移住者プロフィール
髙山五一郎さん
利用した支援制度
特になし
家族構成…ご自身、パートナー どちらから移住しましたか…ロサンゼルス→東京→千葉県香取市 移住して何年ですか…1年 移住前のお仕事…武道家、通販事業 移住後のお仕事…同じ
武道との出会いと別れ
「母子家庭だったためか、反抗期が早くて」
そう語る髙山さんは、当時の様子を全く感じさせない穏やかな雰囲気です。
のんびりと自然体の髙山さんといると、こちらも身体の力みが抜けていきます。
しかし、小学校の時の髙山さんはすぐに手が出る問題児でした。
それが収まったのは、警察官だった叔父の影響で剣道を始めたことがきっかけでした。
髙山さんは集中して剣道に取り組み、高校では宮崎国体、栃木国体に出場します。
ところが、高校三年のインターハイの選出大会であおむけに転ぶ大けがをした髙山さんは、ケガが治った後も腰痛を患います。
その後、中京大学の法学部に入学した髙山さんはそれでも剣道を続けたいと、電車で1時間かけて中京大学の体育学部の剣道部に挨拶に行きました。しかし経済的な理由で転部はできず、剣道をやめる決心をします。
その後、空手を始めますが、剣道との雰囲気の違いもあり1年半でこれもやめます。
打ち込む対象がなくなった髙山さんは、大学3年でアメリカに行こうと決意します。
当時はロサンゼルスオリンピックがあり盛り上がっていたアメリカ。
また、子供のころ親しかった人がスキーヤーで、海外のお土産をもってくるのに憧れをもっていました。
学業にも就職活動にも力が入らなかった髙山さんは、「働きながら英語学校に通う」という友人の知人の知人の紹介でロサンゼルスの寿司屋に就職します。
アメリカでの困難
カリフォルニア州ロサンゼルス、レドンドビーチ。
誰もが住みたがる風光明媚な観光地です。
しかし、就いてみると英語学校の話がなく、英語もしゃべれなかった髙山さんはショックを受けます。
3か月後、英語学校に行かせてもらえるようになりましたが、紹介者に対する不信感はぬぐえませんでした。
そして就職から8か月後、紹介者に貸したお金を返してもらえなかった髙山さんは、怒って寿司屋を飛び出します。
以前、飛行機で隣席になり名刺をくれた男性を頼りにケンタッキー州に3日かけて移動。
この時すでにビザはオーバーステイ、不法滞在でした。
男性は親切に髙山さんを二週間受け入れてくれました。
髙山さんは、その間に心を落ち着かせ、今後について考えることができました。
日本に戻ってビザを取り直すには金銭的な余裕がありません。
結局、ロサンゼルスに戻って知り合いのところに泊まり、別の寿司屋に就職。
貸したお金は、付き合いのあった魚屋が間を取りなして返してもらうことができました。
その後、オーバーステイを通報される可能性があるため、コロラド州アスペンの寿司屋に転職。
アスペンは富豪が飛行機に乗ってスキーをしにくるところで、朝・スキー、昼夜・寿司屋という夢の生活でした。
半年勤めた後、再びロサンゼルスに移動。この頃には髙山さんの心もすっかり落ち着き、
「大学に行こう。グリーンカードをとって、滞在資格を得よう。サンタモニカカレッジに通い、その後カイロプラクティックカレッジに編入しよう。寿司屋で働きながら、カイロプラクターの資格をとろう」
と、将来について考えられるようになりました。
ところが、目標が定まったところで取り締まりが来たのです。
申請していたグリーンカードの弁護士は悪徳業者で、お金を持って逃げていました。
申請手続きはされておらず、髙山さんは不法滞在が確定。帰国せざるを得なくなったのです。
起業と廃業、事業での困難
当時、日本は平成元年。
「英語が話せて、アメリカかぶれだった」
という髙山さんは数社に行ったものの勤まらず、最終的には知人づてで知り合った人の会社に就職します。
そこは、中南米ボゴタとの間で貴石輸入業をしている会社でした。
3年務めて30歳の時、髙山さんは独立します。
