<h2>地域おこし協力隊の応募動機について教えて下さい。</h2>私の出身地である浜松市に戻りたいと考えていた際に、地域おこし協力隊の活動を知り応募しました。学生時代から千葉や東京で過ごしていましたが、いつか静岡県浜松市に戻りたいという気持ちを持ちながら過ごしていました。そんな時に浜松市・静岡市の人口減少率のニュースを目にしました。育つ子どもがいなくなるということは、「育った地域を思い返す人も減る」ということだと考え、自分の得意なことや経験を浜松市に還して、ほんの少しでも変化のきっかけを作りたいと考えました。また、浜松市の地域おこし協力隊（※浜松市山里いきいき応援隊）の活動はフリーミッション型なので、自分のやりたいことを積極的に行える場所だと感じたことも、理由の一つです。※浜松市の地域おこし協力隊は、地域へ馴染みやすくするために独自名称を利用しています。<h2>静岡県浜松市を選んだ理由について教えて下さい。</h2>応募動機と重なる部分はありますが、出身地の浜松市に戻りたいという思いが理由のひとつでした。家族4人で移住し、子どもの頃の楽しかった思い出を追いかけながら、豊かな自然環境の中で子育てをしたいと考えました。また、これまで木工おもちゃの販売の仕事を行ってきましたが、「こんな商品やおもちゃがあったらいいのにな」というアイデアを自分で形にして作りたいという気持ちがありました。日本三大美林にも選ばれている「木と育つまちの天竜区」で、地元の天竜材を活かした活動をしたいと考えたことも、この場所を選んだ理由です。<figure class="image"><img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2024/09/28/K2ZFzYT0mcjVgHAwvF-nM/JpzP-aVqTmzoYMYg2qHwc.webp"></figure><h2>地域おこし協力隊の仕事内容について教えて下さい。</h2>浜松市の地域おこし協力隊の活動はフリーミッション型です。地域のためになる活動を自分で考え、探して、見つけたことが仕事になっていきます。メインの活動になっているのが木のおもちゃの遊び場作りですが、以下の活動も行っています。<ul><li>地域や学生に向けたおもちゃ講座</li><li>デイサービスやシニアの方々に向けたリハビリゲームや支援</li><li>オリジナルおもちゃの制作</li><li>お祭りやイベント出店</li><li>耕作茶園でのお茶作り</li><li>移住者の呼び込みや空き家の開拓</li><li>観光スポットや暮らしの魅力発信</li></ul><figure class="image"><img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2024/10/07/-9EMqEXy356ofznTj9ilP/pcoHNhNvoF3yRNk6Bw03d.webp"></figure><h2>地域おこし協力隊のやりがいはなんですか？</h2>地域の方々から活動を認めていただき、褒めていただいたときに、最も強くやりがいを感じます。手探りで行っている活動でも、地域の皆さんがしっかりと見守ってくださり、私の想像以上の反応や感謝をしていただけることがあります。自分の取り組みが確実に地域に届いていると実感したときに、「もっと頑張ろう」という気持ちが湧き上がり、新しいアイデアが生まれてくることもあります。地域おこし協力隊の活動を通して、常に地域や街のことを考えるようになりました。普段何気なく過ごしていた日常の中にも、多くの人々が関わり、まちづくりが進んでいることを知るようになったのです。自分の活動がその一端を担い、地域の発展につながる可能性があることに、大きなやりがいを感じています。<h2>地域おこし協力隊になって想定外だったことを教えて下さい。</h2>最も予想外だったことは、「人との繋がりが驚くほどの速さで広がっていく」ということです。初めてのつもりで挨拶をしても、すでに名前や活動を知っている方が多く、その注目度の高さは想像以上でした。