってくるのではないだろうか。
https://www.iju-join.jp/chiikiokoshi/index.html
地域おこし協力隊の募集一覧は「JOIN」のサイトから検索できます。
https://warp.city/posts/32431
地域おこし協力隊に関するコラムはこちら☛『地域おこし協力隊になる方法。メリット・デメリットを解説!』
人間関係の濃さを「窮屈」と捉えるか、「心強い」と感じるのかは、他の誰でもない自身が体感して初めてわかることー。
ゼロベースでの「移住」という選択をする場合、“人間関係の構築”に不安を感じる人も多いだろう。
ネットを開けば、「田舎の人間関係は濃すぎる=監視される」といったような、ネガティブワードが散見されており、移住前からすでに窮屈さを感じている人もいるかもしれない。そんな時は、実際に移住を経験した“先輩移住者の生の声”が参考になるのではないだろうか。
街暮らしに慣れ親しんでいた高橋さんご夫妻は、いかにして地域の方と交流を深めていったのか。
彩希衣さん:「上松町に来た当初驚いたのは、私たち家族が越してきたことを、地域の方たちがすでに知っていたことでした。街中暮らしでご近所付き合いに慣れていなかった主人と私にとって、“周りの目が自分たちに向けられている”という感覚は、経験したことのないものでしたから。
最初はやはり戸惑いもありましたね。でも、そんな戸惑いを吹き飛ばしてくれたのも、地域の方たちでした。
越してきてすぐの頃、家の軒に蜂の巣をつくられとても困っていたのですが、その様子に気が付いてくれたご近所の方がすぐ助けになってくれました。その後も困りごとがあるたびに、地元ネットワークを駆使して手を差し伸べてくれて、上松の方たちは本当に温かいなって。
当時は『見られている』と捉えてしまったけど、“どんな人が越してきたのだろう。何か困りごとはないだろうか”と『見てくれていた』からこそ、私たちの困りごとに気がついてくれたんですよね。
そして、迷わずに手を差し伸べてくれる人が多いのも、上松町の良さだと思います」
上松町の人の温かさは、「ママ友付き合い」においても発揮されているのだという。
彩希衣さん:「上松で子育てしていて思うのが、(他人の)子どもに対する距離感がいい意味で近いということ。
子どもたちが悪いことをしたら、自分の子でなかろうときちんと叱ってくれるし、子どもたちのことも基本みんな呼び捨てなので、ママ友というよりは、親戚の中に入れてもらっている感覚なんですよね。
昔ながらの人と人との営みはとても“人間らしい”と感じますし、身内や知り合いも全くいない場所で住むことになった場合、気にかけてくれる人の存在は、とても心強く、ありがたいことだと感じています」
と、移住当初の“戸惑い”が“安心感”に姿を変えたことを語ってくれた。
「田舎特有の人間関係の濃さ」というワードには、本来「田舎ならではの強い絆」というポジティブな意味も有しているはずだ。
人間関係の濃さを「窮屈」と捉えるか、「心強い」と感じるのかは、他の誰でもない自分自身が体感し、その判断は当事者に委ねられるべきものだろう。
物事には必ず両面性があることを認識し、その情報が本当に自身にとって必要なものなのかを取捨選択するスキルを会得すれば、「自分色の移住」の実現を、大きく引き寄せることができるのではないだろうか。
上松町への定住を決め購入した空き家を、補助金を活用してセルフリノベーション!
