移住者プロフィール
角田 歌菜さん
出身地:長野県上田市、前住所:東京都、現住所:長野県佐久市、職業:整理収納プランナー
目次
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海外への興味が芽生えた幼少期~学生時代
小学校4年生のときに父親の仕事の関係で一年ほどカナダのモントリオールで暮らし、高校時代にはオーストラリアに語学留学の経験もある角田歌菜さん。三姉妹の末っ子で、二人の姉に影響を受けながら、海外に対する興味を膨らませていったという。
「姉がオーストラリアに留学したのを見て、私も当然行くものと思って留学しました(笑)。大学は大阪の外国語大学に進みましたが、地元に近い関東の大学ではなく、わざわざ大阪を選んだのもやはり姉の後を追ってのことでした」
明るく快活な性格で、直感で行動するタイプという歌菜さん。昔から不思議と北欧・デンマークに惹かれるものを感じており、大学ではデンマーク語を学びたいと考えていた。
「デンマーク語学科の模擬試験を受けたんですが、結果はE判定!これはダメだと思って、じゃあほかの言語で……と考えたときに、世界で3番目に話者が多いとされていたスペイン語がいいんじゃないかと父からも薦められて、結局スペイン語学科に進学しました」
その一方で、大学時代に友人と行ったベトナム旅行でデンマーク人のおじいさんと知り合い、その後も定期的に連絡を取り合うようになったことで、デンマークに対する興味はますます高まっていったという。
「大学4年のときに足を怪我してしまって、就職活動することなく、卒業後は地元の長野県上田市に戻りました。縁あって高校のスペイン語教師として月3回ほど働けることになり、ほかにも小学校で外国籍児童のサポーターとしてスペイン語を教えたりもしていました」
多忙を極めた東京から、自然を求めて佐久へ移住
正式に教員免許を取得したのは26歳のとき。その後、外国語大学出身でエストニアへ留学経験のある夫・研一さんと結婚し、東京に場所を移して教員として働き始めた。しかし、東京での教員生活は多忙を極め、子どもが生まれてからは仕事と育児の両立に困難を感じるようになった。
「娘が具合が悪いときにも仕事を休めず、悪化させて気管支炎にしてしまったこともありました。そういうことがすごく辛くて、次女を産んで仕事に復帰するかどうかというタイミングで、教員を辞めて東京を離れることにしたんです」
もともと、自然の多い田舎の方が自分には合っていると感じていた歌菜さんは、東京で暮らし始めた当初から「いつかは地方で暮らしたい」という思いを研一さんに話していたという。群馬県沼田市出身の研一さんも移住に対する思いは共通していたため、二人の希望を叶えるかたちで、2018年4月、夫婦の実家の中間地点にあたる長野県佐久市に移住することとなった。
自然の中で子どもたちは伸び伸びと成長
「佐久で暮らし始めて感じたのは、とにかく土地が広く、空間的なゆとりがあることでした」と話す歌菜さん。スーパーひとつとっても東京と比べて広々としていて、地元の新鮮な野菜をゆったり選べるのが嬉しかったそうだ。
移住直後に住んでいたアパートの近くには森のように広大な公園があり、子どもたちを毎日伸び伸びと遊ばせることができた。
「子育ての環境としても、佐久はとても良かったです。子どもたちは自然を肌身で感じることができるし、季節の移り変わりにも気づけるようになりました。東京にいた頃と違って、通学の際に大きな通りを歩かせる必要がない点も安心でしたね」
夫の家事参加率が上昇。手を抜くことで自分自身も楽に
移住後、コロナの感染拡大を機に夫の仕事がリモートワークになったことで、家事への参加率が上がったことも良い変化だったと話す。
「当初、夫は東京まで新幹線通勤をしていて、その頃は全部の家事を私一人でやっていたので、正直『なんで私だけ…』という不満がありました。でも夫が家にいるようになって、私が毎朝どれだけのことをしているのかを目の当たりにしたんでしょうか(笑)。洗濯やアイロンがけ、ゴミ捨てなどを分担してくれるようになりました」