積極的に活動していると、人が人を繋ぎ、新しい関係や活動のチャンスがどんどん広がっていきます。これが想定外ではありましたが、地域おこし協力隊の大きな特徴であり、強みになっていく部分だと感じました。のんびりとした環境にいるにもかかわらず、「もっと1日の時間が長ければいいのに」と感じるほど、充実した濃密な時間が過ぎていきます。<h2>卒隊後のビジョンがある場合は教えて下さい。</h2>卒隊後は、浜松市天竜区で天竜材を使ったおもちゃ作りを続けながら、この地域に住みたいと思ってもらえるような魅力発信やイベント企画、移住者の呼び込みを行っていきたいと考えています。特に、得意分野である子育て支援とおもちゃ作りを軸に、「子育てのまち浜松」や「子どもを育むまち天竜区」というイメージを作り上げたいという夢を描いています。生まれ育った浜松市が、そんな未来に向けた一歩を踏み出すきっかけとなれたら、とても嬉しく思います。また、私が特に関心を持っている0歳から6歳頃までの子どもたちの基礎づくりに力を注ぎ、今後もその支援を追求していきたいです。<h2>浜松市の住民と触れ合った際の印象と、エピソードも添えて教えて下さい。</h2>私が移住したのは、【天竜区竜川地域の横山町】という町です。この地域には、子どもたちを思いやる温かさがあり、本当に素敵な場所です。移住して2日目に散歩をしていた際、地域の方が声をかけてくださり、お酒の席に招待していただきました。見ず知らずの私を温かく迎え入れてくださり、地域の歴史や想いを語っていただいたことが印象に残っています。今では、毎週お酒を飲み交わすほど親しい仲になっています。さらに、この地域には、歴史や文化を大切に考える若者たちのグループがあり、地域の未来を真剣に考える人が多くいることに感動しました。こうした意識が高い方々がいることが、この地域の素晴らしさの一つだと感じています。私は家族で2人の子どもを連れて移住しましたが、「子どもの声が聞こえるのが嬉しい。騒がしくなるのが楽しみだ」と多くの方に温かく声をかけていただき、安心感を覚えました。<figure class="image"><img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2024/10/07/-9EMqEXy356ofznTj9ilP/QDL599vZXlRD42tUNRJiD.webp"></figure><h2>浜松市の魅力について教えて下さい。（自然やグルメ、オススメスポットなど）</h2>浜松市は、海、川、森、歴史、文化、自然が全て揃う魅力的な場所です。日本のほぼ中心に位置しており、東西南北どの方面へもアクセスが便利です。地元の人々は、穏やかでのんびりとした性格の中に、「やらまいか精神」（やってみよう精神）が強く根付いています。実際に訪れてみないと分からないこの浜松市の魅力を、ぜひ一度体験しに来てください！<figure class="image"><img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2024/10/15/-9EMqEXy356ofznTj9ilP/N6zBhAiUOPRs-VTGdmr3d.webp"></figure><h2>移住を検討している方にメッセージをお願いします。</h2>移住の一歩は大きな決断になると思います。「やらまいか」とは、浜松の方言で「とにかくやってみよう」「やろうじゃないか」という意味です。この言葉には、チャレンジ精神を大切にする浜松の人々の気質が込められています。そんな精神を持った方を、きっと浜松市は温かく迎えてくれることでしょう。この記事を読んでくださった方と、どこかでお会いできる日を楽しみにしています。地域おこし協力隊の詳細についてはコチラ↓ <a href="https://warp.city/features/2" target="_blank" rel="nofollow noopener noreferrer">https://warp.city/features/2</a>

