移住者プロフィール
志村さん
利用した支援制度
なし
家族構成…ご夫婦 どちらから移住しましたか…山口市→パリ→佐倉市→香取市 移住して何年ですか…5年 移住前のお仕事…信裕さん 現代美術作家、いづみさん 金継 移住後のお仕事…同じ
都市か、田舎か。古民家との出会い
「こちらにどうぞ」
通されたのは、明治築の古民家の土間からあがる小部屋。
内装は最近新しくしました、と信裕さん。
その間取りから、かつては使用人が使っていたか、物置だった部屋ではないかと想像がふくらみます。
照明は、自然光。
強い夏の日差しも家の中ではやわらぎ、静かな陰影となり、インタビューに臨む信裕さんといづみさんを浮かび上がらせます。
伊右衛門のCMがとれそうな家ですね、という私たちに信裕さんは笑いながら、
「最初に来たときは物であふれていて、ここに住むという決心をするまで一か月かかりました」
とのこと。
そんな信裕さんといづみさんが出会ったのは、いづみさんの故郷の山口でした。
手がける作品と共に住処を移していた信裕さん。
いづみさんとの結婚後も、パリ、佐倉市と、1、2年で次々と引っ越しをしてきました。
2019年に手がけていた作品がひと段落し、次に行く先を考えていたと言います。
佐倉市の暮らしで、千葉県は食材が豊かであること、東京に仕事で通える距離であることを知ったお二人。
次の住まいの選択肢は東京に戻るか、もっとディープな千葉に行くか、の二つと考えたそうです。
「東京に行って、人がいっぱいいる方がもちろん仕事があります。でも、振り切って誰もいない所で自分たちの仕事に集中するということも考えました」
そんな折に再会したのが、千葉にルーツを持つ美術関係者の方でした。
千葉に良い家はないかと尋ねた信裕さんといづみさんに、香取神宮近くにある母親が住んでいた空き家を紹介してくれたのです。
当時、ずっと人が住んでいなかったというその土地は草ぼうぼう。
草をかき分け進むと見えてきた立派な古民家の姿に、二人は驚きます。
しかし家の中は遺品であふれていて、「住みます」という一言が言えませんでした。
「仕事」への思索と、コロナ禍
当時はコロナ禍前で、都市に意識が集中している時代でした。
草に埋もれ、物にあふれる古民家に住むのは「勇気が要る選択だった」と、信裕さん。
それでもこの土地に惹かれるものを感じたお二人は一か月、考え続けました。
信裕さんのアート作品は、人が見過ごしてたものに光をあてて作品をつくることを意識してきました。
また、いづみさんの金継は、割れた器という価値のなくなったものを生き返らせる技です。
「空き家という価値がなくなったものを生き返らせる、光をあてるというのは、生活そのものが自分たちの仕事とリンクする」
とお二人は考えました。
パリから帰ってきて仕事も安定していない時期で、生活費も少ない。
「お金をかせぐのにエネルギーをかけるよりは、自分たちのペースで生活できる環境をつくることにエネルギーをかけよう」
ついに決心した二人は、3ヶ月かけて家を片付け、香取市に引っ越してきました。
折しもコロナ禍となり、リモートワークの流れが来ました。
信裕さんといづみさんの選択は、最先端となったのです。
ラベルがない、香取市の良さ
住んでみてすごく住みやすいし、ご飯も美味しい。なぜ他の人がもっと住まないのか不思議、というのがいづみさんの香取市の印象です。
香取市での生活の話になると、いづみさんは饒舌になります。
「東京で仕事して、フラストレーションを感じながらも、東京と距離をとることに躊躇する人はいると思うんです。でも東京以外のこうした地域に引っ越して、家賃は安くてご飯も美味しくて、こっちで仕事すればハッピーじゃないですか。香取市は高速バスを使って90分で東京まで行けますし」
様々な地方を経験したお二人が特に驚いたのが、香取市の食の豊かさです。
近所の人がお米や野菜をくれる。
トウモロコシが数百円で袋にいっぱい入っている。
地元の食堂では大盛で料理が出てくる。
野菜の会話を品種名でする。
そんな地方は普通にはなく、江戸の台所を支えた名残があると感じるそうです。
42歳になる志村さんご夫婦。
長く健康で働くために、ヘルシーで美味しいご飯、運動、ストレスのない生活が大切だと考えています。
田舎暮らしで生活も朝型になり、心も体も健康になったと感じています。
