移住者プロフィール
ヤミル4Kさん
出身地:メキシコ合衆国チワワ州、前住所:東京都、現住所:山梨県、職業:YouTuber
目次
INDEX
日本に興味を持ったきっかけはアニメ
流暢な日本語と、ユーモア溢れる語り口で日本の魅力を発信するYouTuber・ヤミル4Kさん。見る人をクスっと笑わせるような動画の端々に、ヤミルさんの温かな人柄が滲み出ている。
生まれは、メキシコ北部のチワワ州。メキシコで一番乾燥した土地で、その大部分が砂漠。暖かい気候ながら、冬になると氷点下になることも珍しくなく、メキシコで唯一、雪が降る場所だという。
両親と4つ年の離れた兄の四人家族。朝から晩まで働き詰めの父とは、高校生になっても一緒に遊びたいと思うほど家族のことが大好きで、反抗期なんてなかった。
温かな記憶を刻んだ故郷を離れ、ヤミルさんが日本にやってきたのは18歳の時。高校を卒業後、交換留学生としてだった。
「日本に興味を持ったきっかけは、アニメの『NARUTO』。13~14歳くらいのときに、大好きで観ていたこのアニメが日本のアニメだと知り、日本に行ってみたいと思うようになりました。忍者……は、さすがにいないけど、アニメに出てくる海や山などの景色を実際に見てみたいと思ったんです」
東京の高校に一年間通ったヤミルさんは、一旦、メキシコに帰国するも、翌年の2017年に再び来日。日本語学校で日本語を本格的に学んだ。
「交換留学生として来たときに、日本をすごく好きになり、もっともっと日本のことを知りたいと思いました。でも、この先ずっと住むのかはすぐには決められなかったので、メキシコに帰ったあと、もう一年住んでみようと思い、日本語学校に入ったんです。学校は楽しかったし、たくさんの良い人たちに恵まれました。その時に決断しました。このまま大学に行って、日本で仕事をしよう、と」
IT企業に就職後、YouTuberに転身
大学では国際ビジネスを学び、卒業後にIT企業へと就職した。
「もともと人と喋ることが好きだったので、営業職が向いているんじゃないかと思い、最初は商社の営業を考えていました。でも、日本の就活は競争が激しい上に、外国人として日本人と争わなければならない。その壁にぶつかってしまいました。それで、(商社は諦め)昔から興味があったIT企業に入ることにしたんです」
IT企業での業務は楽しく、学べることもたくさんあった。先輩にも恵まれ、会社の居心地も良かった。しかし、この時すでにYouTuberとして活動を始めていたヤミルさんは、ある決断をする。
「最初に始めたスペイン語圏向けのYouTubeチャンネル『Yamil4K』が収益化をしてきて、それだけである程度は生活できるレベルになっていました。このまま朝9時~夜6時までの仕事を続けるのか、スケジュールを自分で決められるYouTuberをやるのか。そう考えた時に、すべてが自分次第のYouTubeのほうが学べることが多いんじゃないかと思ったんですよね」
思い切って半年で会社を退職したヤミルさんは、職業・YouTuberとして活動する道を選んだ。
東京→山梨へ移住。決め手は故郷を思い出したこと
そんなヤミルさんが、山梨県へと移住したのは2022年。再来日してから5年目の年だった。
山梨県には大学時代に友人と共に訪れ、「居心地のよい場所だな」と感じたのが最初の印象。その後、月に2~3回のペースで遊びに行っているうちに、「YouTuberとしてやっていくなら、山梨に住むのも“アリ”なんじゃないか」と思うようになったという。
「東京で会社勤めをしていた時は、大都会で暮らすのもいいなと思う一方、わざわざ公園などに出かけて、お花や紅葉を見ないと四季を感じられない環境を寂しくも感じていました。また、YouTubeの配信をするには、撮影場所や機材置き場など、広いスペースを確保できる家が必要です。しかし、東京では高額な家賃を払うか、節約して小さい家で我慢するかという選択肢になってしまいます。
その点、山梨はただ外に出るだけで季節を感じられるし、空気も綺麗。住まいに関しても、広い部屋を安く借りられます。YouTuberとして仕事しやすい環境だと思いました」
最終的に移住の決め手になったのは、山梨県の人の温かさに触れたことだった。
「山梨では外を歩いているだけで、小学生や中学生が挨拶してくれるんです。『おはようございます!』という一言だけでも、元気をもらえますね。実は、知らない人に挨拶するのはメキシコではとても自然なこと。ハグしたり頬にキスしたりもするんですよ。故郷のことを思い出し、『ここで暮らそう』と心が決まりました」
人と人の距離が近く、「一人じゃない」と思える場所
「人の温かさ」は、山梨県で生活を始めてからも折に触れて感じているという。
「これは東京では絶対にやらなかったことですが、引っ越しをした時、お土産を持ってご近所さんに挨拶をしに行きました。それからは、外でバッタリ会ったりしたら、必ず挨拶を交わしています。地元の人がいろいろな人を紹介してくださったり、お家に招待していただくこともあります。
日本に来て、知らない者同士のコミュニケーションが少ないと感じていましたが、それは東京だからだったんだなと思いました。山梨は人と人との距離が近く、何か困ったことがあったら必ず誰かを頼りにできるので、一人じゃないと思えます」
農家さんから大量の野菜や果物をお裾分けしてもらうこともある。そうした頂き物が多いため、「外食するのはもったいない」と思うようになったという。