ワープシティ公式

「地域おこし協力隊」とは、地方自治体が地域外の人材を「地域おこし協力隊」として任命し、地域の魅力PRや、農業・漁業への従事、イベントやお祭りの運営など、様々な地域協力活動を行ってもらい、その地域への定住・定着を図る、総務省の取り組みです。

自治体から地域おこし協力隊に委嘱される地域協力活動の内容はさまざま。
地域おこし協力隊の方々は、ふだん一体どのような仕事をしているのでしょうか。

ワープシティは、全国の地域おこし協力隊の隊員にご協力いただき、応募動機や仕事内容、仕事のやり甲斐などについてヒアリングをいたしました。
地域おこし協力隊への入隊をご検討中の方は、ぜひ参考にしてください！

「地域おこし協力隊に聞きました！」第144回目にご協力いただいた地域おこし協力隊の方は、静岡県浜松市の平野健寿さんです。

浜松市

静岡県

静岡県浜松市の地域おこし協力隊、趣味・特技：木工おもちゃ・遊び場作り

平野　健寿

#144 浜松市・天竜区の木と共に歩む未来。ふるさとへの想いと地域活性化の挑戦

<h2>将来を迷う中で出会った伝統工芸の世界</h2>「子どもの頃から絵を描くのが好きで、描くと大人に褒められて、また描いて、褒められて、うまくなって……その連鎖でしたね」そう話す桂川さんが、本格的に美術の世界へと足を踏み入れたのは、高校生の頃。美術科の学校でみっちりと油絵を勉強した。「将来は、絵を描く仕事ができればと漠然と考えていたのですが、当時主流だった現代アートの作品を見ているうちに、自分が本当にそれで食べていけるのか、やり続けられるのか、自信が持てなくなって......」そんな時に足を運んだ展覧会で出会ったのが、人間国宝でもある漆芸家・松田権六の作品。「『草花鳥獣文小手箱』という作品を見て、ものすごく感動したんです。金がふんだんに蒔かれた箱に、動物や鳥たちが走ったり、飛び回ったりしている様子が描かれたもので、実は箱の内側に獅子がいて、その吠え声で生き物たちが逃げ出している様子なんです。その姿があまりに可愛らしくて。伝統的な技術というと、古めかしいものと捉えられがちですが、受け継がれてきた技術にその作家が生きた時代の感覚が組み合わさると、こんなに素敵な表現になるのかと感動しました」<h2>日本古来の染色技法・ろうけつ染の伝統をつなぐために</h2>工芸を勉強しようと心が決まり、東京藝術大学の工芸科に進学。漆や金工、陶芸など、さまざまな技法を学ぶ中で、最も興味をもったのが染色だった。「絵を描くのに似ていながらも、たくさんの色を使いながら絵具とはまた違う表現ができるところに惹かれました」染色の中でも、桂川さんが専門として選んだのがろうけつ染め。日本で最も古い防染技法の一つで、液体状にしたロウを布につけることで、その部分だけ染料液が染み込まずに模様が生まれる。「油絵は、キャンバス地に顔料と糊剤を混ぜた絵の具を重ねていくので、どんどん表面が盛り上がっていきますが、ろうけつ染めはいくら色を染め重ねても、ロウをお湯で洗い流してしまえば、一枚のフラットな布になる。その潔さ、すがすがしさがすごく面白くて。こうした染色の技法というのは、水が豊かで四季がある日本の風土とも深く関係していると思います」西洋から入ってきた油絵に対置するものとして、ろうけつ染めをとらえているという桂川さん。およそ1300年前と変わらない日本古来のやり方で作品を表現できることにロマンを感じると話す。「当時の人から脈々と受け継がれてきたものの延長線上に自分がいて、今、自分がやっている表現がその一部となって、伝統をつないでいく。それはとても意義深いことだと感じています」<h2>日常の出来事をかみ砕き、作品として昇華</h2>眠っていた記憶を呼び覚ますような色彩の取り合わせが印象的な、桂川さんのろうけつ染め作品。<figure class="image"><img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2024/03/03/IurpajjORaaiP5rDRE0hG/0GgKiZbLSF24VHdX5R64C.webp"><figcaption>2023世界遺産 富岡製糸場での個展　写真：Yuri Komuro</figcaption></figure>中でも特に思い入れが深いのは、2014年に東京藝大の博士審査展のために制作した作品だという。「博士課程に入学する直前に、まだ若かった母を亡くしました。お葬式で棺にお花を入れて出棺する光景が、すごく悲しいのだけれど記憶に残っていて。それで作ったのがこの作品です」<figure class="image"><img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2024/03/03/IurpajjORaaiP5rDRE0hG/N8wrfD6LHCcCoYT5MfqLu.webp"><figcaption>&nbsp;2014.12　東京藝術大学 博士審査展　写真：Takusuke Hokida</figcaption></figure>掛け軸のような11枚が連なる大作で、単体でも成立しつつ、図柄がつながることで日本の原風景のような色彩世界が豊かに立ち現れる仕掛けとなっている。感覚的にイメージが描写されているようにも見えるが、実際には色の濃淡や重ねる順番、滲ませ方にいたるまで、緻密な計算に基づいて表現されているという。