移住者プロフィール
松永 敏行さん ・明子さん
出身地:神奈川県横浜市、前住所:神奈川県横浜市、現住所:山口県山口市、職業:「整体庵 結び」経営
目次
INDEX
山口市へ移住した経緯を教えてください。
松永敏行さん(以下、敏行):神奈川県横浜市から、2017年3月に山口市に来ました。父方の先祖は、代々山口市吉敷に住んでいました。父が横浜に出て来ているので、自分は横浜生まれの横浜育ちです。
今住んでいるのが祖父の代に立て直した家で、子供の頃に時々遊びに来ていたのですが、大きくなるにつれて足が遠のいていました。大人になってからは、ほとんどと言っていいほど山口に来ることはなくなりました。
ところが、2011年、整体の勉強を始めた直後に父が亡くなり、続いて父方の祖母が亡くなりました。お墓のある山口市吉敷に葬儀や四十九日で度々足を運んでいるうちに、ここで整体師として開業するのもありかな、と漠然と思うようになりました。
でも、その時は本当に漠然と思ったくらいでしたね。
松永明子さん(以下、明子):移住前は、セラピストの仕事をしていました。セラピストの仕事を始めたきっかけは、以前CADオペレーターという仕事をしていた時、毎日仕事が忙しく、終電までの残業や休日出勤などが続き、体調を崩し休職しなければならなくなってしまったんです。
そんな時に「自分の身体と心のケアに行ったサロンのセラピストさん」に出会いました。その後は働きながら学校に通いアロマセラピーや解剖生理学などを学び、サロンや病院で働きました。
病院勤務での経験から、服を着たまま気軽に受けることが出来る、クラニオセイクラルセラピーとリンパドレナージュも学びました。
その後、自分のペースでセラピストの仕事をしながら、インドのアーユルヴェーダハーブヘナを使った頭皮からのデトックスなども取り入れ、お客様お一人おひとりに合わせた施術をしていました。
夫とは2014年に、横浜で開催されていた『身体感覚講座』という教室で出会いました。最初は単に同じ教室の生徒どうしで、特に気にしていなかったです(笑)。二人とも身体に関わることに興味を持っていたり、そういう仕事に携わっている共通項があって、年齢も一緒で共通の話題も多く、自然と付き合うようになりました。
敏行:付き合い始めて一年ほど経ち、結婚を意識し出した頃に、二人で山口に来ました。普段から山口の話は時々していたし、かみさんは山口には一度も来たことがなくて、じゃあ一度行ってみようかと。
その時に、かみさんがこの家を見て、「住みたい」って言ったんですね。その一言がきっかけになって、今まで漠然と抱いていた移住、開業の思いが一気に具体化して、「じゃあ住もう」ってなりました(笑)。
なぜ山口でこの仕事を始めたのですか?
敏行:子供の頃に来ていたし、2011年に葬儀や法事で頻繁に来たので、土地のイメージはできていました。仕事に関しては、税理士事務所に10年勤めた後、外資系の企業で経理の仕事を辞めた時、次に同じ仕事をしたいかどうか自問してみた結果、答えはノーでした。
それで何をしたいか考えた時に、ずっと興味のあった身体に関わること、整体の仕事をしたいと思ったんです。それで整体の勉強を始めたタイミングで父と祖母のこともあって、山口への移住、山口での開業を何となく考えました。
その時にふと思った、「ここで開業もありかな」という気持ちが心のどこかにずっとあって、でもその当時はきっとまだ開業できる段階ではなかったんですね。その後も横浜で物件を探したり、場所を借りて施術をしたりしていましたが、「山口の家で開業」という思いが引っかかっていたから、腰を据えられず、どっちつかずな状態でいました。
それが、かみさんの、「住みたい」という一言で背中を押された、というか決心が固まったんだと思います。
現在の状況と移住した感想をお聞かせください。
敏行:今年(2018年)2月に『整体庵 結び』を、自宅の一画にオープンしました。整体やアロマセラピーなど、夫婦二人でそれぞれの専門を担当しますが、お客様の希望やお話を聞いた結果で、複数の方法、例えば整体とアロマを組み合わせた施術も出来ます。
二人ともできるのがクラニオセイクラルセラピー。聞き慣れない言葉かもしれませんが、簡単に言うと、優しいタッチで受け手の身体に触れ、身体のこわばりを緩め解いていく療法です。
クラニオが頭蓋骨、セイクラルが仙骨で、日本語では頭蓋仙骨療法と呼ばれています。クラニオセイクラルセラピーは、やさしく触れることで身体のこわばりをゆるめ、ほどいていくので、施術の時の痛みはほとんどありません。
こわばりがゆるむと、脳脊髄液の流れがスムーズになって、自己治癒力が高まっていきます。痛みやコリが軽減するだけでなく、リラクゼーション効果も期待できるので、疲れがなかなか取れない、眠りが浅い、呼吸が浅い、という方にもおすすめです。
お一人おひとりにあった施術の組み合わせができるので、ご夫婦やカップルでご一緒に来られても大丈夫ですし、お子様連れでも結構ですよ。
去年(2017年)引っ越してきてしばらくは、家の片付けに追われていました。なにしろ、ここは10年くらい空き家になっていて、その前は祖父母二人暮らしでしたから。
祖父が晩年は要介護だったので、片付けも出来なかったのでしょう。介護ベッドなどの大物から、日常のゴミまで2トン車で4〜5回分のゴミを処分しましたから。来る日も来る日も片付けに明け暮れていて、さすがに殺伐とした気持ちになりましたね。
ゴミが片付いてみると、家そのものは恐れていたほど痛んでいなくてホッとしました。隙間だらけで(笑)通気が良いからか、カビもほとんど生えておらず、ほとんど改修をする必要はなく、普通に生活できる状態でした。
祖父母が居間として使っていた、庭に面した日当たりの良い部屋を施術室にして、整体とその他のセラピーを受けていただけるようにしています。
部屋には古いガラスが使われた明り取りの窓や、真鍮のドアノブなど、長い時間を経てきたものがありますから、そういったものに囲まれてゆったりとリラックスしていただけると思います。
地方への移住にあたり不安だったことは?実際はいかがでしたか?
