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楽しみながら生き生きとチャレンジする父の背中を間近で見て育った
1972年に山口県山口市仁保(にほ)地域の廃校跡で始まった秋川牧園は、現会長である秋川実さん(以下、秋川会長)が40歳の時に、小さな養鶏場として創業しました。その当時、秋川社長は6歳でした。
養鶏場は自宅と同じ敷地内にあり、秋川社長は幼少期から父の働く姿を間近で見て育ちました。当初鶏は一羽もいませんでしたが、次第に鶏の数は増え、やがて2万羽を飼育するほどに。
秋川家には「手伝いをすればお小遣いがもらえる」というルールがあり、秋川社長は生まれた卵を集めてパックに詰めたり、鶏を捕まえたりする仕事を楽しんでいたといいます。
「当時はまだ小学生でしたので、『理想の食、理想の農業を追求して働いている』という父の理念までは理解できていませんでしたが、 夜遅くまで仕事に打ち込む父の姿をいつも傍で見ていました。
働く父はいつも生き生きとしており、子供心にも“お父さんはいつも楽しそうに働いているな”と、感じていました。
“何でも楽しみながらチャレンジする”という父のスタンスは今でも変わっていません。それを背中で示し続けてくれる存在が身近にいるということは、大変ありがたいことですね。私自身の考え方にも大きな影響を与えてくれています」
始まりは一羽の鶏、一個の卵からだった
今でこそ「食の安心・安全」が広く認識され、価値観としても浸透していますが、創業当時はまだ少数派の価値観でした。
そんな中でも、全ての食べものを安心・安全にすることを使命と感じ、「健康で安全な卵をつくる」という、明確で揺るぎない目標を掲げて走り出した秋川牧園。
最初に取り組んだのは、養鶏における残留農薬のリスクを減らすことでした。
慢性的な影響を与えるとされる「生体濃縮」にいち早く着目し、肉骨粉(にくこっぷん)など動物性の原料を使用しない決断をしました。これにより、鶏から人への負の連鎖を断ち切ることに成功し、世界に先駆けて鶏の全植物性飼料を実現しました。
その後アメリカに渡り、提携先と協力する中で収穫後に農薬を直接まぶすためリスクが最も高いとされる「ポストハーベスト農薬」を一切使用しないコーンの輸入ルートを確立したほか、遺伝子組み換え技術を使用しない飼料原料の確保に取り組むなど、食の安全性の先駆者としての地位を築きました。
なぜ秋川親子が食の安全・安心への取組みにこれほどまでに突き動かされるのか、その原動力となっているものを尋ねると、穏やかな笑みをたたえながらゆっくりと言葉を紡ぎ始めました。
「創業当時の日本は、それ以前からの水俣病をはじめ様々な公害問題を抱えており、食の汚染も懸念されていました。
一部の生産者からは『農薬を使わないで野菜を作りたい』という声が出始め、一部の消費者からも『子供には無農薬のものを食べさせたい』という声が挙がるなど、少しずつ食の安全性に対する価値観の変化が現れてきたためです。
そして何より、もともと秋川家がそういうポリシーを持っていたということが一番の理由でしょうか。父(実会長)としては、秋川家の原点回帰的な想いがあったのだと思います」
「理想の農園」に挑んだ祖父の言葉が原点に
口に入るものは間違ってはいけないーーー。
同社の原点ともいえるこの言葉は、「理想の農園」に挑むために中国・大連に渡り、1927年に「秋川農園」を設立した祖父・房太郎さんが繰り返し紡いだものです。
苦労の末に理想を体現する農園をつくりあげた房太郎さんでしたが、第二次世界大戦の余波から閉園を余儀なくされ、命からがら帰国しました。その後、房太郎さんの長男である実会長が学業と並行しながら農業に取り組み、父を支えたそうです。
「父(実会長)は大連で生まれ12歳まで育ち、当時から祖父(房太郎さん)に『口に入るものは間違ってはいけない』と、口癖のように言われていたそうです。
まだ“食の安全性”という言葉こそない時代でしたが、人々の健康と密接な関係にある“食”の大切さを訴えかける、生産者に対しての戒めのような言葉だったのではないかと思います。
この理念をずっと大切にしてここまで来たということを消費者の方にお伝えすると、非常に共感をいただけますので、私としてもとても大切にしている言葉です。
企業としては私は2代目ですが、理念としては3代目という言い方もできるのかもしれません」
“作り手”と“食べ手”が手を取り合って、真に健康で豊かな暮らしを
現在秋川牧園は、約300品目のオリジナル商品を展開しています。一般的に企業は品目を絞り込んで取り組むことが多い中で、なぜこれほど多くの品目を手がけているのでしょうか。
「最終的に食べてくださる消費者の皆さん、そして生産者の皆さんとともに、本当の意味での“健康で豊かな暮らし”をつくっていきたいという想いがあるからです。
そのため、全てを直営でやって自社で完結してしまうのではなく、地域で頑張っておられる個人の農家さんたちと力を合わせて活動することを大切にしています。
共感だけでは活動を持続させることは難しいですから、秋川牧園が色々なネットワークのセンターとしてしっかりといい仕事をして、そこから価値や利益を生み出すためのリーダーシップを取っていくことが必要だと思っています」