「私たちは、自分に起きた出来事を日常の中で何とかかみ砕きながら生きていくもの。アーティストをやっていてよかったなと思うのは、そうした自分の内側にある世界を作品として表現し、昇華させることができた時です。作品を通して、他者とのコミュニケーションが生まれるのも醍醐味のひとつですね」<h2>「キャリア」か「子育て移住」か。迫られた決断</h2>そんな桂川さんが、静岡県浜松市に移住したのは2019年1月。夫の転職による突然の移住だったという。当時、染色作家として活動しながら、東京藝大に非常勤講師として勤めていた桂川さんは、大きな決断を迫られることになった。「その時、私は一人目を妊娠していて、休職して新学期には仕事に戻る予定だったんです。でも、移住するとなると、東京でこのまま働き続けることは難しい。女性で研究職を続けていくことの難しさを痛感しました」夫が浜松に単身赴任する案なども検討したが、最終的には一人目の子どもを育てるにあたって、両親が二人そろってそばにいたほうが良いだろうという結論になった。「結婚、出産、あるいは介護……女性がやらなければならない役割というものがこの社会にはまだ根強くあって、思い描いていた人生設計が、いきなり分断されてしまうような感覚がありました。ただその後、大学の先生方のご協力のおかげで、年に数回だけですが、授業を担当させてもらえることになりました。浜松は新幹線で東京まで1時間ほど。そういう意味では、満員電車に悩まされることもなく、通勤はむしろ快適になりましたね」<h2>豊かな自然に恵まれた浜松での暮らし</h2>こうして、仕事の整理や出産、その後の育児というドタバタの中で浜松へと移り住んだ桂川さん。当初はなかなか住環境まで意識を向ける余裕がなかったが、住み始めるうちに浜松の町としての魅力に気づくようになったという。「私は世田谷出身なので、それなりに自然豊かな環境で育ってきたつもりでしたが、浜松に来てみたら、『自然豊か』のレベルがあまりに違ってびっくりしました」市街地から30分ほど車を走らせれば、浜名湖や緑豊かな山が広がり、その先には鍾乳洞やエメラルドグリーンの美しい渓谷、さらには日本三大砂丘のひとつに数えられる中田島砂丘などもある。そうした身近にある自然の豊かさは、移住の思わぬ副産物となったようだ。<figure class="image"><img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2024/03/03/IurpajjORaaiP5rDRE0hG/SCO8Bw0Dq7Skb1Aa_XjrV.webp"><figcaption>白倉峡</figcaption></figure>「渓谷の水の美しさには本当に感動したし、滝のまわりの空気の清らかさにも、いい意味でショックを受けました。観光地化されていない場所も多くて、驚くほど人のいない海も見られます」&nbsp;<h2>「子育て」と「産業の衰退」。直面した2つの課題</h2>&nbsp;その一方で、母として、染色作家として、暮らすことで見えてきた課題もある。「まず、移住して子どもを育てる中で、周りのサポートを受けられず、孤独を感じることがとても多くて。それは私だけではなく、同じように移住してきたほかのお母さんたちも感じていることのようでした（浜松は大企業が多いため、転勤してくるご家族が多いんです）。&nbsp;私は一人目の子どもは神奈川で、二人目は浜松で産んだのですが、同じ子どもを産むということに対して、自治体ごとの支援にずいぶんと差があることにもモヤモヤしました」&nbsp;布を扱うアーティストという立場からは、浜松の一大産業である繊維産業の現状に大きな危機感を持った。&nbsp;「せっかくなら、遠州織物として知られるこの土地の布を染めてみたいと思い、あちこち探すうちに、廃棄される予定だというからみ織りの布と出会いました。これが、レース模様にも似た布地の、見たこともないような素晴らしい布でした。それなのに、『工場がつぶれてもう作れない』と。&nbsp;<figure class="image"><img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2024/03/03/IurpajjORaaiP5rDRE0hG/Gv7bCXLcHidM0MO5nh15S.webp"><figcaption>からみ織りの布</figcaption></figure><figure class="image"><img></figure><figure class="image"><img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2024/03/03/IurpajjORaaiP5rDRE0hG/WqUbqvJotX7z9VIAKz6_j.webp"><figcaption>からみ織りを染めた桂川さんの作品</figcaption></figure>更地になった工場跡地まで足を運び、浜松の名工にも選ばれたという80代の職人さんにお話をお聞きしました。とても高度な技術力を持っていらっしゃるにもかかわらず、だんだんと生地の注文数が減り、後継ぎもいなかったので廃業してしまったのだそうです。伝統的な素晴らしい技術が途絶える瞬間を目の当たりにしている。そんな感覚がありました」同じからみ織りであってもやり方が少しずつ違うため、まだ稼働しているほかの工場に技術継承を試みることも難しい。