移住者プロフィール
ゴウさん マナミさん
利用した支援制度
リフォーム補助金制度、若者移住応援制度
出身地:兵庫県、前住所:兵庫県神戸市、現住所:兵庫県丹波篠山市、職業:フリーランス・YouTuber
目次
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コロナ禍に見舞われながらも、人生の節目に移住を決意
神戸で会社員として働いていたゴウさんと、保育士をしていたマナミさん。30歳を過ぎて結婚し、年齢的にも今が人生を見つめ直すタイミングだと考えた二人は、それぞれ仕事を辞める決断をした。しかし、勤務を終えた2020年3月は、コロナの感染が拡大し、社会全体が混乱に向かい始めた時期だった。
ゴウさん:「当初は、仕事を辞めたら一年くらいかけてバンライフをする計画をしていたんです。大きなバンに荷物を積んで国内外を旅しながら、今後の働き方や生き方の地盤を固めていけたらいいよね、と。でもコロナで外出することすらできなくなってしまった」
計画変更を余儀なくされ、新たな選択肢として考えたのが移住だった。このまま神戸に住み続ける理由もない。都会を離れ、固定費を安く抑えられる地方に移住したほうがいいのではないか。
二人は、マナミさんの実家が近い丹波篠山市を中心に、早速、物件探しを始めた。大手の不動産ポータルサイト、地元の不動産屋、空き家バンクなど、考えられる手段はすべて使って探したという。
マナミさん:「300万~400万円の価格帯の物件を中心に20軒近く内見しましたが、雨漏りしているし、動物が入った後があるし、お風呂がないし…と、状態の良くない物件がほとんどでした。
そんな中で出会ったのが、空き家バンクに登録されていた築40年の物件(上掲写真)。直前まで人が住んでいたこともあって、比較的綺麗な状態でした。家主の方と値段の交渉をしたら『100万円でいいよ』と言ってくださったので、もうここしかないと思って購入。2020年5月に移住しました」
丹波篠山は「ちょうど良い田舎」。移住制度や子育て支援も充実
ゴウさん・マナミさんが移住した丹波篠山市は、兵庫県の中東部に位置する人口4万人ほどの土地。徳川家康が築いた篠山城の城下町として栄え、京都へ向かう交通の要所ともなっていたことから、京文化の影響を色濃く残した古い町並みが今も姿をとどめている。
ゴウさん:「京都・大阪・神戸いずれの都市からも車で1時間半~2時間ほど。大阪であれば、電車で1時間ほどで行けるアクセスの良さも魅力です。『田舎暮らしはしたいけど、時々都会にも行きたい』というのが譲れない条件だったので、僕たちにとっては最適の場所でした」
マナミさん:「家は住宅が立ち並ぶうちの一軒で、近くには田んぼや川、大きな公園などもあり緑豊かです。スーパーにも車で5~10分で行けるので特に不便は感じません。『田舎暮らし』と聞いて想像するような人里離れた一軒家というわけではなく、まさに『ちょうど良い田舎』という感じの場所です」
移住に際しては、リフォームの補助金制度や若者を対象にした移住応援制度などを利用し、合計100万円ほどの補助金を受け取れたという。移住者が増えていることもあって、受け入れに慣れている地元の人が多く、二人も温かく迎え入れてもらった。
実際に暮らし始めてからは、ご近所さんが旬の野菜を分けてくれたり、「YouTube見たよ」と声をかけてくれたりもするという。
子育て世代に向けた支援も充実している。移住後に出産したマナミさんは、自治体が新しく始めた「My助産師」制度を利用した。妊婦一人一人に担当助産師がつき、出産前から出産後まで継続してサポートしてくれる制度だ。
担当の助産師さんから「困ったことがあったらいつでも電話してくださいね」と声をかけてもらい、心強かったというマナミさんは、実際に色々と相談させてもらったという。
マナミさん:「ほかにも、気軽にママたちが行ける町のコミュニティもありますし、近所の方もすごく気にかけてくれます。神戸にいたままだったら、『泣き声に苦情がきたらどうしよう』と心配したと思いますが、ここでは『泣き声聞こえて元気やね』『いいことや』と言ってもらえます。町全体で見守ってくれている感じがすごく温かいです」