「居心地の良い環境づくり」を徹底し、薬を使わずに健康な鶏の飼育を実現
薬(抗生物質)の力を借りずに健康な鶏を育てることを早い段階で成功させてきた同社では、自然の光や風が入り込む「開放型鶏舎」を採用しています。また、鶏たちが運動をしながらのびのびと過ごせるよう、飼育密度を1坪あたり35羽程度に制限しています。
畜産の現場では、「畜糞の管理」が経営の重要なポイントとなるため、同社では鶏糞の有効活用にも力を入れています。
溜まった鶏糞を山積みにし発酵を促すことで、温度上昇により病原菌を死滅させる効果があります。さらに、熱に強い乳酸菌や納豆菌が増加するため、善玉菌が豊富な発酵済みの鶏糞の上で、次のひよこを育てることができます。
繊細な管理が必要ですが、このような地道な取組みの積み重ねが信頼や安心に繋がり、消費者から選ばれる理由になっているのでしょう。
秋川牧園の強みは、生産だけに留まらず、加工や流通に至るまで一貫して手がけることができる点です。そして、何よりの魅力は、純粋に「美味しい」と評価されていることです。
核家族化や女性の社会進出により多忙を極める家庭が増えている中で、宅配や冷凍加工食品の需要は拡大の一途をたどっています。
冷凍食品は多様な原料を使用するため、運営が複雑になることがありますが、時間をかけて丁寧に取り組んできた結果、今では納得のいく商品をしっかりと届けられるようになってきたと、手ごたえを感じていると言います。
2024年1月には直販事業のセンターも新たに稼働を始めました。
秋川牧園の商品が、消費者の食卓をますます彩ることになるでしょう。
消費者に直接選ばれる力こそブランド力
「秋川牧園が考えるブランド力とは、消費者に“直接選ばれる力"だと思っています。
私たちが取り組んでいる健康な食べ物作りや有機農業の世界は、作ることはもちろん、『消費者の皆さんにいかに食べていただくか』が重要だと考えています。
信頼して食べ続けてくださる消費者の方がいてこそ成り立つものですので、『皆さんと一緒に』という気持ちで、今までもこれからも取り組みます」
消費者の皆様から届けられる「おいしい」や「ありがとう」の声は、秋川社長の何よりのモチベーションになっていると言います。同時に厳しい声も、“より良い商品を生み出すための金言”だと考えており、「同じように大切にしている」と話す姿が印象的でした。
「世界の農園ブランドといえば秋川牧園」と言われる未来を目指して
秋川牧園として、そして秋川正さんという一人の人間として「これから挑戦したいこと」を伺いました。
「好きなミュージシャンや、好きな洋服のブランドを聞かれたら、おそらくみなさん答えられるのではないでしょうか。
それと同じように『あなたの好きな農園ブランドはどこですか?』と聞かれたら、『秋川牧園です』と、迷わず答えてもらえるような企業を目指したいと思います。
最終的な目標としては、『世界の農園ブランドといえば?』という質問に『日本の山口県というところに秋川牧園っていう農園があって、これが最高なんだよ!』と、国を越えて言ってもらえたらこれほど嬉しいことはありません。
世界的な農園ブランドになるということは、10年、20年ではできないことだと思いますが、祖父や父から受け継いだことを大切にして、“自分たちだから作れる”というものをしっかりと作り続けていけば、いつかは到達できる夢だと信じています」
移住をして地方の仕事に携わろうとされている方へのメッセージ
「今よりも5年後、10年後の方がより良い会社でありたい。それは消費者にとってだけではなく、一緒に働いてくださる皆さんにとってもそうありたい」と話す秋川さん。
最後に、移住をして地方の仕事に携わろうと考えている方に向け、メッセージをいただきました。
「情報量やネットワークという意味で考えると、都会に優位性があるのは事実でしょう。
しかし、『行動に落としこむ』というアウトプットができて初めて、『働く』ということが成立するわけですから、目指すべき理念やビジョンなどを自分の中に定めて、そこに向けていかに行動していくかが最も重要になると思います。
最初から定めるのは難しくとも、まずは目の前のことに向き合って行動し続けることで、自然と目指すべきものが定まってくるでしょう。その『軸』さえ持っていれば、舞台が地方であろうと都会であろうと、迷わずに進んでいけるのではないでしょうか。
地方にも、志を持って情熱を燃やして頑張っている企業がたくさんありますから、そんな企業をぜひご自身の目で見つけてみてください。アメリカはあまり一極集中していなくて、各地域に立派な企業がたくさんあります。日本もそのようになっていけばいいと願っています。
世界でも闘える日本の強みは、『食べ物』と『エンタメ』と『観光』だといわれますが、とりわけ『日本の食』というのは、世界的にも面白い競争力を持っていると思っています。
食品産業は比較的地方にあるのではないかと思いますので、食品産業おすすめですよ!」
と、穏やかながらも力強くエールを送ってくれました。
「世界中の人が健やかであれ」と願う秋川牧園の商品には、安心・安全とともに、「真心」がふんだんに込められていることが、取材を通して伝わってきました。
秋川牧園が贈る「優しさ」の連鎖を受け取り、世界中の人々が笑顔になる未来が待ち遠しいですね。
画像提供元:秋川牧園株式会社