一人の職人が廃業したことで、その前工程の会社も仕事がなくなり、連鎖的に技術が途絶えていく。これはその始まりだとショックを受けると同時に、何とかしなければと強く思ったという。<h2>オール遠州で作り上げた「はままつベイビーボックス」</h2>こうして、子育てと繊維産業にまつわる2つの課題意識を出発点に、桂川さんが浜松で立ち上げたのが、フィンランド発の取り組みに着想を得た「はままつBABYBOX Project(ベイビーボックスプロジェクト)」だ。フィンランドでは、子どもが産まれると、政府から「ベイビーボックス」と呼ばれる育児用品の詰め合わせが無料で贈られるのだという。桂川さん発案の浜松版は、スタイやてぬぐい、おくるみなど6つの布製品を詰め合わせたもので、すべての素材に遠州織物が使われている。<figure class="image"><img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2024/03/03/IurpajjORaaiP5rDRE0hG/rCvqoGcud0k1SdBFypmYy.webp"><figcaption>はままつベイビーボックスの中身</figcaption></figure>「遠州織物と一口にいっても、素材や風合いはさまざまです。それぞれの会社さんが独自の技術を持ち、お互いにかぶらないような製品づくりをプライドを持ってされていて、とても面白い産地なんです。タオル地やガーゼ地、綿素材、麻素材、からみ織り……いろいろな織物を組み合わせたセットにすることで、地域の特色を生かせると思いました」素材だけでなく、縫製や外箱、モビールに使う木のパーツ、おもちゃの監修、ロゴやリーフレットのデザインにいたるまで、すべて浜松の企業や生産者、クリエイターに依頼。一軒一軒アポをとったり、人づてに声をかけ、地道に協力者を増やしていったのだという。まさにオール遠州で、ものづくりのパワーを結集させたベイビーボックスには、購入者からもさまざまな反応が届いている。「その中には、私と同じように移住して心細い中で子育てをしているという人もいました。そうした声を聞いていると、大変な状況で子育てをしている人がやはり多いのだなと思う一方、想いをきちんと届けられたという実感もありました」<h2>世代を超えた布体験の循環を目指して</h2>遠州織物には触れて初めてわかる良さがある。そう話す桂川さん。「赤ちゃんは生まれるとすぐに、柔らかな布で包まれる。人間がこの世界で最初に触れる素材は布なんですよね。そうした触感体験というのは、その後の人生においてもずっと心の中に残っていくと思うんです」&nbsp;ベイビーボックスの箱を頑丈に作っているのも、赤ちゃんの時に身に着けた服を保存し、大人になった時に思い出ごと取り出してほしいから。<figure class="image"><img src="https://warp.city/storage/uploads/posts/2024/03/03/IurpajjORaaiP5rDRE0hG/ftARQFfUOkn6MLUpcxg-D.webp"><figcaption>思い出を保管する役割を果たすボックス</figcaption></figure>「そして、その体験を今度は自分が別の誰かに手渡す。ベイビーボックスで、そうした絆の循環をつくり、遠州織物の良さを世代を超えて知ってもらえれば、それが地域産業を守ることにもつながるのではないかと思っています」最終的には、フィンランドのように、行政がベイビーボックス事業に取り組んでほしいという思いもある。&nbsp;「どうしても自分たちだけでは届けられる数に限りがあります。浜松市や静岡県が行政レベルで取り組んでくれれば、その年に生まれた地域の子どもたち全員にベイビーボックスを届けることができる。&nbsp;それが、行政の育児支援のひとつとして注目されれば、移住したいという人も増えるかもしれません。ベイビーボックスというかたちではなくても、私たちが働きかけをしたことで、行政が新しい育児支援に乗り出してもらえたら嬉しいですね」<h2>「自分の能力を発揮できる場所がある幸せ」</h2>伝統工芸に魅了されてスタートした桂川さんの作家人生。浜松への移住は、遠州織物の伝統を布体験を通じて次世代に手渡すという新たなる挑戦の始まりでもあった。&nbsp;最後に、そんな桂川さんから、地方移住を検討している方に向けてメッセージをいただいた。&nbsp;「私が移住して気づいたことは、自分の能力やスキルを発揮できる場所があるのは、とても幸せなことだなということ。ベイビーボックスの活動を浜松で始めたからこそ、私の動きが誰かの役に立っている、社会に貢献できているという手ごたえを感じられる場面がとても多いです。&nbsp;日本の繊維産業が衰退していることは、東京にいた頃から感じてはいたけれど、浜松に来たことでその解像度がぐっと高まった。来てみることで新しく広がる世界というのは確実にあって、それは社会のためだけでなく、自分にとっての豊かさにもつながっていると感じています」&nbsp;浜松への移住を通して、からみ織りの美しさに感動し、遠州織物の危機を知り、染色作家だからこそ担える役割を地域社会の中で果たしている桂川さん。&nbsp;それは、その人とその地域が「暮らし」という接点を持って初めて可能になったことなのかもしれない。&nbsp;

