移住者プロフィール
福濱 美志保さん
出身地:香川県、前住所:東京都、現住所:山形県酒田市、職業:フリーアーティスト
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プロフィールを教えてください
福濱美志保さん(以下、福濱):生まれは父の実家がある香川県ですが、生後すぐに、両親が結婚後に住んでいた東京に戻り、酒田市へ移住するまで、ずっと東京で暮らしていました。公園もあれば賑やかな街もある、「下町」という雰囲気の場所で育ち、長期休みは祖父母や親戚がいる四国へ遊びに行っていました。
東京より北に出掛ける機会はあまりなく、小学校のスキー教室で行った長野県の北部が私の中の最北地の記憶かもしれません。
小さい頃は、自然豊かな地方での時間は「非日常」という感じでしたが、大学時代に山梨県の民宿で住み込みのアルバイトをしたことがきっかけで、大きな湖や森に囲まれた環境にとても癒され、「自然を感じながら暮らすのも良いな」という思いが生まれました。
そのアルバイトは、4年間夏休み期間に毎年やらせてもらい、とても楽しかった思い出として刻まれています。美術系の大学を卒業後は、ギャラリーのスタッフとして勤務しており、移住した現在は、フリーのアーティストとして油絵を中心に制作しています。
酒田市へ移住したきっかけは?
福濱:「東京は住みにくい」という気持ちを抱いたことはありませんが、人生の中で一度は、“都会ではない場所”に住んでみたいという希望があり、お付き合いしているパートナーが酒田市に移住を検討し始めたのがきっかけで、私も地方での暮らしを考えるようになりました。
ちょうどその時期に、山形県のオンライン移住相談イベントがあったので、酒田市の移住担当の方とお話させてもらって、暮らしの様子などもリサーチしました。
私も一緒に酒田に行くかは迷ったのですが、移住前に初めて酒田市を訪れた際に、「まずは住んでみようかな」と思えたことが移住した大きな決め手ですね。
一度訪れただけでは、その街のことはなかなかわからないと思うんですけど、「なんだか不安」という気持ちではなく「住んでみよう」と思えたことでご縁を感じ、思い切って決断しました。
移住を報告した時の周囲の反応はいかがでしたか?
福濱:両親や友人に東京を離れることを報告すると、すごく驚いていましたね。酒田市を訪れたことがある友人からは、「東京に比べたら何もないよ!」と、アドバイスされました(笑)。
実際に移住してみて、いかがでしょう?
福濱:実際来てみると、美味しいご飯屋さんもいっぱいあって楽しいですよ。また、空港も近く、行こうと思えば意外とすぐに東京にも行けますし、東京にいても、友人と気軽に会えないコロナ禍の状況となった今では、山形にいても東京にいてもあまり変わらないという感覚です。
酒田でのお気に入りの風景は?
福濱:日和山(ひより山)公園から見える景色に感動しました。空も海もすごく広くて、それぞれの色が毎日少しずつ違うので、散歩がてらよく見に行っています。特に夕暮れ時の風景は特別で、空と海の色合いがすごく綺麗なんです。
その景色を見ているうちに、直感的に「描きたいな」と思い、ここ数年は描いていなかった風景画に取り組みました。実際の風景を描く際は、“どうしたら自分らしい絵になるか”を考えるのですが、今回は酒田に移住して、“この風景に感激した”という想いをキャンバスに乗せられるよう、意識して描きました。
これからチャレンジしてみたいことは?
福濱:自宅から海鮮市場が近いので、夕方ふらっと立ち寄って、新鮮なお刺身を買って帰るのも日常になりました。食べたこともなければ聞いたこともない魚もあり、どれもとても美味しいので、全部食べてみたいと思っています。
今後は、自分で魚を捌くことにもチャレンジしたいですね。まだ一度も挑戦したことはないですが、なんとなくハマりそうな予感はしています!
また、ペーパードライバーで、移住してからもほんのちょっとの距離しか運転したことがないので、早く運転に慣れて、東京の家族に酒田のおすすめスポットを案内して廻りたいです。
どんなところに東京との違いを感じますか?
福濱:まずは天候の違いですね。3月に移住してすぐの頃、すごく風が強くて家がガタガタ揺れて・・・。酒田を含む日本海側では、風が強いのは日常的なことと知って少し安心しましたが、家が揺れるなんて想像していませんでした(笑)。
また、暑い期間は東京よりずっと短いので過ごしやすいですが、意外としっかり暑いんだなと感じました。これから冬に向けて寒さや雪かきなどの覚悟はしていますが、暑さよりは寒さのほうが得意なので、楽しみな気持ちも大きいです。
また「夜」に関しても違いを感じます。東京では深夜0時でも、まだまだ街も明るいし、人もたくさん歩いていますが、酒田はすごく静かで、最初は不思議に感じました。酒田の夜10時の静けさは、東京では深夜2時くらいにならないと訪れないですね。
夜型人間なので東京の賑やかさも嫌いではありませんが、こちらの時間軸も“穏やかで居心地が良い”です。夜、東京の家族と電話していると、あまりの静けさに、こちらで鳴いている虫の声が電話越しにも聞こえるみたいで、『虫の鳴き声がすごいね』と言われたこともあります(笑)。
これからどのように酒田での暮らしを楽しんでいきたいですか?
