移住者プロフィール
松原さん
利用した支援制度
農業次世代人材投資事業
家族構成…ご夫婦、お子様二人 どちらから移住しましたか…浜松市→神崎町→香取市 移住して何年ですか…4年 移住前のお仕事は…歩久斗さん…工場勤務、映子さん…理学療法士 香取市移住後…歩久斗さん、映子さん…レンコン農家
工場勤務の中で描いたレンコン農家の夢
目の前に広がる広大な田んぼ、ゆっくりと動く雲。
「こんにちは!」
関東でも有数の稲作地帯である千葉県香取市、その開放感あるロケーションに建てられた作業場で、あふれんばかりの笑顔で迎えてくれた松原映子(ようこ)さんと歩久斗(ほくと)さん。
作業場のシャッターにはお子さんがデザインした可愛らしいイラストが描かれています。
テーブルに座ると、横には松原レンコンファームの亀のロゴをあしらったキーホルダーや、鏡などのグッズ。農園のブランド作りを楽しんでいる様子が伝わります。
そして、野菜ソムリエサミット最高金賞受賞の表彰状。
「元々は浜松の機械メーカーで働いていました」
そう話す歩久斗さんのお仕事は、工場で稼働する設備の保全でした。生産が止まることのないよう、設備保全の部署は24時間いつでも対応することが求められます。
そのため、三交代制というシフトで勤務します。
日中のシフトと夜勤のシフトが交互に入り、自律神経に負荷がかかる身体的に厳しい勤務体制でした。
「もっと地に足の着いた仕事がしたい。朝日と共に起きる生活がしたい」
理学療法士だった映子さんと出会い、入籍する頃、歩久斗さんの意識が農業に向き始めました。もともとプルメリアやアガベといった、熱帯の植物が好きで育てていた歩久斗さん。
しかし農業の知見はなく、周りに相談できる農家の友人もいませんでした。
そこで、ネットで農業について調べました。 すると、高収益作物としてレンコンがあることが分かりました。
単価が高く、初期投資が少ない。米農家が減る中、水田を転作してレンコンの蓮田(はすだ)にするのです。
歩久斗さんは映子さんに「レンコン農家になりたい」と言うようになります。しかし、肝心のレンコンの育て方や営農方法が分かりません。
そんな中、荷台にレンコンを積んだ、老夫婦の運転する軽トラとすれ違います。
「あれは絶対レンコン農家だよ!近くにあるんじゃない?」
映子さんが調べると、近所にレンコン農家があり、収穫時期のアルバイトを募集していました。
家族に支えられたレンコンの修業
歩久斗さんはさっそくアルバイトに応募し、大学生に混じってまだ日も登らないうちの早朝の収穫作業をしました。
「自分で採ったレンコンを初めて食べたら、美味しかったんです」そう言って目を細める歩久斗さん。
「今思えばそこのレンコンより、香取市のレンコンの方が美味しいよね」映子さんは苦笑します。
レンコンの魅力を知った歩久斗さんは三交代制で働きながら、収穫のアルバイトを続けました。映子さんは当時、長女が生まれたばかりで大変な時期でした。
「だって、止めても聞かないでしょ?」
歩久斗さんに笑顔を向ける映子さん。当時、浜松市で同居していた歩久斗さんの両親の協力を得ながら、子育てとアルバイトと三交代制の生活を半年間続けました。
その映子さんの実家は、千葉県香取市の米農家でした。
歩久斗さんはレンコン農家になることを決心、そこで映子さんの両親の水田を蓮田にできないかと相談します。まだ子供が小さい映子さんにとっても、両親の育児のサポートが得られるのは心強いことです。
「両親は大喜びで。農業をやってくれるのは嬉しい、トラクター貸すって」
レンコン農家への道が見えた歩久斗さんですが、浜松市で経験したのは収穫作業のみ。
そこで、いったん香取市の隣の神崎町のレンコン農家に弟子入りし、2年間修業をすることにしました。映子さんも理学療法士として2年間、家計を支えました。
歩久斗さんが修業をしながら着目をしたのは『土』でした。
「土に住む微生物が大事です。好ましい菌が多い蓮田のレンコンは味がよく、収量もあります。逆に、収量の少ない蓮田で採れたレンコンは味もあまり美味しくありません」
修業2年目には、翌年独立する時に使う蓮田の土づくりも始めました。
そしていよいよ、独立の年。
農園の名前は『松原レンコンファーム』。ロゴは蓮の葉をもつ亀です。
土づくりの成果あって、何とか初年度のレンコンの収穫までたどりついたお二人。当時コロナ明けで、レンコンは底値の中の初出荷でした。
「本当にひやひやしました」当時を振り返る歩久斗さん。