“ワープシティ地方移住体験談”では、地方移住を検討している方に向けて、先輩移住者から移住に至った経緯や体験談、移住先の仕事内容や生活などの生の声をお届けしています。

第72回目の先輩移住者は、東京都出身の染色作家・桂川美帆さんです。

ろうけつ染めの技法を用いた作品づくりを行うかたわら、静岡県浜松市への移住と子育てをきっかけに「はままつBABYBOX Project(ベイビーボックスプロジェクト)」を立ち上げました。遠州織物を素材としたおくるみなど、赤ちゃんのためのとくべつな育児用品を届けています。

そんな桂川さんに、染色作家になるまでの生い立ちや移住に至った経緯、「ベイビーボックス」誕生の背景などについて、詳しくお話を伺いました。

出身地：東京都世田谷区、前住所：神奈川県、現住所：静岡県浜松市、職業：染色作家

桂川美帆

遠州織物の伝統を絶やさないために。浜松移住の染色作家が「ベイビーボックス」に込めた思い

住む場所が変わると生き方も変わる。
環境が変わると自身も変化し、人生までもが変わっていくーー。

都会の喧騒を離れて、地方で“自分らしい生き方”に憧れを抱く人は少なくないだろう。

しかし、いざ真剣に移住を考えると、移住に大きな期待を持つ反面、不安も計り知れない。

現実的に自分の思い描く理想の暮らしが実現できるのかーーー。

“ワープシティ地方移住体験談”では、地方移住を検討している方に向けて、先輩移住者から移住に至った経緯や体験談、移住先の仕事内容や生活などの生の声をお届けする。

第26回目の先輩移住者は、1984年生まれ、静岡県浜松市出身の三輪絵里奈（みわ えりな）さん。

大学進学とともに上京し、ウェディングプランナーの道に進んだ三輪さんは、結婚・出産を経て2018年に浜松市にUターン移住した。現在は、お祝いごとのプロデュースのほか、パッケージデザインなどを手がけるクリエイターとしても活動している。

コロナ禍で打撃を受けた浜松注染（ちゅうせん）染めを支援するプロジェクトにも参加し、注染染めの手ぬぐいを使った「注染レター」の販売も開始する。

浜松に戻り、クリエイティブな活動の場を積極的に広げている三輪さんに、Uターン移住するまでの経緯、クリエイターとして地方で活動していく方法などを詳しくお聞きした。

出身地：静岡県浜松市、前住所：神奈川県、現住所：静岡県浜松市、職業：クリエイター

浜松市

浜松市の移住体験談一覧：3件

#144 浜松市・天竜区の木と共に歩む未来。ふるさとへの想いと地域活性化の挑戦

遠州織物の伝統を絶やさないために。浜松移住の染色作家が「ベイビーボックス」に込めた思い

ウェディングプランナーからデザインの道へ。浜松へのUターンでさらなる飛躍