完璧主義で「全部、しっかりやらなくちゃ」と頑張っていた歌菜さん自身も、時間のゆとりができたことで、心の持ちようが変化したという。
「『完璧な仕上がりじゃなくてもいい』と、手を抜くことを自分に許すようになりました。夫の洗濯物の干し方は今もちょっと気になるところがあるんですけど、それも『まあ、いいか』と。許容範囲を広げたら、何より自分自身が楽になりましたね」
家を建てたことがきっかけで、整理収納プランナーの道へ
移住して半年後、新築で家を建てたことがきっかけで、歌菜さんの人生は大きく動き出すことになる。もともと断捨離やミニマリズムに興味があった歌菜さんは、家の設計の段階から間取りや収納などに関して積極的に意見を出していったという。
「特にこだわったのは、明るくて風通しの良い家にすること、耐震面で安全なように収納は備えつけにすることなどでした。部屋が広く見えるようにカーテンはなるべく天井近くに取り付けたり、掃除が楽になるようにテレビ台は置かず、壁面に取り付けるシェルフを活用したりもしました」
自宅の設計に深く関わったことで、歌菜さんの整理収納に対する興味はますます高まっていった。移住当初は、ゆくゆくは学校関係のサポーターとして再び働くことをイメージしていたが、次女が幼稚園に入り自分の時間ができたことも重なって、「私にはほかに何かやれる無限の可能性があるんじゃないか」という思いがふつふつと湧いてきたという。
「これまで自分なりにこだわってやってきた整理収納の方法が正しかったのかを確かめたい。そんな気持ちが強くなって、整理収納の資格の勉強を始めることにしました。<北欧式整理収納プランナー>と<住宅収納スペシャリスト>の二つの資格をとったことで、『これをやりたい!』という自分の思いに確信を持つことができました」
迷うことなく事業を立ち上げ
思いが定まったら、あとは行動するのみ。一度「やりたい!」と思ったら、周りが見えなくなるほどそれに集中するという歌菜さんは、迷うことなく整理収納プランナーとして開業するための準備を進め、2020年12月に<空間プラン屋 ここゆた>を立ち上げた。
「思い返してみると、佐久市に移住して環境が変わったことで、新しいことにチャレンジしたいという気持ちになった面はあったかもしれません。コロナでリモートワークが普及したことも、開業の後押しになりましたね。今は、オンラインでのカウンセリングを中心にお片づけのサポートをしています。お客さんは長野県の人だけじゃないので、遠くに住んでいる方ともやり取りができるのは大きなメリットでした」
デンマーク文化「ヒュッゲ」を取り入れた片づけを提案
<空間プラン屋 ここゆた>で歌菜さんが提案しているのは、デンマークの文化「ヒュッゲ(Hygge)」を取り入れた整理収納だ。ヒュッゲとは、デンマーク語で「心地よい感覚」のこと。例えば、暖炉の前に座って本を読む平穏な時間や、朝起きてダイニングに漂うパンの香りをかいだときの幸福感などがヒュッゲなのだそうだ。
「何か特別なことをするのではなくて、いつも通りのことをしている中で自然と発見するような感覚です。『ヒュッゲを生活に取り入れよう!』と意識すると、かえって緊張したり考えすぎたりしてしまいがちですが、そうではなくて、いつも行くカフェでお茶をする時間を愛おしむとか、そういう日常の中にある小さな幸せや安らぎに気づくことがヒュッゲなんだと思っています」
雑然とした部屋やものが散らかった部屋では、なかなかヒュッゲは感じにくい。自分が「好き」と思える心地よい空間に整えていくことで、自然と幸福度が上がっていくと歌菜さんは考えている。
