移住者プロフィール
藤末さん
利用した支援制度
チャレンジショップ、にぎわい再生支援事業補助金
家族構成 ご夫婦、 どこから移住しましたか パリ、 移住して何年ですか 2ヶ月、 移住前のお仕事 藤末さん…パティシエ、デボラさん…店舗の販売責任者、 移住後のお仕事 お二人とも…デボラ’sフレンチトースト
憧れのパティシエに
「こんばんは!」
爽やかな笑顔で迎え入れてくださった藤末さんは、
千葉県香取市の小江戸佐原に、2023年12月13日にオープンしたばかりの「デボラ’sフレンチトースト」のオーナーシェフ。
奥様のデボラさんは、フランスでキャビアやカシミアの販売責任者を歴任したのち、藤末さんとともに日本へ移住したばかり。
木のぬくもりが感じられる店内で、並んでにこやかに座ったお二人。
藤末さんが通訳をしながら、仲睦まじくインタビューに応じてくださいました。
「10歳の時に食べた『ガトーオペラ』に衝撃を受けて、自分もこんなお菓子をつくってみたいと思ったんです」
そう語りだした藤末さん。
パティシエになる場合、専門学校に通うのがよくある経歴ですが、藤末さんはパティシエとしては異色の経歴をたどります。
高校は地元の進学校である匝瑳高校。その後、有名ケーキ屋でアルバイトをしながら大学でフランス語を専攻します。
「フランスへ行きたいとずっと思っていました。オープンキャンパスを見学に行った専門学校で、『フランス語が分からなくて帰ってきてしまう』という話を聞いたので」
大学卒業後、セルリアンタワー東急ホテルのレストラン「クーカーニョ」に就職が決まります。
専門学校に通うパティシエに2年遅れ、ようやくパティシエとしての経歴をスタートさせた藤末さん。
持ち前の才能と前向きさを発揮し、頭角を現します。
入社3年目、ドーナツ状のシュー菓子「パリブレスト」の日本大会である「アンドレ・ルコント杯コンクール」で優勝します。
「彼のパリブレストは、私が食べた中で人生で一番美味しい」とデボラさんも絶賛。
でも藤末さんは「優勝経験のある先輩に指導を受けられたので…」とあくまで謙虚です。
優勝の副賞は10日間のフランス行きのチケット。
そのうち5日間、セルリアンタワー東急ホテルのペストリー部門をプロデュースする、ローラン・ジャナン氏がシェフパティシエを務める、パリの最高級ホテルの一つ「ル・ブリストル・パリ」で研修することが叶います。
帰国後、すぐにでもフランスで修業したいと思った藤末さんですが、すでにホテルの中核的存在になっていたため、実際にフランス行きが決まるまでにさらに3年半の歳月を要しました。
夢のフランス
フランスで最初に就職したのはパリ15区にある、当時ミシュラン一つ星の「ピルグリム」。オーナーとシェフが日本人で、フレンチと日本料理を融合した繊細な料理を提供するレストランです。
「日本とフランスは違いました。食材の使い方。調理の構成。齋藤照允シェフというすごい方がいて、燻製した生クリームとか、クリエイティブなものを提供していたんです」
熱っぽく語る藤末さん。
パリでの1年間の修業の次に行ったのはフランスのボーヌという町で、伝説的ミシュラン3つ星グループ「ベルナール・ロワゾー」グループのレストラン「ロワゾー・デ・ビーニュ」でした。
そこで藤末さんは、現地の名産であるカシスを使い、「パリボーヌ」という新商品を開発します。
そしてこのボーヌで、デボラさんと出会います。
「付き合い始めた時は日本に来るなんて想像していませんでした」
そう言ってほほ笑むデボラさん。
しかし、藤末さんには明確な目標がありました。
「独立して自分の店を持つ。ミシュラン三ツ星レストランか、「パラス(※)」で、シェフもしくはスーシェフ(※※)をやったら独立する」
※パラス…フランス政府の認定を受けた最高ランクホテル
※※スーシェフ…二番手のシェフ
そしてフランス滞在も残り6ヶ月というタイミングで、パリ8区の「パラス」ホテル、「ラ・レゼルブ・パリ」内のミシュラン2つ星レストラン「ガブリエル」での就職が決まります。
世界中のエグゼクティブが宿泊する「パラス」、フランス料理の最先端のクリエイティブが集うレストラン。
メニューを見てもどんな物か分からない、他では決して味わうことができない一皿。旨味が凝縮された驚きの料理。
そんな環境に身を置きながら、藤末さんは独立の日が刻々と近づいていることを感じていたのでした。
香取市で自分の店を開店
「独立することについては、妻とよく相談しました」
デボラさんを見つめる藤末さん。
フランスで独立するためには日本よりもお金がかかります。
藤末さんは日本での独立を考えました。
デボラさんは日本に2回来たことがあるものの、日本語は話せず不安だったと言います。
しかし何事も経験だと、藤末さんについていくことを決心します。
藤末さんは出身地である千葉県匝瑳市周辺を検討します。
そして、隣の市である千葉県香取市の「チャレンジショップ」という制度を知ります。
「チャレンジショップ」とは、香取市の観光地である「小江戸佐原」にある貸し店舗です。契約終了後、香取市内で事業を継続する意思をもつ人に、物販や飲食店舗として2年契約で場所を提供します。店舗のほか、地元の卸業者の紹介やHP作成など様々な支援を受けられます。