当初は、一真さんが職業訓練校に入校する1年間のみの滞在を想定して移住したため、「移住補助金」は利用しなかったという高橋さんご夫妻だが、上松町への定住を決め購入した空き家をセルフリノベーションするため、「空き家改修補助金(町補助)」を活用したのだという。
一真さんの手先の器用さをしっかりと受け継いでいる娘さんも、漆喰を塗ったり、床板を貼ったり、小さな手でしっかりと参加!およそ4か月かかったというセルフリノベーションは、大切な家族の団らんの時間になったのだそう。
めったにできない経験をご家族一緒に積み重ねていける、上松町での暮らしの温かみが存分に伝わってくるようだ。
『人間のためにだけ存在している世界ではない』ということを、実感を持って伝えられるー。
上松での暮らしを存分に満喫している様子の高橋さんご夫婦だが、田舎ならではの“リアル”とも言える、自然との共存の苦労もしっかりと経験してきている。
以前は、刈っても刈ってもひっきりなしに伸びる草や、毎日落ちる葉の掃除に明け暮れる“いたちごっこ”の日々に疲弊したこともあったというが、自然とうまく付き合うことを決めてからは、日々のルーティンに無理なく加えることができるようになったのだとか。
だが、“工夫次第で仲良く”と一筋縄では行かないのが、野生動物との共存であるという。
「自然の中に住んでいるだけあって家の周辺には猿がいて、野菜や果樹を食べられたことは今までに何度も。ある時は玄関の前に居座っていて、家に入れないなんてこともありました」と、彩希衣さん。
相手あるゆえの難しさを語った後、「でも良かったこともあるんです」と、続けた。
彩希衣さん:「動物にも“暮らし”があり、日々を必死に生きています。そんな動物たちの姿を娘に見せることで、『この世界は、人間のためにだけ存在しているものではない』ということを、実体験から伝えることができています。
大変な面もあるけれど、自然の中で暮らしているからこその学びになっていると感じています」
困難と捉えがちな経験も、彩希衣さんのように良い面を見つめようとする視点を持っていれば、自身の生活に彩りを与える、「豊かな経験」に姿を変えることができるのではないだろうかー。
山の中で暮らしているからこその自然の恵みを家族で一緒に楽しんでいきたい
移住前は、毎日片道1時間ほどかけて通勤をしていたというお2人だが、移住後は、通勤ラッシュのストレスからも解放され、移動に費やしていた時間を、家族団らんに充てることができているという。
今後、ご家族で挑戦していきたいことを尋ねると、「自然を楽しむ時間をもっと増やしていきたい」と、あうんの呼吸で答えてくれた。
一真さん:「協力隊の時に、大量の干し柿つくりや、キノコ狩りを経験し、とても楽しかったんです。最近は仕事が忙しくてできていなかったので、もう少し落ち着いたら、家族でゆっくり自然を楽しむ時間を取りたいと思います」
彩希衣さん:「自家製の梅干しをつくったり、自然からの恵みで保存食を作ったりすることが本来とても好きなので、もっと時間を有効活用して、自然を存分に楽しんでいきたいですね」
先入観をもたずに、田舎ならではの楽しさを見つけに来てほしいー。
最後に、移住を検討している方に向けてメッセージをお願いしたところ、「『田舎ならではの楽しさ』は必ず存在すると思うので、皆さんそれぞれに楽しみを見つけてほしいと思います」と、先輩移住者だからこそ伝えられる、力強いエールを送ってくれた。
彩希衣さん:「私自身、移住前は“田舎暮らしは大変そう”と思っているうちの一人でした。
実際に移住してみて、その土地に身を置いたからこそ知ることができた、(その土地の)良さも大変さもありました。
まずは先入観を持たずに、“田舎暮らしの楽しさを見つけに行こう”という感覚で、一旦その地に身を置いてみるのもひとつではないでしょうか。何事も自分自身で経験しないと、合う合わないはわからないですから」
何もない場所にいるからこそ、自然からのメッセージを受け取る心が育まれるー。
娘との毎朝のやりとりが、何より幸せな時間です
仕事と家庭を両立する彩希衣さんに、忙しい日々の活力になっていることを尋ねると、「娘との毎朝のやりとりです」と、弾けるような笑顔を見せてくれた。
彩希衣さん:「例えば雨の次の日に一緒に歩いていると、用水が増えていることに疑問を持った娘が質問してきたり、『今日からカエルさんが鳴き始めたね』と会話を交わしたり、霧雨の後、霧の中を歩いていく感覚から少しずつ晴れていく変化を一緒に体感したり・・。
毎日娘が何かしら発見してくれるので、そのやりとりが個人的にものすごく楽しくて。これからも大切にしていきたい、娘との幸せな時間ですね」
小学校に行く道すがら、娘さんは毎日違うお花を摘んで、彩希衣さんにプレゼントしてくれるのだという。
何もない場所に身を置いているからこそ、道端の一輪の花にそっとこめられた、自然からのメッセージを受け取る心が育まれるのだろう。
自然から得られる季節の移ろいを数えきれないほど体感し、自然の一部になって生きることは、人間の本来の幸せを考える機会を与えてくれるのかもしれないー。
参考URL:『上松町に暮らす』
https://www.town.agematsu.nagano.jp/kurashi/sumai_seikatsu/iju/agematsu_immigration.htm