移住者プロフィール
坂内 まゆ子さん
移住時期
2011年
出身地:山形県、現住所:福島県福島市、職業: デザイン&企画事務所「FRIDAY SCREEN」
目次
INDEX
震災を通じて再認識した「ふるさと福島市」への思いがあったそうですね
坂内まゆ子さん(以下、坂内):地元福島市を離れ、山形県での生活を始めたのは、美術大学への進学がきっかけです。白い布が一瞬で思い描いた色や形に染めあがることの楽しさに魅了されました。布の染色やテキスタイルデザインに初めて授業で触れたときから”これだ!”と思ったんです。
大学院卒業後は、福島県の芸術文化事業に携わる予定でしたが、震災の影響で内定していた事業は中止になってしまいました。
行き場を失い、改めて将来について考えましたが、考えるのはふるさと福島のことでした。これからの福島がどうなっていくのか、私もその場でちゃんと感じなければと思ったんです。
震災後に戻るというのは勇気がいったのでは?
坂内:まだ帰るのは危険だと、引き留めてくれた山形の友人もいました。でも、地元の福島が危険地帯のように思われるのも悔しくて、居ても立ってもいられなかったのです。震災の年の夏、なかば強引に帰ってきましたが、以前と変わらない福島市の雰囲気に安心しました。福島にはちゃんと日常の暮らしがありました。
福島市の真ん中にある小高い山の信夫山には青々と若葉が茂っていて、『あ、なんか大丈夫だ、福島は再生できる』ってほっとしたこと、今でも鮮明に覚えています。福島市は盆地なので、どこにいても山が見えて自然を感じることができます。何が起ころうと季節通りに巡る自然の雄大さ、力強さにはとても励まされました。
福島市へ移住後はどう過ごしていましたか?
坂内:Uターン後しばらくは、作品制作や個展などでテキスタイルアーティストとしての活動を行っていました。震災1年後経ったころからは福島県の文化事業など、現在の仕事につながる企画や広報について経験を積む機会をいただきました。
どんどん活動が広がっていったのですね
坂内:これまでの経験を経て、2015年に夫婦で、デザイン&企画事務所「FRIDAY SCREEN」を立ち上げました。同年にスタートした「マルクト朝市」は、生産者と消費者が触れ合える、暮らしに根づいた朝市です。ライフワークのように続けているイベントのひとつです。
開催は毎月第4日曜日。場所は2カ月ごとを目安にあちこちに変わるのも特徴です。小さくてもいいから、日常になるようなイベントがやりたい。それがこの朝市をスタートしたときの思いです。地元の人が「福島市に住むって楽しい」と思えるような、暮らしの延長にあるイベントがあったらいいなと考えました。
町の人たちの反応はいかがでしたか?
坂内:福島市民からも『意外と行ったことがなかった』『こんないいところがあったんだ!』なんて言葉をもらうのがうれしくて、候補地のリサーチはすっかり私の日常になりました。
ドライブがてら、ちょっとこの道を曲がってみようなんて街を探索していると、あるんですよね、すてきな出会い。地元をはじめとするお客さんはもちろん、出店者や私自身も交流の場として楽しみにしています。
軌道に乗り始めた頃のコロナだったんですね
坂内:2020年に入ってからは、新型コロナウイルスの影響を考慮し、新たな活動を検討中です。「マルクト朝市」は買い物だけでなく、おしゃべりを楽しむ場所です。コミュニケーションをとれない中で無理やり開催するのはちょっと違うと思い、お休みしています。
そこで始めたのが、インターネットから注文できる「マルクト朝市おとどけ便」です。ありがたいことに、リピーター様もいらっしゃいます。
東京など遠方からの注文を予想していましたが、それよりは県内、更に近場からの注文が多いのです。思いがちゃんと伝わっているんだと実感した、面白い発見でした。お客様に直接届けに伺いたいくらいの思いです!