2023年後半に2年を迎える店舗があり、備品や調理場の設備も引き継ぐことができる好条件でした。
藤末さんはチャレンジショップに応募し、フランスから遠隔で面接を受け、見事選ばれました。
藤末さんとデボラさんは、9月末にチャレンジショップ近くに移住しました。
「何もかも大変でした。帰国して2ヶ月で店をオープンした人なんていないんじゃないかな」
内装はほとんど変更せず、追加した調理器具もわずかで済んだと言います。
卵の仕入れ先として、千葉エッグファームの美味たまの紹介も受けました。
また、香取市の「にぎわい再生支援事業補助金」も利用したそうです。
こうして2023年12月13日、デボラ’sフレンチトーストが開店しました。
香取市での生活
「香取市は私がフランスで抱いていた日本のイメージそのものでした」
そう言って、目を細めるデボラさん。
香取市佐原の町並みには江戸時代から大正時代までの建物が現存し、国の伝統的建造物群保存地区に指定されています。
無電柱化工事も進んでおり、小野川沿いの景観は歴史絵巻そのものです。
「すごく伝統的な国だと思いました。そして生活してみると、近代的な便利さのある国だと感じました」
お酒好きのデボラさんは日本酒も気に入り、今までに食べて美味しかったものは山田うなぎだとか。
「妻が外国人で、受け入れてもらえるかなと不安でしたが」
実際に移住したところ、地元に温かく受け入れてもらい、周辺のお店のシェフやそのご家族との交流も始まっているとのこと。
「とにかく今は目の前のお店を軌道に乗せる、そして地元の方にも愛されるようなお店にしたいと思っています」
「日本語をうまく話したい。コミュニケーションがとれるようになりたい」
そう話すお二人の瞳は澄んでいてまっすぐでした。
デボラ’sフレンチトースト
ここでしか食べられないオリジナリティがあること。
クリエイティブであること。
食べた人に感動をあたえること。
これまで学んできた様々なことを元にお二人が創り上げた「デボラ’sフレンチトースト」。
そのメニューをいくつかご紹介したいと思います。
まずは看板メニューの『シュゼットフレンチトースト』。
デボラ’sフレンチトーストのパンは全て藤末さんが焼いており、他の店では味わえないものとなっています。
パン全体に卵液がしみわたり、ふんわりとした焼き上がり。
表面はキャラメリゼされており、噛んだ瞬間はパリっとした爽快感のある食感、そのあとにフワッとしたフレンチトーストが広がります。
トッピングはバターとオレンジ果汁、カラメルでソースを作り、オレンジの果肉を加えたものとバニラアイス。ひんやりとしたアイス、オレンジの酸味が、甘いフレンチトーストをひき立てます。
「フレンチトーストは甘いもの」という既成概念を覆す、メインディッシュなフレンチトーストが2種類あります。そのうちの一つがこれ、フレンチトーストの上にトマトとモッツァレラチーズ、ベビーリーフがあしらわれた『トマトとモッツァレラチーズフレンチトースト』です。
甘味を抑え、塩気とにんにくの効いたエクストラヴァージンオリーブオイルが違和感なく全ての食材をまとめています。
デボラ’sフレンチトーストに来たら一度は食べてみたい一品です。
デボラ’sフレンチトーストではケーキの予約も受け付けています。
季節のフルーツをあしらったケーキ、素材はその時々の藤末シェフのお任せです。
香取市にある千葉エッグファームの美味たまを使った生地はオレンジ色、深みのある甘さです。
12月のある日に注文したところ、イチゴのケーキでした。
フレッシュなイチゴの層が2層あるケーキで、表面には薄切りされたイチゴが繊細に飾り付けられ、金箔があしらわれていました。
今後の展望についてうかがうと、シェフが一人なのでどこまでやれるか分かりませんが、とお話されつつも、
「地元の美味しいフルーツがあれば使いたいです。それからピーナッツ。特に、千葉半立ちという品種は風味が強く、ピーナツペーストが美味しくて驚きました」
藤末さんが得意とするパリブレストは、パリとブレストという二つの町の名前が由来だそう。
「地元食材を使った『パリ佐原』なんてお菓子がつくれたら面白いと思います」
インタビューを通じてお二人の、デボラ’sフレンチトーストのファンとなった身としては、パリ佐原の出現が待ち遠しいところです。
<店舗情報>
『Déborah's French Toast』
場所:千葉県香取市佐原イ3394-2
営業時間:11:00-18:00、定休日:月曜日・火曜日
マップ
https://maps.app.goo.gl/zhgg8VHB9ZU4etf86
インスタグラム
https://www.instagram.com/deborahsfrenchtoast/
投稿時点の情報、詳細はお店のSNS等確認ください。
<香取市への移住相談など>
香取市企画政策課 (電話 0478-50-1206)
https://www.city.katori.lg.jp/smph/government/plan_policy/ijuu_teijuu/index.html