移住者プロフィール
稲川千晃さん
家族構成…妻、子供 どちらから…茨城県 移住して何年…5年前 移住前のお仕事…工場勤務 移住後のお仕事…営業、香取 竹取物語(ボランティア)
海から山へ
「元々は海にしか興味がなくて。週3回から5回はサーフィンに行ってました」
そう語る稲川さんは、海の太陽を連想させる、爽やかでまぶしい笑顔。
自然体で記者達に気さくに話をする稲川さんは、二児のパパでもあります。
稲川さんが千葉県香取市に移住したのは5年前。
奥様の実家が海に近く、交際していた時代にサーフィンがてら通い、結婚後は奥様の両親と同居する形で移住しました。
香取市について特に興味やこだわりがあったわけではなく、
「子供ができたら近くにお店や病院があるところの方がいい、くらいしか考えていませんでした」と言います。
そんな稲川さんは今、香取地域で竹炭づくりをコアに、地域と人と食料の新たな循環を生み出す取り組みをされています。
それは、全てをお金で循環させる、貨幣経済を超える可能性を持つ取り組み。
この循環は、二つの流れを交差させることで生み出されています。
一つ目の流れは、竹林整備と竹炭づくりによる「地域の環境づくりの循環」です。
稲川さんを中心とするボランティアグループに、地域で管理しきれなくなった竹林の整備のお願いが届きます。
すると、有志のメンバーが竹林に入り、伸びすぎた竹を切ります。
切られた竹はその場で燃やされ、竹炭になります。
竹炭を元の土地に撒くことで、土壌の微生物が増え、土地の環境が改善すると言います。
二つ目の流れは、竹炭と有機野菜を交換することによる「食料の循環」です。
できた竹炭の一部を地元の有機農家さんに提供し、農地の土壌改善に役立ててもらいます。
その代わりに、出荷できないけれど味は美味しい、規格外の野菜をもらうのです。
稲川さんは竹林整備の日は、参加したメンバーと規格外の野菜でBBQをし、残った野菜はお土産として渡します。
この取り組みにより、お金では生むことのできない循環が生まれます。
その結果、地域の竹林は整備され、捨てられるはずの野菜が美味しく食べられ、人々が協働し共に生きる場が生まれるのです。
そんな循環を生み出している稲川さんですが、移住当初は竹とは関係のない海派でした。
転機が訪れたのは、「和ハーブ」との出会い。
「和ハーブ」とは江戸時代以前の日本人が使っていた有用植物のことで、誰もが聞いたことのある「どくだみ、しそ」などの草や、「梅、椿」などの樹木も含まれます。
現代ではほとんどの人が知らない和ハーブも数えきれません。
薬用の他、食用に使われるものも含み、かつての日本人が使っていた自然の、そして無料の生活用品といえるでしょう。
「元々の日本人の生活の知恵です。科学の力もすごいけど、それ以上に次世代に伝えたい技術だと思いました」
稲川さんは、「和ハーブインストラクター」と「和ハーブフィールドマスター」の資格をとるための課題に取り組むうちに、それまで興味のなかった「植物」と「日本の歴史」にのめりこんでいったと言います。
時は折しも、コロナ禍でした。
山から竹炭へ
「山があればどんな状況でも生きていけるし、食べていけます」
日本人の歴史は山と切っても切り離せないものでした。
昔話にでてくる山の芝刈りや薪拾いは、日々の生活資源を手に入れるための、山を整備する日常風景でした。
山は、人々に大切にされていました。
また、自然界においては山が浄化機関だと言います。
しかし、今では人の手が入らない山も多く、生活資源を手に入れる場所としてほとんど機能していません。
稲川さんは、不安定な時代の中でも自分や家族、また将来の子供たちが生きていけるように、山の手入れをしたいと考えるようになりました。
ところが、林業は多くの資格が必要で、すぐにできるものではありません。
「資格がなくてもできること、少人数でも始められることはないだろうか?」
調べたところ、竹に行きつきました。
竹林整備であれば資格も必要なく、女性や子供も参加することができます。
さらに調べると、千葉県いすみ市で竹林整備と竹炭づくりをしながら環境改善をしているボランティアグループがありました。
管理できなくなった竹林に入り、生えすぎた竹を伐採する。
