移住者プロフィール
猪熊 博之さん
移住時期
2019年
出身地:大阪府、現住所:大分県津久見市、職業:遊漁船オーナー
目次
INDEX
釣りを始めたきっかけは?
猪熊さん(以下、猪熊):もともと親父が釣り好きで、よく和歌山に釣りに出かけていました。12歳のときに大阪から大分の豊後大野市に引っ越して、中学は野球に熱中し、高校では陸上でインターハイに出場しました。
その後、理系だったこともあり九州工業大学に進学しました。自分の足で海に行く機会がなくなり、釣りのことは忘れていましたね。
大学生になり、アルバイトで自分のお金ができて時間に自由が出てきた時に、馴染みがあった釣りを久しぶりにやってみたところ、本格的にのめり込んでいきました。就職活動をする頃には、『俺は釣りで飯を食うんじゃ!』くらいの勢いでしたね。釣りの技術が高くなって有名になれば、スポンサーについてもらうこともできるので。
釣りのプロになるために、大分の地場企業に就職した理由は?
猪熊:大分は磯釣りがとても盛んなところで、全国でもかなり良いフィールドのため、大分の企業に就職しました。例えて言うと、「サーフィンが好きで宮崎に移住してくる」みたいな、そんな感覚ですかね。大分は本当に海に恵まれているので、自分が目指す釣りの環境にぴったりでした。
大企業に就職する道の方が安定的だけど、転勤からは逃げられないかもしれないし、目指しているプロになるには無理だと思いました。だから大分に定住して一生懸命釣りをやりたくて、地場産業で転勤のないところを選びました。大分では、色んなメーカーごとに釣りの全国大会を開催されるんですよ。
例えば佐伯市の『鶴見(つるみ)・米水津(よのうず)・蒲江(かまえ)』は、本当に良い漁場だと思います。釣り業界で大分から全国に名を轟かせている人は何人もいますね。少なくともトップクラスに追いつくには、一流の環境に揉まれないとやっぱりたどり着けないと思いました。そういった意味もあって大分で頑張ろうと決めたのです。
22年勤めた企業を退職。遊漁船で開業をするために津久見市へ移住
津久見市への移住を決断した理由は?
猪熊:サラリーマンをしながら毎週必ず釣りに出かける日々を過ごし、数々の大会に出場する理想通りの生活を送る一方で、時代の流れとともに、磯釣りよりもルアー釣りが釣り業界の主流になってきたことに、危機感を覚えていました。
自分が始めたときは、磯釣りが盛んでした。一番多い遊漁船で、1日100人も乗せていました。だけど今は、時代の流れと若い子たちの感性が変わってきて、疑似餌を使ったルアー釣りが主流になってきました。磯釣りは餌を餌屋さんで混ぜて、船が出る時間に合わせて準備をします。
ルアー釣りなら『ちょっと今から釣りに行こうか』で友達と釣りに行くことができる。その手軽さが人気につながっているのだと思います。さらに当時は若かった遊漁船の船長たちも、いまでは60~70代と高齢化。
跡継ぎがいなくてに辞めてしまう人も出てきています。受け入れが少なくなってしまうと、磯釣りに興味を持つ人がどんどん減ってしまい悪循環に陥ってしまうと考え、2019年に22年勤めた会社を退職し、瀬渡しやガイドといった遊漁船を行うために津久見市へ移住を決断しました。
そして翌年の2020年1月、思いを伝える瀬渡し船として「IG marine」を開業されたんですね
猪熊:渡船のサービスって特殊なんです。お客さんと船長の関係が、普通のサービスとは逆になってしまうことも多々あります。そうなると若い子たちには少し面倒な感じがするのか、『それならいいや』って行かなくなると思うんです。
若い子にも磯釣りの楽しさを体験してもらいたいので、今の磯釣りの環境を変えたいのです。メーカーさんにもお世話になっているし、自分が情熱を注いできた磯釣りという文化を絶やしたくないのです。
自分でやってもいないのに、『こんなサービスにした方が良いですよ』って外から言うのはおかしいと思うんです。だったら今の時代に合わせたサービスをする渡船を自分でやってみせようと思ってやり始めました。
今の時代に合わせたサービスとは?
猪熊:これまでの経験をもとに、お客さんのレベルに合わせた最適な岩場を選んで渡船を行っています。SNSには実際の釣果報告やお客さんの笑顔の写真もアップしています。
また、磯場の見回りをしながら大分県内では珍しい「お昼ごはんの配達」を行ったり、お客さんが睡眠をしっかり取って体調万全で釣りに望めるように、渡船の集合時間をあえて遅く設定するなど、時代や顧客に合わせたサービスを行っています。
津久見市はリスクも大きい分、その地域ならではの繋がりもある
大分県内では佐伯市の漁場が良いですが、津久見市を選んだ理由は?
猪熊:「お世話になった場所に、商売敵として入りたくない」という思いからです。とはいえ、津久見市は天候が荒れることも多く、リスクは大きいですね。
津久見市は北に面しているので、冬の北西風が吹くと海が荒れます。そうなったらなかなか船は出せません。佐伯市の方は南向きに良い漁場が多いのでこの風を避けられるけれど、少しリスクがある中でやる方が燃えるなと思いました。『なんであんな釣り場であんなに人が行くのだろう』って言われるくらいまで頑張ってみたいと思っています。
津久見市という土地で始めた新しい挑戦は、今では乗船券がふるさと納税になったり、団体の遊覧を観光協会から紹介されるなど行政からのサポートも手厚いです。それだけではなく、津久見ならではの地域住民の方のバックアップも大きいですね。外から来たから、いろいろ言う人もいたりはします。
だけど、それ以上にこの地域の方々が守ってくれています。ここの地域の方々は本当に温かいです。それこそすぐ近くの班長さんが津久見みかんを作っていて、その方が『これ配っちゃれ』ってお客さんにみかんをくれるんですよ。それをもらったらお客さんだって嬉しいですよね。やっぱり地元の人間の協力なしにはできないです。