移住者プロフィール
長嶺さん
家族構成…ご夫婦 どこから移住しましたか…東京都荒川区→千葉県香取市 移住して何年ですか…3年 移住前のお仕事…将也さん：人材紹介会社、澄香さん：IT系スタートアップ 移住後のお仕事…せんのみなと
始まりはハンガリーの日本人宿
「旅が好きなんです」
にこやかにお話されたのは、「せんのみなと」代表取締役社長の澄香さん。
価値観を広げたいという思いから、よく海外で一人旅をしていました。
そんな中で泊まった、ハンガリーの日本人宿。
宿泊者は相部屋で、自然と集まり人生の話をするそうです。
旅をしながら仕事をする人がいる。全く知らなかった職業観、人生観がある。
日常から離れた環境で、安心できる人達に自分の人生相談にのってもらう。
そんな経験が自分の人生に大きな影響を与えたと感じた澄香さんは、「自分も誰かの相談にのり人生を変えるお手伝いをする、そんな仕事がしたい」と人材業界に入る決心をします。
選んだのは大手の人材紹介会社。
澄香さんは理想の仕事を実現させるため、起業資金を貯めながら、一緒に起業してくれる人を探しました。
世界を奮起させる仕事
「高校生の時は、『南アフリカで石鹸をうって学校をつくる』って言ってました」
そう言って笑うのは、「せんのみなと」取締役の長嶺将也さん。
学生時代、落ち込んでいた時にサッカーで韓国遠征に行く機会があり、そこで出会った韓国の方に「世界を見ろ、前を見ろ」と言葉をかけてもらったそうです。
自分に向き合ってくれる大人や、世界の広さに気づいた将也さん。
自分も同じように「いつでも、どこでも、誰にでも、世界を奮起させる仕事がしたい」と考えるようになります。
夢の実現のためには語学力、経営力、マネジメント力、営業力が必要と考えた将也さんは、イギリスで就職活動をし、不動産営業からキャリアをスタートさせます。
語学力と営業力が身についたと考えた2017年、イギリス欧州離脱のタイミングで日本に帰国。今度はマネジメント力と、働き方や暮らし方をサポートする力をつけるために日本の人材紹介会社に就職します。
会社でも自分の夢を周囲に語っていた将也さん。
「社内にあなたと同じような人がいる」
と声をかけられ、出会ったのが澄香さんでした。
お互いの夢やビジョンを共有した将也さんと澄香さんは、意気投合。
「一緒にいつか起業できたら」という思いを持ちながら結婚します。
そして澄香さんは起業に必要な経験を得るため、IT系のスタートアップ企業に転職します。
その時、ちょうど2020年。
世界はコロナ禍に見舞われたのでした。
「困っている人のため」早めた起業
世界的なコロナウイルスの蔓延により、私たちの暮らし、仕事は一変しました。
外出自粛の中、企業は可能な限りの仕事をリモートワークに切り替えました。
一日8時間、ディスプレイの前に座る生活。
外に出ることもほとんどなく、人生の登場人物は極端に少なくなりました。
澄香さん、将也さんの仕事も例外ではありませんでした。
それまで対面で行われていた、面接、相談、打合せなど全てオンラインになりました。
「自分の周りの人達が精神的に窮屈になっていくのを感じました。人は、オンライン上では生きていけないと感じました」
改めて、二人は温めていた起業アイデアを見つめました。
誰かの相談にのり人生を変えるお手伝いをする。
いつでも、どこでも、誰にでも、世界を奮起させる。
それは、人が自分の人生を見つめなおし、「仕事」だけではなく自分自身、自分の「人生」を含めたキャリア相談を受ける旅。
二人は起業の予定を早める決心をしました。
「今、悩んでいる人たちのためにあるべき事業ではないか」
旅に必要な目的地は、開放的で日常から離れた場所。
観光や買い物など心を惑わすものが一切なく、ただ自分と向き合うためだけに来る場所。
それは、農村にあるおばあちゃんの家のイメージでした。
二人は温もりのある木造の古民家、それもすぐに使えるような、テーブルの上にPCを広げれば今すぐにでも困っている人とつながれる、そんな物件を探しました。
古民家物件で有名な「田舎暮らし！千葉房総ねっと※」で検索し、最初に見に来たのが今、事業を行っている千葉県香取市の築100年の古民家でした。
(※)…https://bousou.net/
それまで別荘として利用されており、家具もそのまま使える状態でした。
修理も必要なし。
東京の100km圏内にあり、1時間ちょっとで来ることができる。
成田空港も20分以内。
静かな農村地帯。
絶好の物件でしたが、決心はつきませんでした。
古民家の購入はローンが組めません。
35年以上の物件は価値がないとされ、担保にならないためです。
この物件を購入すると、起業のために貯めた資金をほぼ全て使うことになります。
二人はその後、千葉県内の別の古民家を20件ほど見ました。
何度も悩んだ結果、最初に見た香取市の古民家を買う決心をしたのです。
「せんのみなと」の誕生でした。
「キャリアツーリズム」という新しい事業
千葉県香取市。
北部に小江戸佐原で知られる観光地、香取神宮、道の駅があり休日は賑やかな地域、