伐採した竹は燃やして竹炭にする。
その竹炭を土に撒くことで、竹炭が微生物の住みかとなり、土の生物多様性が増し、環境改善になるというのです。
行動的な稲川さんは早速このグループに参加し、「香取市で活動したい」と竹林整備、竹炭づくり、土の環境改善などのノウハウを教えてもらいました。
技術を習得した稲川さんは香取市で同志を募り3人で活動を開始。
ボランティアグループ名は、『香取 竹取物語』。
香取市および香取郡(多古町、神崎町、東庄町)を活動範囲とし、竹林整備、竹炭づくりを行います。
活動は竹炭づくりが隔週土曜日で、竹林整備が平日半日程度の作業です。
目標は「豊かな自然を次世代につなぐ」こと。
この時、稲川さんがイメージしていたのは、子供から高齢者まで3-4世代が交じり合い、共に働き、共に食べ、笑いあう風景。
しかし、1年目にして壁に突き当たることになったのです。
自分の限界と応援
活動を始めてしばらくした頃、立ち上げメンバーの1人が来なくなりました。
その結果、自分一人で作業をすることが多くなったのです。
竹を切り、運び、燃やし、竹炭を回収するには力が必要です。
誰もいない竹林で、修業のように一人で作業するうちに、稲川さんが強く感じたのは「一人の力の限界」でした。
竹林整備の依頼が来ても、人がいなければ応えることができません。
円滑な活動をするためにはもっとメンバーが必要です。
でも、日常の仕事をしながらボランティア活動ができる人は限られています。
そこで、稲川さんは「ボランティアグループのメンバーを増やす」という発想を切り替えて、都度、作業応援に来てくれるサポーターを増やすことにしました。
「都合の良い時に手伝いにいくなら参加できる」という7人のサポーターと再スタート。
サポーターのLINEグループをつくり、活動の予定日を連絡し都合の良い人が集う形にしました。
サポーターは家族や友人を誘ってくれることもあります。
夏に竹炭づくりをした時は、燃やした竹の火を子供たちが水鉄砲で消してくれました。
サポーターやその家族を含めた参加者は、4歳~60代。
稲川さんがイメージした、あらゆる世代が参加可能な活動になっています。
明るい未来へ
「これがアカメガシワ。新芽は天ぷらが美味しいですよ。こっちはヤツデです」
次々と和ハーブを見つけ、活用方法を話す稲川さんの後について入ったのは、畑。
稲川さんが「竹炭の効果を自分で確認したくて」と、竹炭をふんだんに使った不耕起、無肥料無農薬の畑です。
4つの畝の下は、枯草と竹炭をミルフィーユ状に重ねてあると言います。
「こうすると、隣の畝同士の作物も、土中では菌でつながっていることになりますね」
まず行動し、自分で体験して確かめ、つまずいても前に進み続ける稲川さん。
稲川さんには、危機感があります。
今、目にしている木や植物が、将来もあるだろうか、と。
しかし、稲川さん自身はあくまで柔らかく、明るく、力みのない印象です。
活動の原動力は?
「子供がいなかったら、この活動はやっていなかったと思います」
子供を通して未来を意識することで、稲川さんの活動が地域や地球といった広い視野をもったものになっていると感じます。
稲川さんが今後やりたいことは、ボランティアグループを認定NPOにすることです。
そして、場所や野菜などを提供してくれる、地域の人たちに支えられている感謝を胸に、地域に還元できるような活動をしていきたいと話します。
その実現のためには、「自分が振り切れるかどうか」と稲川さんは言います。
「年齢制限はないので、応援してくれる方、参加してくれる方を募集しています」
※稲川さんと、ボランティア団体の副代表の小川さん。
サポーターへの参加や竹林整備の依頼は稲川さんのインスタへDMで。
インスタ https://www.instagram.com/18.chiaki/
<香取市への移住相談など>
香取市企画政策課 (電話 0478-50-1206)
https://www.city.katori.lg.jp/smph/government/plan_policy/ijuu_teijuu/index.html
移住相談LINE
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