移住者プロフィール
寺内健さん
所在地:長野県木曽町、業種:木曽町地域おこし協力隊、築何年の古民家か:約150年
目次
INDEX
- どのような経緯で空き家に住むことを決意しましたか?
- 空き家を見つけるために利用した手段やサービスについて教えてください。
- 入居前の空き家の状態や実施した修繕、リフォームの内容について教えてください。
- 支援制度を活用した場合は詳細を教えてください。
- 空き家暮らしを始めてからの日常生活の変化や感じたことを教えてください。
- 空き家暮らしで困ったこと、苦労したことについて教えてください。
- 地域の人々との交流や関係性の構築について大切だと感じることを教えてください。
- 今後も空き家での生活を続けたいか、その理由について教えてください。
- 地域の魅力について教えてください。
- 空き家暮らしを検討中の方に向けてアドバイスやメッセージをお願いします。
どのような経緯で空き家に住むことを決意しましたか?
長野県木曽町への移住を考える中で、住まいをどうするかという課題がありました。最初は新たにログハウスを建築したいと思いましたが、木曽町には多くの空き家があることを知りました。そこで、住宅展示場に行き、木曽町で空き家も見学しました。
そのような中で、「住まい」という一つのことだけでなく、「生活していく」という暮らし全体のことを踏まえて考えるようになりました。妻から、「ここで生活していくのだから、地域に馴染むことが大切だと思う。新たな土地に真新しいログハウスを莫大なお金をかけて建てるのは地域の人から見たらどうかな・・・」という意見がありました。
確かに、この地域には昔から大切にしてきた昔ながらの形式(大屋根)の家が多い中、東京からの移住者が新しく家を建てて住むことに、私も少し抵抗を感じ始めていたのです。そして、改めて空き家を探していると、残していきたいと思える古民家の多くが空き家となっていて、このまま朽ちていくのを待っているかのように感じたのです。
私もこの地域に移住し、そんな空き家を存続することができたら幸せなことなのではと思いました。そして、空き家の中でも特に築年数の古い空き家に住む決意をしました。
空き家を見つけるために利用した手段やサービスについて教えてください。
まずは、木曽町の空き家バンクサイトや移住サポートセンター、東京では有楽町にある「ふるさと回帰センター」に何度か通って相談にのっていただきました。
毎年登山に訪れていたので、そのたびに木曽町に宿泊し、地域の方々に、「空き家はないですか?」「移住をしたいと思っているのですが」と話しかけていました。
「この人に聞いてみるといいよ」「移住サポートセンターに問い合わせたらいいよ」など皆さんが親切に教えてくださいました。実際に車に乗せてもらい、知っている空き家を何件も回ってくれる旅館の女将さんにも会いました。
結局は、そんな地域の方のおかげで、直接地域の方から空き家を紹介していただきました。
入居前の空き家の状態や実施した修繕、リフォームの内容について教えてください。
実際に住んでいる家は、それまで約20年間空き家となっていました。しかし、持ち主の方が地域に住む方に管理を委託し手入れをしていたおかげで、蘇澳像以上に家の傷みは少ない状態で、内部に残置物もほぼない状態でした。
ただ、建てられたのが明治時代であり、木の雨戸と障子戸のみの部屋ばかりでガラス戸やサッシなどもなく、隙間風だらけでした。2階の天井の隙間のあらゆる箇所からほこりや煤が日々落ちてくる状態で、まずは天井裏の大清掃からスタートしました。
水回りや電気工事は工務店にお願いして施工していただきましたが、それ以外はⅮIYでやろうと思いましたが、何しろ素人です。そこで、重要な個所は地域の大工さんに頼み、大工さんに教えてもらいながら改修していきました。
基本は、「明治時代に建てられた状態に戻す!」というコンセプトに基づき、昭和になって造作された天井や床、壁などは解体していきました。そんな改修の毎日を続ける中、「長野県共創人口構築事業」に採択していただきました。
6日間に延べ200名以上が集ったDIYイベントを開催することができ、古民家デザイン講座から、土間づくり、土壁づくり、庭の池の復活DIYなど、一気に改修が進みました。その一環として、日本画家による墨絵のライブパフォーマンスにより、襖に素晴らしい日本画(相撲絵)を描いていただき、古民家らしさが倍増しました。
とはいえ、改修に終わりなし!ということで、今だ少しづつではありますが、改修は継続しています。
支援制度を活用した場合は詳細を教えてください。
支援制度の情報は木曽町のホームページで入手しました。また、移住サポートセンターの担当者からも情報を頂きました。
手続きに関しては木曽町のサイトで、条件や申請様式がアップされているので、それに従って記載していきました。実際には、事前申請のような形で役場に連絡し、申請書を作成し提出しました。
私の場合は、工務店と大工さんにお任せした施工部分が補助金対象であり、見積もりの依頼、施工開始、施工完了と段階を経て、工事完了の届けを提出しました。事前に役場に補助金の申請希望をお伝えしていたこともあり、スムーズに処理していただき、また、不明な点は快く教えていただきました。
空き家暮らしを始めてからの日常生活の変化や感じたことを教えてください。
私の住む家は、約20年間空き家でしたが、それ以前はこの町(当時は村)の村議会議員がご夫婦で住んでいました。さらに向かいにある本家は、長野県の文化財として県宝に指定されている住宅で、木曽馬の馬医などをしていた大馬主で大変な財力を持った家でした。