当時、貴石輸入業は4か月手形で取引していた、ババ抜きのような業界でした。
十分な業界知識がなく独立したのが災いし、4年後に不渡りで2000万円の負債を抱えます。
髙山さんは鬱になってしまいました。
「寿司屋に戻ろう」
そう思った髙山さんは、オーバーステイの影響のないデンマークの寿司屋に就職。
しかし、中腰で寿司を握り続ける仕事で、10年ぶりに腰痛を発症しました。
「ごうさん、太極拳やったらいいよ」
寿司屋の同僚に勧められた髙山さんは、呉式(ごしき)太極拳を始めます。
鬱だった髙山さんはすがるものが他になく、朝から晩まで太極拳に打ち込みました。
太極拳の呼吸法をやるうちに、「自分じゃない状態だったのが、自分に戻ってくる」と感じた髙山さん。
「太極拳は腰痛は治しませんでしたが、呼吸法は鬱にものすごく効果があり、すっかり治りました」
覚えるのに1年かかる、と言われた太極拳の108式套路(とうろ)を3か月でマスターし、自分を取り戻し、もう一回事業をやろうという気持ちも取り戻した髙山さん。
36歳で日本に戻り、通信販売の事業を起こします。
事業は順調で日本と海外を飛び回りました。
また、ロサンゼルスの拠点を任せていた友人とパートナーになります。
ところが2007年に、出店していた楽天オークションのルールが変更。売れば売るほど赤字になりました。
1年継続しましたが負債がふくらみ、日本の拠点を閉めてロサンゼルスを拠点としました。
そして、ロサンゼルスと日本の通信販売に的を絞り、当時日本で人気だったコーチ、アバクロ、ハーレーといった商品を販売。3年でオークションの負債を返します。
順調に思えた2010年、髙山さんは腹膜炎を発症します。
アメリカの医療費は高く、医者にかかることを躊躇した髙山さんは3日間苦しみ、ついに病院に行きます。
「あと1日おそかったら死んでいた」
医者にそう言われた髙山さんは、「人間て簡単に死ぬな、と思った」と言います。
ビジネスは失敗を繰り返し、ジェットコースターのような人生。
47歳。
今までで後悔していることは。
武道で開けた第二の人生
「一回、武道にもどろう」
半年のリハビリを経て回復した髙山さんは、高校生の時に通った講談社野間道場に許可を取り、日本に滞在したタイミングで剣道の稽古を再会しました。
剣道はその後、ロサンゼルスのウエストLA剣道道場で教えるようになります。
また、太極拳は技の意味が分からないまま健康体操として教わったため、学びなおしをしようと考えます。
その結果、覚えた108式套路は体操ではなく、全てが武道の技であることを知りました。
さらに、大東流合気柔術(だいとうりゅうあいきじゅうじゅつ)六方会の岡本先生に弟子入りします。
当時、85歳の岡本先生。髙山さんは「アメリカさん」と可愛がられ、おつきの先生とも馬が合い、帰国するたびに全国のセミナーに同行したり、釣りに行ったりと親交を深めます。
5年後、岡本先生が亡くなります。
「ロサンゼルスで支部を作って欲しい」と言われていた髙山さんは、3年後の2018年に岡本先生の遺言を実現する、大東流合気柔術LA同好会を立ち上げます。
同好会の立ち上げでつながりを得たのは、俳優のスティーブンセガールさんの元弟子、合気道の松岡先生。松岡先生が毎日やっていた操体法に興味をもった髙山さん。
古来、武士が自分の身体を自分でメンテナンスするために行われてきた体操でした。
操体法を毎日やるようになったところ、なんと、40年完治しなかった腰痛がほとんど治ったのです。
カイロプラクティックでも鍼でも治らなかった腰痛。
髙山さんはこの操体法と、鬱を解消した太極拳の呼吸法を多くの人に広めたいと思いました。
『大極法 剛式太極拳』。
それは、髙山さんが創始者である、操体法と太極拳、大東流合気柔術を統合した武道です。
武道の導き、香取市に呼ばれる
「千葉でインバウンドをターゲットに民泊をしようよ」
髙山さんのパートナーがそう言いだしたのは3-4年前のことでした。