新しいアイデアも浮かんできたそうですね
坂内:「マルクト朝市」の出店者さん一人一人とコラボレーションして、新しいことが出来ないか模索中です。その試みの第一弾として、「Cafe&books清学舎」と始めたのが、選書サービスです。
清学舎から送られてきた「Book Log」というノートの中に書かれた様々な質問に回答し、送り返すことで、回答者にぴったりの本が複数冊送られてくるというものです。注文から届くまで1か月程度頂きますが、待つ時間も含めて楽しんでいただければと。これからも売るだけではない仕組みを続けていきたいなと思っています。
福島市の魅力を教えてください
坂内:朝市で感じることは、福島市民ののんびり気質と控えめなところです。商売をしている人もどこか控えめなんですよね。『もっと宣伝しましょう!こんなすてきなお店なんだから、みんなに知ってほしい!』と提案しても、『いや~、人がいっぱい来すぎたら、こまっぺした(困るでしょ)』『うちは食っていければいいんだぁ』なんて笑う方も多いんです。
朝市の出店者には山形の生産者さんもいますが、『福島のお客さんはすごくやさしい!』っておっしゃいます。
街を探索していると、商店街から離れたところにも、ぽつんと味のあるお店があります。かわいい、おいしいお店が点在しているのも、福島市のおもしろいところですね。
お子さんがいらっしゃるとのことですが、子育てしながらのお仕事は大変ですか?
坂内:仕事する一方で子育ての真っ只中です。生活リズムも大きく変わり視点も変わってきました。仕事のペース配分、母親目線でイベント運営を見直すと、授乳室の設営やベビーカーでも動きやすい動線など、気づいたこともたくさんありました。
基本的に平日は保育園にお世話になっています。仕事の都合上、どうしても構えない時は、ファミリーサポートのお世話になったり。
ご近所の、元看護師さんで、成人しているお子さんがいらっしゃる世代の会員さんの存在はとても心強いです。3時間でも見てもらえると、仕事の進み具合が全然違いますから。なかなか預け先が決まらず、決まっても新型コロナウイルスの影響で預けられない時期もあり、一時期は仕事を諦めたこともありました。
坂内:そんな時は割り切って、毎日のようにピクニックしていましたね。福島市には子供のための施設がたくさんあって楽しいです。特に、松川町の「まつかわタワースライダー」。人工芝だから汚れないし、転んでも痛くないから安心なんです。
あとは福島県立美術館の庭!特に遊具があるわけじゃないけど、適度に広くて自然も多いので、子供が喜んで掛け回っていますね。大人もリフレッシュ出来るので一石二鳥です。もう少し大きくなったら信夫山でも遊びたいですね。
お子さんを通しての出会いはありましたか?
坂内:特に子育てサークルなどには所属していないため、福島市主催のお話会などのイベントに参加している程度ですが、施設やイベントを通して出会ったお母さんと、情報交換することが多いです。初めて会ったお母さんに、保育園の情報や離乳食のことを教えてもらったり、逆に、わが子より月齢の低いお母さんに相談されたりします。
情報収集の手段の一つとして、インターネットはもちろんありますが、情報が膨大で錯そうしていて分からなくなることもあって。そんな時、生の声を聞けると安心しますね。
これぞ「お母さんネットワーク」という感じです。母親として「味方が増えた」と感じることもあります。住んでいる地域の3分の2が高齢者世帯なので、赤ちゃんの存在が喜ばれることが嬉しいんです。
町内のイベントの時も、皆さまに大歓迎されて面倒を見ていただきました。町内が一丸となって「子どもは宝」と見守ってくれる安心感があるのでとてもありがたいです。
まだまだ新しいアイデアは尽きませんね
坂内:「YOIKAKI」という柿渋染めの事業を始めました。柿渋は抗菌効果だけでなく、防水、防カビ、防虫、防臭など色んな効果があるんです。その効果を調べるため試験に出したら、とても良い結果が出たんです。福島は全体的に柿が多くて、震災後は冬にも道端に柿が落ちているのが異様な光景で印象に残っていて。
福島の柿を、食べること以外で生かしたいと考えた時に、福島の柿で柿渋が出来たらと考えたんです。新型コロナウイルスの不活性化に効果的で注目されている柿渋です。まずはランドリーバッグのワークショップから始めましたが、他の展開も検討中です。福島市が柿渋の街になったら嬉しいです。
移住を考えている方へメッセージをお願いします
坂内:福島市は、ほどよいサイズ感で住みやすいところです。街らしい便利さもありながら、ちょっと車を走らせれば田園風景が広がっていて、どの方向に向かっても温泉に行き着きます。30万都市で人との適度な距離感がありながらも、誰かと知り合うと誰かとつながっていて、すぐにネットワークができますよ。
よっぽどでない限り、やりたいことが出来るのではないかと思います。背中を押してくれる人にも出会いやすいと思います。子育て真っ最中のファミリーにも、きっと暮らしやすい場所だと思います。
坂内 まゆ子さんおすすめ!
福島でのお気に入りは...「 ペントノート 」
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