「誤解されやすいんですが、『収納』は使わないものを仕舞うことではなく、普段使っているものを取り出しやすい状態に配置することなんです。そうするだけで探し物が減り、イライラすることもなくなって、心のゆとりが生まれる。それがヒュッゲにも結びついていきます」
部屋を整理することは、心を整理すること
すっきりとした部屋より、たくさんのものに囲まれているほうが幸せと感じれば、それがその人にとってのヒュッゲ。そこに正解・不正解は存在しないという。
しかし、ものを買った当初に感じる幸せは、なかなか長続きしにくいのも確かだ。歌菜さんは、自分を含めて多くの人が、「誰誰が持っているから」という理由でものを選んだり、人目を気にして着たい服を我慢したり......自分基準で考えて選択できずにいることが気になっていたという。
「お片付けサポートでは、“『今』の自分にとって本当に必要なモノなのか?”という基準で、持ち物を仕分けしていきます。私自身、ミニマリズムを追求し、断捨離でものを減らしていく中で感じるようになったのは、それが自分自身と向き合う作業であるということでした。自分は何に幸せを感じるのか、何が好きなのかということが少しずつ明確になり、心の中も整理されていきます。
私の場合、お気に入りのものを見て幸せを感じることももちろんありますが、それよりも今は家族と一緒に過ごす時間が何より幸せです。それだけで心が満たされるんです。だから、私にとってのヒュッゲは、『娘たちがゲラゲラ笑ってじゃれ合っているのを見ている時間』ですね」
インテリアの勉強にも取り組み中
そんなヒュッゲの本場・デンマークには、数年前、ようやく訪れることができたそうだ。大学時代の旅行で知り合い、デンマークへの興味を深めるきっかけになったおじいさんとも再会を果たせたという。
「その時は、夫の仕事の関係で、首都のコペンハーゲンに短期間滞在しただけだったので、次回はもっとしっかり行きたいなと思っています。夫が佐久とエストニアとの二拠点生活を構想しているので、もし実現すればデンマークにも行きやすくなります。それが今からとても楽しみなんです。子供たちにも海外に目を向けられる経験をさせてあげたいと思っています」
今後の活動については、収納だけでなくインテリアの勉強にも力を入れていきたいと話してくれた。
「デンマークの人は何にお金をかけるかって、やっぱりインテリアみたいなんですね。長く寒い冬を心地よい空間で過ごすために。デンマークのデザインミュージアムに足を運んだ際、そこで見た椅子のデザインが本当に美しくて、その背景にある歴史の重みを感じました。
北欧の暮らしを取り入れたお片づけをご提案しているので、インテリアについてももっと知識をつけて、さらにみなさんがハッピーになれるお部屋づくりのアイデアをお伝えできたらなと思っています」
大切なのは自分基準で考えること
最後に、移住を考えている人に向けてメッセージをいただいた。
「移住というと都会から田舎に移るイメージがあるかもしれませんが、都会はダメ、田舎は良い、ということではなく、それぞれの人がヒュッゲを感じられる場所が、その人にとっての居場所になるんだと思います。
私の場合は、それを佐久で見つけることができました。最近毎朝、夫と一緒に散歩に行ってるんです。一面の田園風景、その向こうから昇る朝日を眺める。田んぼと日の出、ほかには何もないただそれだけの景色が本当に美しく感じられます。佐久に来てから、そうしたささやかなことを喜べるようになりました。
もし悩んだり、煮詰まっているときは、頭の中のごちゃごちゃを一旦脇に置いて、今ここに集中してみてください。一日に一分でも十分でも自分が『好き』『幸せ』と思える時間を大切にすると、元気が出るし、行動を起こす原動力にもなるはずですよ」
佐久に移住し、自分が心から好きだと思える生活と仕事を手に入れた歌菜さん。外から与えられる「正解」を探すのではなく、自分自身の基準と向き合うこと。日々の生活の中で歌菜さんが実践しているその姿勢は、移住という人生の選択をする上でもとても大切なことだと言えるだろう。