その周辺には豊かな緑が広がる農村地帯があります。
「せんのみなと」の古民家は香取市南部の農村地帯、山田地区に位置し、近くには地元で代々信仰される山倉大神があります。
「せんのみなと」でキャリア相談を受ける人は、観光やゆっくり宿で過ごすことを目的とせず、ただ自分のためだけにこの地に来るのです。
「都市は片手間でキャリア相談ができます。仕事帰りに行けるのです。でも、ここには“片手間”はありません。決意して来るのです。それくらい真剣な人に、私たちも向き合いたいのです」
その人が何を本当にやりたいのか、掘り起こしていく。
「こういう風に思い込んでいたけど、違うのかもしれない」
あなたはこうです、という指導的なものではなく、自ら自分を見つけに行く。
相談者にとって、はたらくを通して”自分らしい”を実現するための旅。
今までにないキャリア相談の形。
二人は、これを「キャリアツーリズム」と名づけました。
しかし、新しい事業の船出には困難が伴いました。
創業融資がおりず、起業のための自己資金をほぼ古民家に使ってしまったため、お金がない中でのスタートでした。
山田地区で移住してビジネスをしている人は少なく、相談先がなかったと言います。
頼れる人がいない中、二人を助けてくれたのは近所の人でした。
野菜を分けてくれたり、庭の畑や草刈りを手伝ってくれたり。
相談者が来ると、「忙しそうだね、何かやることはある？」と声をかけてくれる人もいました。
「近隣の方がめちゃくちゃ優しくて。移住してから一回も悪い思いをしたことはありません」
二人は地域への恩返しに、相談者をつれて地元の山倉大神にお参りに行ったり、自治会に入り地域の掃除や草刈りを手伝いました。
その後、キャリアツーリズムに継続的に相談者が来るようになり、加えて企業や自治体のご縁も増え、研修プログラムの開発依頼もくるようになり、事業は広がっていきました。
地方にある確かな「自分」
地方に移住したことによる変化について聞くと、
「『あの夫婦にあった方がよい』と個人名で指名されるようになりました。東京にいるときは大きな組織の一部でしかなかったのが、地方では『自分』で生きている感じがします」
と、澄香さん。
人口が少ないゆえに選挙の票の重みも感じ、当事者意識が芽生えたと言います。
また、学生時代から、ストレス性の体調不良が当たり前だったのが、香取市に引っ越してから嘘のように体調を崩さなくなったそうです。「自分に合った環境で暮らす事の重要性を感じています」
澄香さんは移住前は不安もあったそうですが、「地方移住をためらう理由が収入面での不安であれば、移住した方が良いと思います」とのこと。
将也さんは、
「思った以上に暮らしやすいです。移住してから高速バスのバス停が近いことを知りました。せんのみなとから東京の八重洲までたった75分です。二拠点生活にすれば良かった、仕事辞める必要なかったかも」
と、冗談めかして笑います。
香取市は想定外にアクセスは良く、高速バスはWi-Fiもあって快適です。
東京に行こうと思えばすぐ行ける距離感にありながら、自然豊かな田舎で暮らせていることが一番の魅力かもしれません。
地方で暮らす時に大切な考え方もうかがいました。それは、「どこに住んでいても外との繋がりを持っていくことは大切」ということです。
当初、同年代も、近い職業の人もいないこの地域で、夫婦二人で暮らしていたら閉塞感を感じるようになったそうです。
そこで、キャリア相談を受けながら日本一周の旅に出た澄香さんと将也さん。旅から帰ったお二人が感じたのは、「地域にもっと貢献したい」ということでした。
日本一周で地域ごとに異なる暮らしをしている方々の相談を受ける中で、外との繋がりの大切さと、自分たちが持つ繋がる力の大切さを再確認できたと言います。
今後の目標については、
「一人一人がここにいて、暮らして、働いて、良かったと思える仕掛けをつくっていきたい。人生を振り返った時に、やっていてよかった、明日も頑張ろうと思えるように。香取市内でも、この地に生まれて良かった、戻って良かったと思える仕掛けをつくりたい」
具体的な内容については「一緒にやる仲間を増やして、一緒に考えながら進めていきたい」とのこと。
志が良いお二人のこと、きっと志の良い仲間が集まることでしょう。
<店舗情報>
『せんのみなと』
X（将也さん）
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X（澄香さん）
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LinkedIn（澄香さん）
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<香取市への移住相談など>
香取市企画政策課 （電話 0478-50-1206）
https://www.city.katori.lg.jp/smph/government/plan_policy/ijuu_teijuu/index.html