お二人は直接営業に尽力し、初年度の収穫を何とか売り切ることができました。
松原レンコンファームのブランド化とESG経営
会社員と独立農家との違いは、従業員か経営者かの違いとも言えます。
作物を作っても、売り先がなければ経営は成り立ちません。
2年目以降は蓮田の面積を増やした松原レンコンファームにも、「いかに売り先をつくるか」という課題がついてまわりました。
東京の青山のファーマーズマーケットに出店しましたが、PR効果はあるものの東京までの移動コストや人件費の出費も多く、収益にはつながりませんでした。
そこでエントリーしたのが「野菜ソムリエサミット」。
松原レンコンファームのレンコンに味のお墨付きがあれば、香取市にいながら販路を得られると考えたのです。
野菜ソムリエサミットは全国から色々な野菜が集められる食味コンテストです。農家が指定した方法で調理された野菜を、野菜ソムリエが審査します。
土づくりはまだ上を目指せると考えていた歩久斗さんですが、現時点でのレンコンの味にも自信はありました。
結果は、「最高金賞」。
「サツマイモのように甘い」「ホクホク感とシャキシャキ感が楽しめ、飽きない」とその味が高く評価されました。受賞後は都内の青果店から連絡が来たり、バイヤーにつないでもらえる話が来るそうです。
「ブランディングに力を入れているレンコン農家はほぼいません。だからチャンスがあるのです」
農家経営のポイントは「品質と売り方」という歩久斗さん。理想は、利益率の最も高い直売所での売上を増やすこと。
そして、映子さんが着目したのは、ESG経営です。
持続可能な社会を目指す中で企業に求められる3つの項目、環境(E)、社会(S)、管理体制(G)の頭文字をとった経営手法です。
松原レンコンファームにおいて環境(E)とは、最小限の農薬の使用にとどめること。
管理体制(G)とは、スタッフへの適切な経営情報の開示。
そして社会(S)で実施しているのが、子供食堂へのレンコンの無償提供です。
大阪の西成区の子供食堂から始めたこの活動、本当に美味しいレンコンは、子供たちがポテトフライのように食べるそうです。
「できれば現地に行って調理したいのですが、そんな余裕がないのでせめてレンコンは無償で提供してます」
送料も無料で、北海道や沖縄など場所も問わないそうです。
笑顔あふれる松原レンコンファーム
最高金賞を受賞した松原レンコンファームのレンコンですが、歩久斗さんは「まだ土は良くできる」と、学び続けています。
オンラインの農業講座を受講し、本やYouTubeでも勉強、さらに茨城のレンコン農家さんにたどり着き、今なお土づくりを学んでいます。
「規模は現状を維持しながら、味という品質を向上し、単価と収量を上げ、直販で収益を上げたいと考えています。そのカギとなるのが土です。規模を広げると人を雇ったとしても、土の管理が行き届かなくなると考えています。個人だからこそ、ブランディングができると思っているのです」
映子さんも知恵を絞っています。
PR経費がない代わりに知恵と工夫でPR、売上アップしたらその分リターンがあるという条件でスタッフを雇用しています。
妥協しない姿勢の映子さんと歩久斗さんは、よく仕事でケンカをするそうです。
「スタッフにも言われます。『この二人、ほんとにケンカするんですよー』って」そう言って笑う映子さん。
本気の仕事の時間が終われば、笑顔あふれる松原レンコンファーム。
「三交代制の時より、幸福度が高いです」
田園風景を見つめる歩久斗さん。
松原レンコンファームのレンコンは、8月頃からの収穫予定で、直売所の他、道の駅さわらなどで買うことができます。
<店舗情報>
『松原レンコンファーム 直売所』
場所:千葉県香取市西部田1419
営業時間:10:00-12:00
営業日:8月頃~ 売り切れ次第終了
HP
https://www.matsubara-renkon.com/
インスタグラム
https://www.instagram.com/matsubara2022lotusroot/
投稿時点の情報、詳細はお店のSNS等確認ください。
<香取市への移住相談など>
香取市企画政策課 (電話 0478-50-1206)
https://www.city.katori.lg.jp/smph/government/plan_policy/ijuu_teijuu/index.html
香取市・移住定住相談グループ(LINE)