福濱:今はフリーでの活動が中心なので、なかなか地元の方と交流する機会が少ないのですが、もっと世界を広げて酒田での暮らしを味わいたいという気持ちは大きいです。方言にも興味があるので、暮らしていく中でしゃべれるようになったら楽しいだろうなと思います。
今が旬の「もって菊(食用菊)」を地元のスーパーで初めて見た時は驚きましたが、調理したものを近所の方から頂いて食べてみたらすごく美味しくて感動しましたし、そういった関わりもとても温かくて良いなと感じます。
アーティスト活動や作品について教えてください
福濱:大学に通っていた時も卒業後ギャラリーで勤務していた時も、自分の作品は少しずつ描いていて、コンテストで賞をいただいたり、ご縁のあるカフェやギャラリーで展覧会を開催したりと、活動してきました。
酒田へ移住後は、自宅での制作活動を中心に、東京や長野での展示も引き続き行っています。そして今回、山形県では初となる私の個展を、酒田市内の「gallery + store 2号室」さんで開催させて頂きました。
私が酒田に来て一番印象的だった“夕暮れ”にちなんで、展示タイトルは『Nightfall』とし、ギャラリーの空間に合いそうな作品をセレクトして、展示しました。
福濱:今回の展示の中心である「Grandscape」シリーズは、大学時代から描き続けているもので、白布やミニチュアの椅子などを風景に見立てた作品です。
ただの白い布も椅子を置くことで、そこを起点に山などの風景に見えるのが面白く、白い布をベースに、椅子以外にもミニチュアの家や机などを用いて制作しています。酒田での冬を経験することで、白い布が織りなす風景への感じ方などに変化や影響を受けるかもしれないと思うと、これからが楽しみです。
活動を通じて地域との関わりは持てていますか?
福濱:地域との関わりを持てるような活動も出来たら良いなあと思っていたところ、ご縁があって、もうすぐ運用開始となる「酒田市美術館」と「土門拳記念館」を結ぶシェアサイクル(観光自転車をリメイクして活用)のペイントやロゴデザインを担当させていただきました。
徒歩だと少し距離がある、二つの美術館を気軽に廻れるようになるなんて、すごく素敵なアイディアですよね。
今後の活動の展望を教えてください
福濱:酒田に拠点を置きながら、様々な地域で作品を発表していきたいとも思っていて、現在は、長野県で開催されている「木曽ペインティングス」に参加しています。私は、木祖村小木曽(きそむらおぎそ)エリアの向畑(むけばた)の倉庫で、かつての住民が残していった持ち物を手掛かりに作品を制作し、展示しています。
住む場所が変わっても、自由に表現し発信できるのも、アートの良さかなと思います。作品への向かい方は人それぞれ違うと思いますが、私の場合は、描きたいものは常にあって、且つ、どんな風に描くかも頭の中では決まっているので、あとはひたすら筆を動かすだけというか、一筆一筆、チクチクと縫いものをするように描いています。
出来るだけ日々淡々と描き続け、死ぬまで毎日新しいものを描いているような人生が理想です。
移住を検討している方へメッセージをお願いします
福濱:移住してみたいという気持ちがあるなら、まずは是非、住んでみて欲しいと思います。草や田んぼの香りが街中に広がっていたり、スーパーでの買い物というちょっとした時間でさえも、人との繋がりを感じられたりと、住んでみないとわからない良さにたくさん出会えます。
また、東京にいる時は考えもしなかった「当たり前」に気付くことが出来たりもします。私の場合は、東京では車ってただの「物」という感じでしかなく、違いや乗っている人についてあまり考えたこともなかったのですが、酒田に来て「車には人が乗ってるんだ」という当たり前のことに、妙に納得したんです(笑)。
横断歩道を渡る自分と、止まってくれているドライバーさんとの間に小さな関わりが生まれる感覚もありますし、車とそこに乗っている人達のストーリーを垣間見る瞬間があったりと、今まで私の中にはなかった価値観に触れることができました。どんな発見があるかわからないからこそ、「楽しい」と感じるのだと思います。これからも、酒田でたくさんの発見を積み重ねていきたいです。