思いがけず取り組むことになったDIYとYouTube
移住後、ゴウさんとマナミさんは「DIY-FUFU」という夫婦ユニットを組み、購入した築40年の物件をセルフリノベーション。その様子をYouTubeやSNSに投稿し始めた。しかし、移住を決めた当初から家のDIYを考えていたわけではなかったという。
マナミさん:「購入した家の状態は比較的良かったとはいえ、お風呂は昔ながらの造りでそのまま使うのには抵抗があったので、キッチンを含めた水回りは生活スタイルに合わせて、地元の工務店さんにリフォームしてもらいました。そのリフォーム代で資金を使い切ってしまったので、残りは自分たちでDIYすることにしたんです」
それまでDIYをしたことがなかったという二人。「せっかくやるならその記録を動画に撮っておいた方が面白いのではないか」と考え、YouTubeへの投稿も始めた。改修前の家の様子から始まり、床の張り替えや壁の漆喰塗り、下駄箱やポストの製作など、少しずつDIYで家をリノベーションしていく様子が記録されている。
DlY初心者とは思えないほど本格的なリノベーションをこなし、見違えるように家が生まれ変わっていく様子は、一視聴者として見ていてとてもワクワクする。その一方、慣れないうちは試行錯誤を繰り返し、思うような仕上がりにならなくても、ゆったりと受け止める二人の姿も印象的だ。
マナミさん:「はじめて漆喰を塗った壁なんてすごく汚いんですけど、だからこそ愛着も湧きます。DIYの魅力はすべてが思い出になるところ。ふと見たときに『頑張って塗ったな』というそのときの思い出が甦ってきて、上手下手とかじゃなく『いい味や』と思えるんです」
「DIY-FUFU」のYouTubeチャンネルは、今では登録者を多数抱える人気チャンネルに成長。しかし、開設当初は見てもらえない時期が長く続いたという。もともと動画の撮影・編集の経験があったわけではなく、SNSにも疎かったため、アカウントを作るところからのスタートだった。
ゴウさん:「YouTubeに関しては、人に見てもらえるコンテンツを作るのはもちろん大事だし、アルゴリズムに適した投稿をすることも大事。そういうことを徐々に学んでいきました。夫婦で仲良くDIYするという、一つのテーマでコツコツ地道に投稿を続けていたら、次第に視聴数も増えていきましたね」
マナミさん「企画はそれぞれで考えて、基本的に発案したほうが責任をもって構成・編集するルール。意見の食い違いでケンカになることもあります(笑)」
地域コミュニティに支えられながら次なる挑戦へ
現在はDIYだけでなく、新たな取り組みにも力を入れている。その1つがコワーキングスペースの運営だ。
ゴウさん「丹波篠山には、ふらっと立ち寄って仕事ができるような、ネット環境の整った場所がほとんどありませんでした。移住者が増えて、若い世代のコミュニティが次々と生まれている中で、集まる場所は誰かの家であることも多くて。もっと地域に開かれた、誰もが気軽に立ち寄れる場所を作りたいと思ったんです」
家のリフォームをお願いして以来、親しい付き合いをしている工務店さんにその考えを提案したところ、所有するモデルハウスを使わせてもらえることになった。
ゴウさん「モデルハウスの見学会は頻繁にあるわけでないので、空いている時間を有効活用して、コワーキングスペースとして日中解放することになりました。2022年春から運営できるよう準備しています」
ほかにも、モデルハウスの隣に建つ築100年の古民家再生にも取り組み中。ゴウさんはその一室でコーヒーの焙煎を始めた。
移住してから知り合った方に監修してもらい、焙煎やブレンドについて一から勉強したという。同じくマナミさんも、コーヒーに合うオリジナルのクッキー作りを行っている。現在、オンラインショップで販売中だ。
マナミさん:「スウェーデンには、家族でコーヒーと甘いお菓子を楽しむ『Fika(フィーカ)』という文化があるそうです。私たちも『Fikaしよう』を合言葉に、仕事の合間に手を休めてゆっくりとコーヒーを飲む時間を大切にしています。
生活の中のそういう小さな余白に、すごく幸せを感じるんです。コーヒーやお菓子を手作りしてお届けしようというのも、この思いが出発点になっています」