そんなお二人にとって重要なのが、香取市への移住にカラーがないことだと言います。
例えば、移住者が集中する地域や、特定の趣向の移住者が集まる地域では、その地の移住者コミュニティのカラーに染まらないといけないのが大変そうだと感じています。
一方で、香取市は特定のラベルがないため、それぞれ個性ある移住が可能とのこと。
「時間がある、食がある、人との距離がほどよい。地方は何もないと言われますが、あるものを見れば、それは都会にはないものなんです」
アートと田舎暮らしの関係性
信裕さんの作品は、光と影をとらえたものが多いように感じます。
インタビューに芯のある言葉をつむぎながら、時々空間を見つめる信裕さんは、常に世界の光と影を追い求めているようにも見えます。
移住による創作活動への影響をうかがうと、
「僕は今までよりも集中できるようになりました。こういう所の方が周りの情報もないし、自分の作りたいものに向き合える。休む時は遠いところに行きます」
と、信裕さん。いづみさんは、
「こちらでは何をするにも時間がかかります。時間がゆっくりなんです。そして、金継で扱う漆は乾くのにすごく時間がかかります。以前は、漆のリズムと都市の消費のリズムが合わないと思っていました。でも、香取市に来てゆっくりしたら、漆が乾くリズムと生活のリズムが馴染んだと感じます」
「東京を否定することもないと思います。結構、頻繁に東京の美術館に行ってます。家とご飯と仕事があれば、ここはストレスがないし、時間の流れや密度が全然違うんです」
信裕さんは最近、香取市が主催したアート展『香取・アート・タイム』に作品を展示しました。
「観に来る人の数は東京よりは少ないですが、都心でやるのと同じ力でやっています。『香取・アート・タイム』では小江戸佐原の歴史ある大きな蔵で展示したのですが、こんなに広い空間を贅沢に使えるのは東京ではできない経験でした」
写真撮影:稲口俊太
香取市には美術館や映画館など、カルチャーを取り入れられる所が少ないことについて聞くと信裕さんは、
「美術館や映画館がないのは正直、住んでいて物足りない所だと思います。一方で、香取市は東京が近いからどこにでも行けるので、インプットする場所は割り切って外に求めています」
またいづみさんも、
「生活も余暇も全部一つの地域に求めると、住む選択肢がなくなっちゃうと思います。香取市に住みながら東京に行き来することで、生活と余暇が別にできるので理想的だと思います」
他にも、アーティストという職業は初めて会う人に自己紹介した時に壁を感じるそうですが、香取市の人は壁がない、とのこと。
「東京に近いからか、閉鎖的じゃないですね」
志村さんご夫婦がお住まいの家は、久兵衛さんという方がつくったそうです。お二人は久兵衛さん家の志村さん、と近所の方から呼ばれています。
「家を作った人は亡くなっていますが、魂はこの地にあるということですよね。そんなところで私たちを受け入れてくれている、と感じます」
そんな信裕さんは最近、香取市の中学校の美術の授業に参加しました。
「作品を創って発表するだけじゃない地域との関わり方がしたいと考えていました。中学校でアート作品を使った対話型鑑賞授業を行い、『答えは一つじゃない、あなたの考えたことが答えです』と最初に伝えたら、先生がびっくりするほど生徒たちが発言していました」
こういう活動の仕方もあるんだと感じた信裕さん。引き続き美術教育に関わりたいと考えています。
「アーティストが来て授業をやる、それが香取市の学校にしかない個性になったら面白いじゃないですか」
<教室などの情報>
志村信裕さんHP
https://www.nshimu.com/
志村信裕さんインスタ
https://www.instagram.com/nshimu/
志村いづみさんHP
https://www.monato.jp/
志村いづみさんインスタ
https://www.instagram.com/kintsugi.izumi/
投稿時点の情報、詳細はSNS等でご確認ください。
<香取市への移住相談など>
香取市企画政策課 (電話 0478-50-1206)
https://www.city.katori.lg.jp/smph/government/plan_policy/ijuu_teijuu/index.html
移住相談LINE
https://lin.ee/Rn03Y9L