「早く料理しないとダメにしてしまうほど、たくさんの野菜をいただくので、毎日毎日、野菜料理を作って生きています。最近ハマっているのは、チンジャオロース。お肉の代わりにソイミートを使い、いただいたピーマンや白茄子と一緒に炒めます。人からいただいたもので料理をすると、スーパーで買った素材で作るよりも、さらに美味しく感じますね」
YouTubeを始めた目的は“友達づくり”
移住後、ヤミルさんは日本向けのYouTubeチャンネル「ヤミル4K」も開設した。
そもそもYouTubeを始めたのは、日本にメキシコ人や母国語であるスペイン語を話す友達がいないという悩みからだったという。
「大学生の頃までは日本人の友達に囲まれ、そのおかげで日本語も喋れるようになったので良かったのですが、やっぱりメキシコ人と話したり、笑い合ったり、お酒を飲んだりしたいという気持ちもありました。
そうした友達を作るには、日本に住んでいるメキシコ人にSNSなどで連絡してみるという方法もありますが、それよりも、YouTubeで配信をしてたくさんの人から連絡してもらった方が効率が良いんじゃないかなと思ったんです(笑)。それでスペイン語圏向けのYouTubeチャンネルを始めました」
チャンネルは順調に登録者数を伸ばし、現在、登録者数は560万人以上にも及ぶ。「メキシコ人と友達になる」という目標もわずか数カ月で叶ったという。お菓子やアニメなど、日本のポップカルチャーを紹介する動画が人気を集めた。
「“日本の文化”というと固い言葉に感じられてしまうので、そうではなくて、日本のアニメキャラクターがパッケージになっているお菓子を紹介したり、日本語や日本人の生活などをテーマに、笑いを交えながら配信しています」
日本人にも“日本の良さ”を知ってほしい
スペイン語圏で数多くのファンを獲得し、すべては順風満帆に思われたものの、ヤミルさんは次第に、「YouTubeをやっている手ごたえを感じられなくなっていった」と話す。
「チャンネルの登録者は、ほとんどがメキシコやスペイン語圏の国に住んでいる人たちです。コメントは書いてくださるけど、直接、反応をもらえるわけではないので、だんだんと誰にも伝えられていないような気持ちになってきました。それで、日本人に向けた発信もしたいなと思ったんです」
そこで、移住後、日本人向けのYouTubeチャンネルを開設。始めるにあたっては、日本人がどのような内容に興味があるのかを何カ月もかけて研究した。
「最終的に、日本に住む外国人、そして山梨県在住というポジションを生かすことにしました。外国人の視点で山梨の生活を紹介したら、日本人に日本の良さをもっと感じてもらえるし、僕自身も山梨県のことを勉強をする機会にもなるんじゃないかと思って」
始めてまだ数カ月だが、反応は良好だ。「日本人だけどそれは知らなかった」といった反応が嬉しく、活動のモチベーションになっている。
テレビでの発信も視野に活動中
さらに最近、とても嬉しい出来事があったそうだ。
「先日、東京駅を歩いていたら、メキシコ人に声をかけられました。僕のYouTubeのファンの方で、動画を見て『日本に行きたいと思いました』と。それを聞いたときは、涙が出るほど嬉しかったですね。『日本に引っ越したら、東京じゃなくて田舎に行きたい』と言ってくださった方もいて、まさに僕はこのためにYouTubeをやっているんだと思いましたね」
現在、山梨のホテルやレストランとのコラボレーション企画も進行中で、今後は、YouTubeだけでなく、「テレビからの発信もしていきたい」と意気込みを語る。
「YouTubeの視聴者は若い世代が多いので、それだけだと限られた年齢層にしか届かない。活動の場をテレビにも広げられたら、もっと上の世代にも届けられるんじゃないかと思っています。今、山梨のテレビ局の方と話を進めていて、コラボレーションの方法を模索中です!」
寂しさを感じている人こそ地方へ
今後のさらなる活躍が楽しみなヤミル4Kさん。最後に、移住を検討している人に向けてメッセ―ジをいただいた。
「東京のような大都会は、人が多いから寂しくないと思われがちです。人が多いからこそ、友達がたくさんできる。たくさんのご縁がある。そう考えている人は少なくないと思います。
でも実は、山梨県のような地方こそ、人口は少ないけど、大切な友達もできるし、ご近所づきあいも広がる。自然と交流の輪が広がっていくのは、地方ならではだと感じます。もし今、寂しさを感じていて、もっと人と関わりたいと思っている人は、人と人の関係性が濃い地方に移住したほうがよいのではないかと思います」
寂しさとは、人との関わりだけでなく、自分自身との付き合い方とも関係しているとヤミルさんは話す。
「自分を好きになれれば、寂しくありません。山梨にいると、美しい自然に囲まれ、素敵な人たちともたくさん出会える。自分のことも好きにもなれる場所だと思いますよ」
メキシコから日本へ、そして東京から山梨へと二度の移住を経験したヤミル4Kさん。北海道から沖縄まで日本各地に足を運んだことがあるが、「これからも、日本でいつでも帰れる場所は山梨がいい」と話す。ヤミルさんにとって山梨は第二の故郷となりつつあるのだろう。
地方移住とはそのように、自分がいつでも立ち戻れる心の拠り所をいくつも増やす試みでもあるのかもしれない。