情報過多の都会を離れ、手に入れた心地よい場所
仕事を辞め、神戸から丹波篠山に移住して約2年が経つ。都市部を離れ、地方の新たなコミュニティへと身を投じたことで、人や情報との関わり方にも変化があったという。
マナミさん「ここでは、自分たちさえオープンにしていれば、自然と同世代の人や移住者仲間とつながっていきます。やっぱりSNSの力は大きいですね。カフェやゲストハウスなど、個人で何かやりたくて移住してきている人がほとんどなので、情報交換したり、励まし合ったりできるコミュニティの広がりはすごく嬉しいです」
ゴウさん:「都会にいると、駅を歩けば嫌でも広告が目に入るし、SNSを開けばあらゆる人の近況が報告されてきますよね。その量はもう人間の処理能力を超えていると思うんです。
丹波篠山はこぢんまりとした町で、やたらと広告が目に飛び込んでくることもないし、それで物欲を刺激されることも減りました。特に意識しなくても、情報の量や関わる人の数が狭く深く適正化されていって、心地よく生きられているなという感覚があります」
今後も、YouTubeでDIYの発信を続けながら、コワーキングスペースの運営を軸に、コーヒー焙煎・お菓子の販売に力を入れていきたいと話す。
マナミさん:「もともと『生活することが仕事になったらいい』と思っていたので、移住して日々の暮らしの中で感じた課題をDIYで解決したり、自分たちが大切にしたい思いを叶えていくことが、そのまま働くことにつながったのは嬉しいことでした。
『今日は息子とゆっくり過ごしたい』とか、そういう選択を自分たちの裁量でできる暮らしはすごく幸せです。そんな幸せの『お福分け』を、コワーキングやコーヒー・お菓子のセットでお届けできたらと思っています」
ゴウさん:「僕たちは、表向きは『DIYしているYouTuber』なのかもしれませんが、本当はもう少し広い視野で考えているつもりです。これから時代が変わっていく中で、人生を見つめ直す手段として地方移住を考えたり、複数の仕事をする『複業』を選んだり、それをフリーランスでやってみたり…そういう新しい生き方を選択する人に、僕たちの取り組みをひとつのロールモデルとして役立ててもらえたらと、そんな思いで活動を続けています」
大事なのは計画と思い切り。移住の決断はいくつになっても遅くない
最後に、これから移住を考える人に向けてゴウさん・マナミさんからメッセ―ジをいただいた。
ゴウさん:「移住はもちろん、うまくいくことばかりではありません。冬場の電気代や定期的な草刈り…些細なことでも住み続けてみると『こんなはずじゃなかった』と負担に感じることも多い。なので、とりあえず1年くらいお試し移住をしてみたり、興味のある自治体に通って四季を体感してみたりして、長期的なプランを立てることをおすすめします」
その一方で、移住は自分の置かれた環境を変えるにはとても有効な手段でもあるという。
ゴウさん:「自分の性格を変えるのは難しいし、まして他人を変えるのはもっと無理な話で、自らの意志で変えられるのは環境くらい。新しいことに挑戦するときって何かと難しく考えがちですが、思い切ってやってみたら意外とすんなりいくもの。それが実際に移住した僕たちの素直な感想です」
マナミさん:「私たちは『コップの水理論』と呼んでるんですが、コップに並々と水が入っていると、新たに注ぐことができないし、注いでも溢れてしまいますよね。だから、その水を少しこぼしてみるんです。余裕がないと新しいことを始める気持ちにもなれないので、まずは抱えているものを少し手放してみる。
その空いたスペースに、どんどん新しいものが入ってきます。私たちは30歳を機に移住を決断しましたが、40歳だろうが50歳だろうが遅いことなんてないと思います」
リモートワークの普及も追い風となって、働き方はますます多様化してきている。選択肢が増える分、自分にとって何が最適解なのか見極めるのが難しくなっていく面もあるだろう。
そんな中、機を逃すことなく移住を決め、次々に新しいことに挑戦しているゴウさん・マナミさんの選択はとても参考になる。長期的に計画を立てる「慎重さ」と、リスクを引き受けて挑戦する「思い切り」。その両方のバランスがとれたところに、移住の成功があるのかもしれない。