そのため、この地域では「本家」と「しんや(分家という意味で)」として名が通っている住宅でした。私がDIYで改修作業をしていると、「ようやってくれてありがとう!朽ちていくと諦めていたこの家がだんだん凄くなっていくのが嬉しいよ」と声をかけてくれる方が多く、自分の家でありながら、“地域みんなの家”という意識が芽生え始め、改修に熱が入っていきました。
ただ、毎日改修ばかりをしているわけにもいきません。仕事にも行かなければ生活はできませんので、移住当初は、出勤前と帰宅後寝るまでの間、休日に改修をするといった過酷な日々でした。
木曽町開田高原の冬は全国で寒さトップを争う地域であり、冬までに断熱をしなければ!というプレッシャーに襲われていました(笑)ので、余計に焦っていたのかもしれません。
空き家暮らしで困ったこと、苦労したことについて教えてください。
やはり、冬の寒さです。よく昔の人はこの状況で住んでいたなと感心します。
囲炉裏のあった家なので、煙が抜けるような隙間の多い構造になっており、部屋の開口部は障子と木戸のみです。台所にわずかに薄いガラス戸があるものの、その隙間からは雪が入ってきて、帰宅したらキッチンに雪が積もっていることもあります(進行形)。
水回りは電熱線を外の水道管に巻き付けていますが、隙間だらけの古民家なので、家の中の水道管や蛇口先端までが凍結します。寒い朝は家の中がマイナス15度です。
ただ、疲弊してしまうようなことではなく、それをも楽しみながら生活しています。
地域の人々との交流や関係性の構築について大切だと感じることを教えてください。
「遠慮せず頼る」ということです。
私は50歳を機に移住しましたが、この地域では「若い人が来た」という表現をされます。確かに皆年上の方ばかりですのでなおさら「頼る」ことがスムーズにできているのかもしれません。
遠慮せずに、分からないことは聞く、困ったことがあれば相談してみる、そうすると皆さん驚くほど助けてくれます。
例えば、「1年目なので乾燥した薪がない」というと、知らないうちに家の前に沢山の薪が置かれていたり、「畑をやろうかな」と呟いていたら、重機で耕しに来てくれたり。もちろん田舎あるあるの玄関前に野菜が置かれているのは当たり前です。
次に大切なことは、「力まない」ことだと思います。
移住してこうしよう!頑張ってこんなことを実現しよう!という思いは大切ですが、それに執着しすぎると上手くいかないのではと思います。
考えてみてください。昔から生活してきた地域の中に、まったく違う生活をしてきた者が来て、「これもやりたい!あれも実現したい!」と言ってもなかなか上手くはいきません。それよりもまずは、地域を知ることが優先で、その中で何ができるのか、自分のやりたいことが実現可能かを模索しながら生活していく方がよいと考えます。
また、地域の行事も重要です。半強制的に行事に参加させられるのを覚悟していた私は、「移住して間もないから、まだ参加しなくてもいいよ」と言われ、面食らいました。
しかし、もっと地域の方を知りたいという思いで、移住半年で、伍長(組長)をやりたいと立候補してやらせてもらったことが、早く地域に馴染めた要因のひとつです。
今後も空き家での生活を続けたいか、その理由について教えてください。
部屋数が9部屋もある家に夫婦で住んでおり、ここを宿泊施設にして私たちは別の家に住もうか、なんていう話も出たこともあります。ですが、この家に住みたくて購入したのに、私たちが出ていくのは本末転倒だという結論に至りました。
この家に来て「この家の恩恵」を実感しており、ただ住むだけの家ではなく、今後色々な形で広がりのある可能性の大きい家だと感じているので、ここで生活していきます。また、空き家の改修で得た知識や技術を、他の空き家解消のために活かすことができればとも思っています。
地域の魅力について教えてください。
地域の魅力は、ずばり“人”です。
ここ木曽町開田高原は、木曽馬とともに暮らしてきた地域です。木曽馬は主に女性によって育てられ、それ故か優しく温厚な性格の馬が多いです。そんな木曽馬と共に生活してきた方々だからなのか、同じく優しく温厚な方が多い地域です。
移住して近隣の皆さんに挨拶に伺う際、「よそ者か、まあやるだけやってみろ」なんて言葉を言われるのは当然にあるだろうという覚悟をしていました。しかし、どの家に伺っても言われるのは、「来てくれてありがとう!あの朽ちていくだろうと思っていた家に灯りがともるなんて」とか、「若い人(50歳過ぎても?!)が来てくれるのは嬉しい」など歓迎されました。
約1,200mの標高に我が家はあり、夏は涼しい風が吹き、青い空、夜には満天の星に囲まれます。心にも優しい暮らしを送ることができるのがこの地域の魅力でもあります。
反面、冬は極端に寒いですが、その寒さ故の春の訪れの嬉しさもまた魅力のひとつです。
空き家暮らしを検討中の方に向けてアドバイスやメッセージをお願いします。
「空き家」と一口にいっても、その状態や背景は様々です。最も大切なことは、その家に住んでいた方の思いを感じることではないかと思います。持ち主(住んでいた方)と直接お話して、これまでの暮らしのことや家に対する思いなどを聞いてみることをおすすめします。
私たちのように、すでに何十年も空き家の状態が続いて持ち主と接することが叶わない場合には、近隣の方々に聞いて回ることも一つです。そのうえで、間取りや位置関係、修繕必要箇所などを把握して判断してみてはいかがでしょうか。
最後はインスピレーションです!自分の感覚を研ぎ澄まして、「あ。ここかな」という物件に出会えたら、その感覚に素直に従ってみてはいかがでしょうか。
新築よりも安価に家を購入できるからという理由も大切ですが、その空き家のことが好きかどうかということも重要だと思います。