明子:もともと自然に近い暮らしが好きでしたが、都会ではそれができなかったので、山口での暮らしは合っていると思います。実は、もっとお隣近所と離れているような山里の方が良いなぁと思いましたが、現実的には今くらいがちょうど良いのかな。
ペーパードライバーなので、こちらに来たらすぐに教習所に通おうと思っていたのが、一年経ってようやく運転の練習をし始めました。自分で車に乗れなくても吉敷ならば何とか生活できますが、それでも自分一人で動ける範囲が限られるので、近々車に乗り始めます(笑)。
何の不安も無かったかと言うと、そんなことはありません。
でも、やりたいことがあってそれを実現しようとするには、自分たちにとって山口は理想的な環境だと思います。今住んでいる吉敷は、町の中心から近いし、スーパーや病院もすぐにあります。
それでいて、家の横を流れる吉敷川は、初夏には蛍がたくさん飛び交うし、少し行ったところにある川の段差からの水音や、町を囲む山々の景色は自然そのものです。日常生活に不便を感じることがないし、人混みや環境からのストレスもない。自分たちが良い状態でいられる、ちょうど良さがあるんじゃないですかね。
山口の魅力を教えてください。
敏行:自然だけではなくて、文化も豊かなところ。幕末や明治維新でよく知られていますが、室町時代に栄えた大内文化が残した史跡が市内に見られて、それが自然といい感じで寄り添っているのが魅力です。
文化という意味ではそちらの方を感じられますね。家のすぐ近所にも、中原中也のお墓があるんです。中也にゆかりのある石碑や、湯田温泉には記念館があったり、市内のいろんなところに文化的な要素があると思います。
食べ物も美味しい。同じ横浜市出身の農家さん、YorozuFarmさんのサラダや、農家さん直売の野菜、道の駅で買える魚や肉はどれも美味しい。
山口といえば下関のふぐが有名ですがそれだけではなく、他にも全国的に有名ではないけれど美味しいものがたくさんあります。季節のものはなんでも美味しいです。
住む場所にもよるでしょうが、吉敷はちょうど良いところです。本当に自給自足の田舎暮らしをしたいって人にはちょっと物足りないかもしれないですが、ほどほどに便利だけど、自然と近くて季節を感じながら暮らせるのが一番の贅沢ですね。
移住して一年経ちますが、あらためて都会での暮らしは結構無理していたなぁと気付きました。山口に来ていなかったら、無理していたことにも気付かなかったのかもしれませんね。
人の多さや日々の大きなストレスを経験して来ているから、余計に今の状況を有り難く感じます。
山口に住んで戸惑ったことはありましたか?
敏行:冬の寒さと夏の暑さでしょうか。
あとは、虫が大きい!古い家なのでムカデが、それも大きいのが家に上がってきてからは、吊るだけではなくて床にも敷ける蚊帳を、ムカデが出る時期には使いました。スズメバチのような大きな蜂もいるから、それも怖いです。
引っ越してくる前は、地域の中で孤立するかも、と思ったりもしましたが、そんなことはなく、ご近所とのことで困るようなことはないです。地域的になのか、普段は何ら干渉されることはなく、こちらが何かを聞けば親切に教えてもらえます。
ゴミ出しのちょっとしたコツとか。祖父母や父をご存知の方が結構いらっしゃるので、地域に入っていきやすかったのは有り難かったです。
もちろん、ご近所の方に会えば挨拶しますし、家に普段よりも大勢人が来るような時には、お隣にひと声かけるなどしますが、それは都会でも同じですよね。
今後の展望をお聞かせください。
敏行:整体やクラニオセイクラルセラピーなどの施術の他に、自分で育てたハーブのお茶をお客様にお出ししたり、手仕事が好きな二人なので、わら細工、味噌や醤油づくりといったワークショップもやっていきます。
今年はマルシェやイベントに積極的に参加していこうと思っています。施術によっては、座ったままで気軽に受けていただけるものもありますし、多くの皆さんに体験していただければいいなと。
今は使っていない離れがあって、そこを片付けて作業部屋か施術部屋にしたいという思いもあります。まだ全く手をつけていないので、現状では展望というよりは野望ですけど。
移住を考えている人・移住してきた人にアドバイスをお願いします。
敏行:どこで何をしたいかと、それに対する自分の気持ちが大切だと思っています。ネットでいろいろ調べることはできるけど、それで移住することへの不安が大きくなることもあるでしょう。
それはきっと、今の状況を変えたくなかったり、変える必要がないのかもしれない。自分たちの場合は、山口に先祖が代々住んでいて、家があったのが大きいです。
でも、それだけではなくて、整体やセラピーの仕事を、山口のこの環境の中でしたい、という思いが強かった。夫婦で初めて山口に旅行で来て、家を見た時に直感的に「こっちがいい!」と思ったのは正しかったと思います。
先祖や親戚だけでなく、ネット検索で見つけたり、山口出身の友達がいたり、旅行で訪ねたことがあったり、形は違ってもそれらはなんでも「縁」です。縁を感じて、そこが好き、そこで何かをしたい、と思ったら、それを信じたら良いのではないでしょうか。