移住者プロフィール
大久保 卓哉さん
移住時期
2016年
出身地:福岡県春日市、現住所:長崎県壱岐市郷ノ浦町志原、職業:パン屋「パンプラス」代表
目次
INDEX
地域に馴染むまでにどんな出会いや経験がありましたか?
大久保卓哉さん(以下、大久保):祖父の人脈が後押ししてくれたことは間違いないと思います。本土は、隣近所のつながりがそんなに濃密ではないんですが、壱岐では、同じ地区だったらみんな“顔見知り”なんです。
いろんな話が広まって支援者が出てきてくれたり、“移住者へのウェルカム体制が強い島だな”と感じたのが、移住当初の印象です。事業を興すとなれば、まず第一に考えることが“損益分岐点”だと思うんですが、ここは、「広告宣伝費のいらない島」だということは、本土の方によくお伝えしています(笑)。
人口は減少していますし、人の流通が多い地域ではないので、ビジネスモデルによっては難しさもあると思いますが、「支出が少ない」というメリットがあるのは大きいですよね。
本土ではハードルが高いことも、ここでは可能な域にある等、「島」ならではのメリットが多いと思います。経験談でいえば、市と連携した事業で“販路拡大”が出来たり、地域の事業所とのタイアップにより、“事業拡大”が実現できました。ベクトルが同じ人が多いということも実現の後押しになりましたね。
壱岐の「ここが凄い!」と思うところは、どこですか?
大久保:壱岐は、「食のスペックが高い島」だと思います。『お肉は国産しか買わないよ』という声があったり、鮮度の高い刺身が安価で売っていたり、壱岐の人たちの“舌”は非常に肥えていると思います(笑)。
食への関心が高く、素材のレベルが高いので、飲食業にとっては追い風なのかな。そこに「外のもの」が増えてくれば、壱岐の島暮らしが更に楽しくなると思うし、「今日は壱岐のものを食べよう」となるのでは、と思っています。
壱岐がさらに盛り上がっていくためには、どのような取り組みが必要だと思いますか?
大久保:現状、「外のもの」を待っているという島民が多いように思います。たとえば、大阪の串カツ店が暖簾分けで壱岐に上陸するなんてことを期待したり。飲食に限らず、様々なジャンルの企業がそうだと思いますね。
事業拡大のリスクヘッジで、固定費が安価な壱岐で店舗展開するのは自然な流れです。過疎地域に支店があるというのも、企業として一つの“魅力”だと思うので、そういう形で壱岐の島がフォーカスされるのもアリなのかもしれません。
また、「観光産業」が盛んな地域なので、“壱岐らしさ”を発揮して、“産業流通”という点でも盛り上げてほしいですね。新しいライフスタイルは人口減少の歯止めになるとも思うので。今後、従業員の雇用に力を入れる企業が少しでも増えれば、若者の職業選択の幅も広がりますし、受け皿が多くなっていくことを期待したいです。
創業時と今では、気持ちの変化はありましたか?
大久保:“未来予想図”が変わりました。今後は、「多ブランド展開」をして、事業を多角化していこうと考えています。ベーカリー事業は、飲食業界の中でも一番と言っていいほど特殊で、朝が早いことを理由に、すごく嫌われる業界なんです。パンの供給量や求人や“右肩上がり”でも、それに反して募集は“右肩下がり”だったり。
製パン業者だと思い込んでしまうと、それ以外の思考を持たなくなるし、対応能力の低下と情報収集の幅が狭くなってしまうと思っています。時代はテクノロジーが発展して、機械の方が精度高く、費用も安くなりつつあります。
そんな中我々は、雇用する価値とは、「機械になくて人間にあるもの」と定義付けました。人間にしかないものとして、「感情」と「ルーツ」が挙げられますが、両方とも“人材育成”という観点ではデメリットもありますよね。『あなたの当たり前は私の当たり前じゃない』とか(笑)。でもそれこそが雇用する価値だと思っています。
大久保さんの起業の理由とも関係しているのでは?
大久保:していますね。起業したきっかけは、ソフトボールの生徒の“何気ない一言”だったんです。親戚の紹介で島の子どもたちのソフトボールのコーチをする機会があったんですが、子どもたちと話していて、“壱岐の子どもたちって夢がない子が多いな”と気が付いたんです。
ある小学生に、「プロ野球選手になりたいんか」って聞いた時、返ってきた答えは、『僕、壱岐なんで無理です。』。それを聞いて、その発想ってこの子たちだけのものではないな、と。なので、今の多ブランド展開の考え方というのは「その一言」に繋がってるんです。
転職が当たり前の時代、色んなブランドを展開して事業を多角化することは、社内の中で“転職が出来る”という状態になり、今の子どもたちが選べる職種が増える事につながるんじゃないかな、と。
大久保さんにとっての壱岐を「一言」で表すなら?
大久保:一言でまとめると、「恩」という言葉になるのかな。具体的に話すと、「原点」と「地域ブランド」 ですね。地域の人たちを始め、創業時に応援してくれた人、役所の人たち、色々な人の力を借りて、この場所で興すことができた会社です。
それがなかったら、当然今はないですから、そういう意味で「原点」。 あと、本土の人には、『九州って食べ物がおいしいよね』という根強いイメージがある。確かに壱岐は地理的デメリットこそありますが、それに勝る「食材の宝島」でもあり、食のトップを走っている一角なんです。どれだけそれが大きな『価値』か。
我々の仕事も、「壱岐」という“ブランド”に後押ししてもらっているんです。壱岐牛カレーパンを引っ提げて、福島から沖縄まで色々行った結果、今の考えに至っています。