20年間続けた通販事業ですが、時代の流れと共に業界のスピードが上がり、髙山さんの会社の売上は下がっていました。
従業員もカット、ロサンゼルスの拠点で二人で事業をまわしている状況でした。
パートナーは千葉の出身。
今はロサンゼルスにいるけれど、通販事業はやめて、古民家をDIYして民泊をしたいと言い出したのです。
いくつかあった候補地の中で髙山さんが選んだのは「香取市」。
香取、鹿島は武道の聖地なのです。
しかしこの時まだ、髙山さんは自分の中で新しい事業をやる決心がありませんでした。
ひとまず、ロサンゼルスから古民家を見に来日。
購入を決め、戻ろうとした時、長野にいた母親が肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)で倒れました。
1人でお風呂に入れない状態となり、何とか施設に入所。
ところが施設からは、「連絡があったらすぐ来られる状態にしてほしい」と言われたのです。
母子家庭で、頼れる親戚もいない髙山さんは、突如ロサンゼルスに戻れない事態となりました。
大東流合気柔術LA同好会は仲間に引き継いでもらい、2024年に古民家のある香取市に引っ越しました。
現在、古民家の改修を進めながら、香取市で自身の道場「剛武館」を立ち上げ、大極法、大東流合気柔術、棒手裏剣の稽古などを行っています。
剛武館の武道と健康
紳士的で、柔和な髙山さん。
武道との関わりを取り戻したタイミングで、キリスト教に改宗しています。
その精神は、剛武館の目指す武道にも示されています。
「聖書により、心の安寧を持ち、武道修行を通して、義を貫く精神と健全な体を作り、”矛を止める”という武士の本来の意味を求めて、他者との調和とセルフディフェンスを主とする武道」
髙山さん曰く、子供に広めるにはゲーム性が必要なので、現在の剣道や柔道のような試合重視となります。試合重視は過去の髙山さんのように、怪我や故障と隣り合わせです。
一方で、今も残る古流剣術や居合は呼吸法や精神性も重視し、引退という概念はありません。
こうした古い武道は力で相手を倒すのではなく、呼吸を使うそうです。
生活でも、困ったり焦ったりすると呼吸が乱れます。武道の呼吸法を知っていれば、一般生活に使うことができます。
髙山さんは先日、思いつめて入水した85歳の高齢者を助けました。
お世話になっている道場の、活き活きとした先生も85歳。
「年齢は関係ないと感じました。人は悩むことがあります。鬱になったり絶望的になったとしても、呼吸法を知っていれば自分を取り戻すことができます。一方で、その解決方法を知らないと、結果が大きく変わってしまう」
大極法の呼吸法は立っていればどこでもできる、と髙山さんは言います。
失われつつある武道の呼吸法を広めていけたら、もっと多くの人の役に立つのではないか。
「呼吸法と歩き方ができていれば、身体のゆがみがなくなるはずです。私も姿勢が悪くてすぐ戻っちゃうので、毎日やってます」
そう軽やかに言う髙山さんは今、香取市で大極法を教えています。
<教室情報>
内容:大極法・腰痛体操
場所:みんなの賑わい拠点コンパス(千葉県香取市佐原イ134-3)
時間:19:00-20:00
開催日:毎週木曜日
内容:手裏剣教室(子供可)
場所:佐原町並み交流館(千葉県香取市佐原イ1903-1)
時間:13:00-15:00
開催日:毎週土曜日
HP
https://jujiya.witusa.com/pages/about-gobukan
投稿時点の情報、詳細は教室にご確認ください。
<香取市への移住相談など>
香取市企画政策課 (電話 0478-50-1206)
https://www.city.katori.lg.jp/smph/government/plan_policy/ijuu_teijuu/index.html
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